第51話 義兄妹と漆黒の魔女。別れと旅立ち

(冷夜視点)


 俺たちは最後の部屋から魔法陣に入ると、眼の先に台座に突き刺さった剣が見える。

 あれが、剣の神装だろう。


 光太も他の先輩たちも、試練で疲れ切っているから周りを警戒などせずに、嬉しそうに神装に近づく。


「あれ?なんか…」


「兄さん?どうかしましたか?」


 急に何か違和感をいうか、何かに呼ばれた気がした。


「いや、多分何でもない。けど、先に行っててくれ。この狭い部屋だしすぐにそっちに行くから」


「そうですか?私もついていきますけど…」


「月奈も疲れてるだろ?ほんとに少し調べるだけだから」


 俺が説得をすると、月奈はしぶしぶといった様子で了承し、師匠と共に神装の元に向かった。


 本来であれば、俺もわざわざ月奈を離す真似はしなかったが、なぜか一人で行くべきだと思ってしまう。


 そんな思いに従い、みんなが見ていない壁に手を触れる。


「っと。…すりぬけたな」


 壁をすり抜け、その先には神装の置いてある部屋とよく似た部屋がある。


 先ほどの部屋との違いと言えば、台座に剣ではなく、真っ白な長い杖が刺さっているところだろう。


「この気配は神装と同じだな。だとすればこれは杖の神装か?」


 なら、なんで俺を呼んだんだ?


 俺は疑問を抱きながら杖に近づくと杖は形を変える、それは剣だったり槍だったり、と近づくにつれてどんどん形を変えていく。


 杖の神装じゃないのか?


 そんな風に考えていると、神装は最終的に杖の形に戻り、手に届くところまで近づくと声が聞こえる。


【力を…。我を手にせよ】


 言われた通り杖を手を握る。

 その瞬間、


 バリンッッ!!!


 と、何かが壊れるような音が鳴り、杖が台座から引き抜かれる。


 それに驚き思わず杖から手を放してしまうと杖は空中に浮き、


「なっ!?」


 俺に向かって突っ込んでくる。


 俺は避ける間もなく杖が身体に当たり、溶けるように杖が俺の身体の中に入ってきた。


「……何だったんだ?」


 俺は身体を動かすが、痛みも特になく、ひとまずは身体に害は無い。


 いろいろと、気になることはあるが、そろそろ戻らないと心配されるので急いで月奈たちの元に戻った。





 _______________________________


 俺が戻ると、今まさに剣の神装を抜こうとする直前だった。


「まだ抜いてなかったんだな」


「あ!兄さん。遅いですよ!さっきまで霧崎さんが、試練の感謝を伝えてましたからまだ抜いてはいませんが……」


 居ない兄さんに向けての言葉がほとんどでしたけど、と丁寧に教えてくれる。


 光太には悪いことをしたか?


