第三章 義兄妹と勇者なる義姉

第52話 義兄妹と鞭の勇者

 俺たちが次の国に向かって旅を始めてから、約一週間。

 トライド王国まで半分ほどまで来た。


 ただ、俺たちは馬車で移動する道をずれ、整備されていないが国までの道のりが短縮できる道を移動している。


 その結果、


「魔物多すぎだろ!」


「仕方ないですよ。人が通らないから魔物が増えてるんですよ。『シャイニングバレット』」


 俺は剣で月奈は魔法で、小型のティラノサウルスのような魔物、いわゆる走竜と戦っている。


 走竜はこの世界では、Bランクの冒険者が対応するような魔物だが俺たちにはそこまで苦戦する敵ではない。


 だが、


「ほんとに多いな!……月奈!この魔物を一か所に集めるから、でかいの頼む!」


「了解です。兄さん!」


 月奈の返事を聞き、俺は剣をしまって師匠から貰った装置(これを「ツールバンド」と名付けた)を構え走る。


「いけ!『粘糸』」


 俺はたくさんの走竜を囲むように走り、粘着性質のある糸を走竜たちに巻き付ける。

 それにより、走竜たちは一つにまとまり、動けなくなる。


「いまだ、月奈!」


「はい!『シャイニングブラスター』」


 月奈の魔法により、巨大な光が一直線に走竜を一掃した。


「よし。おつかれ月奈」


「はい!兄さんもお疲れさまです」


 俺たちはハイタッチをする。


「兄さんすっかり「ツールバンド」を使いこなしてますね」


「そうか?まあ、この辺りは魔物が多しせいで自然と上手くなってるのかもな」


 そう話している内にも新たな魔物がこちらに向かってくる。

 それも大量の魔物が。


「兄さん、また走竜ですよ」


「ああ、しかも黒い瘴気を纏ってるな」


 黒い瘴気、神装の遺跡の道のりにて襲ってきた盗賊が纏っていたのと同じものだ。

 最近では黒い瘴気を纏っている魔物が増えてきている。


 そしてこの黒い瘴気、王国や師匠が盗賊を調べたところ、ほんの少しだが邪神の力を含んでいたらしい。

 だからこそ光太の、勇者の力によって瘴気を消すことができた。


 だが俺たちはそうもいかない。

 ほんの少しとはいえ邪神の力を得た魔物は強力になる。


 つまり黒い瘴気を纏った魔物を倒すのはかなり大変だ、そんなのが大量に向かってくる。


「逃げるか?」


「そうですね。さすがにあの量は厳しいです」


 俺たちは顔を見合わせて頷いて逃げようとするが、


「あの走竜に誰か向かっていってないか?」


 二人の女性が走竜に向かって走っていく姿が見える。


 俺の言葉を受けて月奈は魔眼を使い走竜の方を見る。


「え?…ほんとですね。それもかなりの魔力量、それと……勇者の力?を感じます!」


 勇者の?つまり二人のどちらかが勇者なのか?

