第53話 義兄妹と義姉

「なるほどね。二人は勇者と神装?だったけ。を探して旅してるんだね」


 俺たちは走竜を倒した場所いから少し移動し、魔物の視線から身を隠せる場所で話をしている。

 ついでに言うと月奈はフィートになつかれたらしく、一緒に遊んでいる。


「はい。なのでカグラさん神装について何か知りませんか?」


 カグラさんの場合は鞭の神装だと思うんですが、と俺が聞く。だがカグラさんは少し考える素振りをし首を横に振る。


「ごめんね。わたしは聞いたことないな。メイさんは?」


 カグラさんが後ろの方で魔物の警戒をしているメイさんに聞くが、メイさんは首に手を当てて考える。


「そう、ですね。……私も、鞭の神装というのは分かりませんね」


 二人とも分からないか。…さて、どうする。せっかく会えた勇者の一人だし、天も急いでほしいと言っていたし。


 俺が考えていると、メイさんが「ですが、」と口を開く。


「ですが。…国王なら知っているかもしれません」


「国王。それってカグラさんの転移先だった国の国王ですか?」


「はい。その国王です。私たちはこれから国に戻るので、ご一緒にいかがでしょう?」


 転移先の国王。それなら情報も持ってそうではあるな。


 ちなみにカグラさんとメイさんは一時的に国の外に出ていただけらしい。

 一応カグラさんは重要な勇者だが、月に数回外出をすることが許されているそうだ。


「いいんじゃないですか?トライド王国までの寄り道にはなりますが、ここまでずっと野宿でしたし、兄さんも魔物を気にせず眠れますし」


 月奈はフィート抱き上げ、俺の元へ歩きながら言う。


「そうだな。ここで途中休憩だと思えば、……けど俺たちがいきなり行って国王と謁見できるんですかね?」


 俺が懸念していること聞く。

 カグラさんがいればどうにかなるかもしれないが、相手は国王。偶然会った冒険者を信用してもらえるとは思えない。


「…確かに、すぐに謁見は難しいかもしれませんね。それに謁見は出来ても、その後我々と会うのが難しくなるかもしれません。王は少し頭の固い方なので」


 ……そう言われると、たしかに。光太の場合は師匠が居たし、国王があんな感じの人だったからどうにかなったようなもの。


 俺たちだけでは勇者との繋がりの証明が難しいし、王城に滞在したり頻繁に会うのも無理だな。


 そんな立ちはだかる問題に俺たちは思考を巡らせる。


 やがてカグラさんが、「あっ!」と声を出し、俺たちは顔を上げてカグラさんの方を見る。


「つまりさ、わたしと冷夜くん、月奈ちゃんに繋がりがあればいいんだよね!」


「はい、そうですが。繋がりなんて…」


 メイさんは、「無いですよね」と言おうとするがカグラさんは手を伸ばして言葉を止める。


「そう、繋がりは無い。だから作ろう!冷夜くん!」


「え、は、はい!」


 俺はいきなり名前を呼ばれ思わず返事をする。


「月奈ちゃん!」


「は、はい!」


 月奈も少し驚きながら返事をする。

 そしてカグラさんは俺たちの手を握り、


「わたしと、義姉弟妹きょうだいになろう!」


 と、きらきらした目を向けて言った。









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「……義姉弟妹きょうだい、ですか?」


 あまりに突然な言葉に俺は何も言えなく、月奈は驚きながら言う。


「うん。きょうだい。二人は義理の兄妹なんだよね。だからわたしとも姉弟になろう!そうすれば一緒に居られるよね?」


 カグラさんはメイさんに顔を向ける。


「……確かに、皆さんはもともと異世界から来たわけですし、髪も黒い。顔が似ている訳ではありませんが、偶然再会できた義理の姉弟ということであれば通じるかもしれません」


 どうやらメイさんはカグラさんの意見に前向きらしい。

 となると、あとは俺たち次第だが、


「兄さん。私はいいと思います。たぶんこの二人は信頼できますし、それに―」


 月奈は言葉を区切りカグラさんを見る。


「カグラさんは、なんだが私と似てる気がするんです」


 月奈と似てるか…。

 それはきっと見た目などではなく、心、精神的な物だろう。

 そういうことであれば、


「そっか。なら決まりだな。カグラさんこれからとして義姉弟妹きょうだいとしてよろしくお願いします」


 カグラさんは俺の言葉を聞き、顔をほころばせる。


「うん!よろしくね!あ、あとわたしのことはお姉ちゃんって呼んでね?」



 さすがにお姉ちゃんは少し厳しいので、カグラさんのことは姉さん呼びをすることになった。





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