「というか、兄さん。何か違和感が……。なんだか兄さんと別の魔力が混じってるような?」


 さすが月奈だな。

 さっきの神装(?)を違和感として感じたのか。


「ちゃんと説明するよ。ついでに、神装の入手は成功したから天にも連絡しよう」


「はい!あ、神装抜くみたいですよ」


 光太の方を見ると、神装を握り台座から神装を引き抜いた。


「ありがとうみんな!この神装はみんなの力で手に入れたものだ!この力を世界を救うために使っていこう!!」


 光太の言葉に、うおぉぉぉ!!と先輩たちは大いに盛り上がる。


「よし。みんなお疲れ。じゃあ帰ろうか!」


 みんな光太の言葉に頷き、外へと通じる魔法陣で外へ転移した。










 ________________________


「おお、勇者様。お疲れ様です。その手にもつ剣はもしかして……」


「はい。神装です!」


 外にて、待っていた騎士たちは光太たちの無事や神装に入手に喜ぶ。


「すぐに王にも報告をしたいですが、もう日も傾いてますので一晩ここで過ごしてから、明日一番に帰りましょう」


 ということなので、一晩過ごすことになった。







 ______________________


 俺と月奈は月明かりと星が夜を照らす中、天に念話をしていた。


 ≪あ、ああー。冷夜さん月奈さん、こんばんわ。聞こえてますか?≫


「ああ、問題ない。ひさしぶりだな」


「天ちゃん。兄さんほどではないですけど、ひさしぶりです」


 ≪はい。おひさしぶりです。お二人ともお疲れさまです。上から見てましたよ≫


「見てた。ってことは俺の身体の中にあるものも見てたのか?」


 すでに月奈と師匠には説明したが、俺の中に入ってきた神装(?)。

 師匠ですら分からなかったのであとは、天に聞くしかないんだが…。


 ≪えっと、ちょっと待ってくださいね。………≫


「あの天ちゃん?」


 天からしばらく応答が無く、月奈は不安そうに聞く。

 そしてしばらくして、


 ≪ああ、すみません。ちょっと調べてみたんですが、正直分かりませんでした!ごめんなさい!≫


「分からない、ってのは?」


 天は神の上の存在、管理者だ。その天が分からないとなると…。


 ≪えっと、正確に言いますと。冷夜さんの中にある物の詳細がつかめません。ただ、神装と似た力を感じるんですが、神装にしては力が弱いんですよね≫


 力が弱いか、もしかすると10個目の神装かと思ったが…。

 仕方ないな、今のところ実害は無いし考えても仕方ないか。


 ≪ああ、あとこちらからの連絡なのですが。邪神が動き始めました。それに伴い各地で魔王軍の幹部が暴れ始めています≫


「なあ、うすうす思ってたけど邪神と魔王ってのは繋がってるんだな」


 ≪そうですね。繋がってるというより、同一人物ですね。邪神と魔王は≫


 …そういう話は先に言っておいてほしかったな。


 ≪なので、できるだけ急いで神装を集める手助けをお願いします≫


「わかりました。…でも、そうなるとこの国と、エスタリアさんとはお別れになりますね」


「そう、だな。次に向かうとすればどこだろうな?」


 確か前に天から勇者の位置を聞いたけど、


 ≪そうですね。お二人の位置からだと、トライドという国にお二人と同じ世界の勇者がいますね≫


 トライド、師匠に聞いてみるか。

 でも、お別れか…。


 ≪すみません。そろそろ時間です。それでは、また。頑張ってください!≫


 そうして、天との会話は終わった。


「とりあえず、今日は休もう」


「そうですね」


 俺たちは目に見える別れを思いながら、眠りについた。









 ___________________


 その後、無事に国へと帰り王に報告。


 それと同時に俺たちは次に行く国のトライド王国や、他の国の勇者についての情報を集めた。

 さらに、ありがたいことに王様に紹介状を書いてもらった。


「いやぁ、ありがとね」


「いえいえ。魔女さまのお弟子さんのためですからね。どうぞ、これがあればトライド王と謁見できます。あと、外で勇者さまが別れの挨拶をとのことです」


 王さまに言われように外へ行き、光太と会った。

 そこで俺は月奈を師匠が見守る中、光太に近づいた。


「冷夜くん、君には本当に助けられたよ。ありがとう。ほんとは君の手助けをしたいんだけど」


 さすがに勇者を連れまわすわけにはいかないし、魔王軍がどこで暴れるかも分からないからなこの国に居てもらったほうが良いだろう。


「いいよ。お前には邪神と戦うときに活躍してもらうからな」


 俺は手を差し出す。


「うん。任せてよ。その時には活躍させてもらうよ!」


 光太は俺の握って握手を交わし、俺たちは城を後にした。

 そうして俺たちは王国で買い物を済ませ、一度師匠の家に戻った。


 さらに数日後、旅立ちの準備を済ませ、師匠ともお別れとなった。


「本当に、ついてきてくれないんですか?」


 月奈は不安そうに聞く。

 師匠はそんな月奈の頭を撫でる


「ああ。二人はもう十分強いからね。言うなれば、もう教えることは何もない、だよ」


「何言ってるんですか。まだ、教えてもらいたいことたくさんありますよ」


 なんだか俺まで、感情がこみ上げてくる。


「ふふふ。冷夜までそんなことを言うなんて、私も良い師匠ができてたのかな?」


 師匠は月奈に加えて、俺の頭も撫でる。


「さて、お別れの前にこれを、まずは月奈に―—」


 師匠は手を離し、指輪からいかにも魔女の帽子を取り出す。


「これは、認識阻害を付与してある帽子だよ。やっぱりフードよりもおしゃれな帽子の方が可愛いからね」


 師匠は月奈に帽子をかぶせる。


「わ、あ、ありがとうございます!あの、どうですか?」


「うん。やっぱり可愛い。ね、冷夜」


 月奈は、上目づかいをしながら「どうですか?」なんて聞いてくる。

 そんなもの当然、


「可愛い…」


「あ、ありがとうございます」


 月奈は照れながら、帽子を深くかぶる。

 ほんと可愛い。


 そんな俺たちを見て師匠は笑い出し、


「ああ、この光景も見れなくなるのは寂しいな。さて冷夜にはこれ、」


 師匠が取り出したのは、腕に着けるような装置、


「これは、いろんな種類の糸やワイヤーを出せる装置。君なら上手く使えるだろう」


「ありがとうございます。すごい、これ本当にすごいですね」


 試しに着けてみるが、これは男心をくすぐる一品だ。


「気に入ってもらえて嬉しいよ。さて、そろそろお別れだね」


 師匠は指輪から箒を取り出す。


「師匠はどこに行くんですか?」


「そうだなぁ、とりあえず目についた国にかな」


 師匠もまた、魔王軍が動き出したことにより世界を旅することにしたらしい。


「それじゃあ、しばらくのお別れだね。また会うとき、二人がどんな成長をしてるか楽しみにしてるよ!」


 師匠は箒に乗り、手を振って飛んでいく。


「それじゃあねー!」


「はい!これまでありがとうございました!!」


「エスタリアさん!また絶対会いましょうね!!」


 俺たちも飛ぶ師匠に手を振る。

 さすがは、魔女の名を持つだけありすぐに見えなくなってしまう。


「さて、俺たちも行くか!」


「はい!行きましょう兄さん」


 俺は月奈をお姫様抱っこをし、ブーツに魔力を込めて走る。


 次の国に向かって。



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