 と、なると天が見落としてたことになるが……。


「…考えても仕方ないな。行ってみるか」


「そうですね。あの量はさすがに二人では対処出来ないでしょうし」


 俺は月奈をお姫様抱っこしブーツに魔力を込めて走る。

















 _____________________


「あー。ちょっとこれ、やばかったかな?」


 と、走竜に鞭を振るう、長く青黒い髪を持つ女性。

 その髪は月奈よりも長く腰に届くほどだ。



「かなりやばいですよ。あれほど言ったではありませんか」


 と言いながら剣を振るうメイド服を着た肩ほどまでの長さの金髪の女性。


 鞭を振るう女性が瘴気を消しながら、メイドが走竜を倒していく。


「ほんとに、きついね。よし!じゃあ、おいで!『フィート』」


 鞭を振るう女性は魔法陣から、羽の生えた黒い猫を呼びだす。


「ミャー」


「よーし。フィート、手伝って!」


「ミャ!」


 フィートは空を飛び、走竜に向かって火を吹く。


「よし、フィート!いい感じだよ!」


「ミャ♪」


 鞭を振るう女性とフィートは喜び合う。

 だがそこにはまだ大量の走竜がいる。


「あの。カグラさま。喜んでいるところ申し訳ありませんが、このままでは本当にやばいですよ!」


 メイドは叫びながら剣を振るう。


「ほんと、どうしよう?さすがにこんな場所で助けなんて来てくれな、「『シャイニングバレット』」え!?」


 大量の光弾が走竜たちを打ち抜いた。


「えっ、今のは?」


 カグラと呼ばれた女性は、突然飛んできた魔法に驚き足を止める。

 それが、隙となり攻撃をされてしまう。


「カグラさま!危ない!」


「え?」


 カグラは振り向くが、走竜の牙がすぐそこまで迫ってきている。

 が、


「『粘糸』」


 糸によって走竜はとらえられ、カグラはその隙に走竜から離れる。


「おお、何この糸。それにさっきの魔法も」


「ミャ!ミャミャ、ミャー!」


「え、なに?あっち?」


 カグラはフィートが鳴く方向を見る。


 そこには、


「よし、あと少しだ。いけるか月奈?」


「はい、兄さん!」


 剣と杖を構える、二人がいた。

















 _____________________________


「よし、行くぞ!」


 俺は、ブーツに魔力を込めて走竜に接近する。


「はぁっ!」


 俺は、走竜を切り裂いていく。


「『シャイニングバレット』」


 月奈も魔法で走竜を打ち抜いていく。


「おおー、二人とも強いね。あ、その飛んでる子は攻撃しないでね」


「え?はい、了解です」


 飛んでる子。ってこの翼の生えた黒猫のことか。


「ミャ!」


 俺が見ていると、黒猫が火を吹く。


 ……飛んで火を吐く猫って。まぁ、今は気にしないでおこう。


 そうしてすべての走竜を倒し終える。


「ふぅ~。お疲れ月奈」


「はい。お疲れ様です兄さん」


 俺は剣を鞘に納め、月奈は腕輪に杖をしまう。


「ありがとうフィート。メイさんも」


「ミャ!」


「カグラさま。次からこんな無茶はやめてくださいね」


 フィートは嬉しそうに鳴き、メイドはあきれたように言う。


「あと、二人も助けてくれてありがとうね」


 カグラたちはこちらを向いてお礼をする。


「いえ、困ったときはお互いさまですから」


「お互いさま。…そっか、でも助けてもらったことに変わりはないからね、ありがとうだよ。あ、自己紹介しないとね。私はカグラ。一応勇者なんだ」


 この人が勇者か、見た目は大学生くらいの年齢だな。

 鞭を使っていたから鞭の神装を使う勇者なのか?


「で、こっちの子がフィート。わたしの家族みたいな子かな」


「ミャー」


 フィートは飛びながら空に向かって火を吹く。


「その子は、魔物なんですか?」


 月奈はフィートを見ながら聞く。


「いや、違うよ。この子はね、わたしがいた世界から一緒にこの世界に来たの」


 羽が生え、火を吹く猫がいる世界って、


「もしかして、カグラさんは私たちと違う世界から来たんでしょうか?」


「その可能性は高いだろうな」


 俺と月奈は小声で話す。


「それで、こっちが」


「初めまして。先ほどは助けていただきありがとうございました。私はカグラさまの待女をしているメイティアと申します」


 と、丁寧にお辞儀をしてくれる。



 見た目はカグラさんより少し上くらいか、剣さばき見たところかなりの実力者だろう。



「丁寧にありがとうございます。俺は星空冷夜、でこっちが義妹の」


「星空月奈です」


 月奈は帽子をとりお辞儀をする。

 すると、カグラさんとメイさんは驚いた反応をする。


「わぁ、びっくりした。帽子をとるとなんか印象が変わるね。月奈ちゃんすっごく可愛い」


「ええ。その帽子に何かの魔道具ですか?」


「え、えっと…」


 月奈は二人に攻め聞かれて戸惑い、俺の方を見る。

 まあ、月奈は可愛いからな。ちなみにカグラさんとメイさんは可愛いよりもきれいというイメージが強い。


 と、そんなことを考えていると月奈の眼が冷たいものになっている気がするので、助け船を出す。


「ええ。その帽子には認識阻害が付与してあるんです。だから帽子をかぶった前と後で印象が変わるんです。いまかぶれば、帽子をかぶってる可愛い月奈に見えますよ」


 と、月奈の頭に帽子をかぶせる。


「お~。ほんとだ可愛い」


「なるほど。一度認識すると効果がなくなるんですね」


 と、また月奈は二人に近づかれる。


 しばらくして、二人は満足して離れる。


「でもなんで認識阻害の帽子を?」


 月奈ちゃんが可愛いから?と、カグラさんが聞いてくる。


 確かに、前の世界でこの帽子があれば便利だとは思うが、


「えっと。俺たちもカグラさんと同じで別の世界から来たんです。まあ、俺たちは勇者ではないので、他の勇者の転移に巻き込まれた感じですが」


 俺の説明に、メイさんは考える素振りをみせ、カグラさんは俺と月奈の頭を撫でる。


「そっか、二人とも大変だったんだね。よしよし」


 こう、頭を撫でられているとなんというか、


「なんか懐かしいですね」


「ああ、そうだな」


 俺たちは数日ぶりに懐かしい感覚を体感した。





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