第38話 義兄妹の勇者対策
(武闘会決勝前日)
俺たちは師匠に連れられ王国近くの広い草原に来ていた。
「それで師匠、特訓って何するんですか?」
「ん?言ってなかったっけ?」
師匠は、まぁいっかと、言いながら剣をこちらに向ける。
「今回の特訓は勇者対策、……冷夜、君のスキルを使えるようにする特訓だよ」
「兄さんの?」
「俺の……ってことはもしかして!」
「あぁ、『狂戦士』の特訓だ!」
________
「さぁ、明日のこともあるし早速始めていくよ。と、言いたいところだけどまず、『狂戦士』についてこれまでの修行の中で分かったことを整理するよ」
師匠はまとめた情報を教えてくれる。
〜エクストラスキル『狂戦士』について〜
① 使用すると黒い魔力が出る。
② 全体の能力が上昇する。(上昇値は黒い魔力の量に比例)
③ 時間が経つに連れて黒い魔力が増える
④ 一定時間使用すると、暴走状態になる
➄ 暴走状態でも月奈には攻撃しない
「まぁ、こんなところかな?……で、なんだけど」
師匠は一度言葉を区切る。
「勇者に勝つには、あの光の剣、『天光剣』をどうにかしないといけない。そのために冷夜には、一瞬で、暴走しないギリギリの黒い魔力を使えるようになってもらう」
なるほど。
確かに『天光剣』に対抗出来そうなのは『狂戦士』くらいだが……
「でも、兄さんって自分で黒い魔力の量を操作することが出来ないのでは?」
月奈の言うとおり、これまで何度か『狂戦士』を使ってきたがこれまでで最初から強力な力を使えたのは、ブラックドラゴンと戦ったときだけだ。
「そのへんはちゃんと考えてあるよ。まぁ、やって見るほうが早いよ」
言うが早いや、俺たちは師匠に指示され戦闘体制を取る。
「じゃあ、私が魔法を撃つから冷夜は『狂戦士』を使って防いぐこと。ちなみに、月奈は魔法使っちゃだめだからね」
師匠は追加でそんなことをして言ってくる。
え、でもそれって、
「それって、月奈が危険なだけなんじゃ?」
「大丈夫、大丈夫。君が守ればいいだけの話だからね」
「えー。そんな無茶苦茶な。月奈、今からでも離れたほうが…」
「大丈夫ですよ。エスタリアさんにも考えがあるはずですし、私は兄さんを信じてますから」
「月奈…。わかったよ、師匠いつでもきてください!」
俺は覚悟を決め、スキルを使う準備をする。
「よし、いくよ!『フレアボール』」
大きな炎の球体が俺たちに、襲いかかる。
「……俺に力をよこせ!『
『狂戦士』により、黒い魔力が俺を包み込む。
「はあぁぁっ!!!」
俺は身に纏った黒い魔力さらに、剣に纏わせ力いっぱいに振り、魔法斬る。
「うん。いい感じだね」
「はぁ、はぁ、ありがとうございま、うっ!あ、ああ!?!」
師匠に返事をしようとした途端、黒い魔力が増加し、俺を侵食しようとする。
「兄さん!?」
「…やっぱり、こうなるか。けど、ここからが月奈、君の本当の役目だ」
「え?」
「月奈、抱きつくでもなんでもいいから、怜夜に触れるんだ!」
「え、あ、はい!兄さん!!」
月奈は、俺のもとに駆け寄ってくる。
「う、あぁぁっ!つき、な?あぁぁ!!」
俺は、朧げになりつつある意識の中で必死に黒い魔力を制御しようとする。
「兄、さんーっ!!」
月奈は、黒い魔力が薄くなった一瞬を狙って俺に抱きついてくる。
「兄さん!落ち着いて、私です、月奈ですよ」
「つき、な?月、奈!あ、あぁ………。はぁ、はぁ、」
月奈が声をかけてくれたことにより、意識を戻すことができ、なんとか『狂戦士』の暴走を止めた。
だが、その場に立ってはいられず、身体を大の字にして寝転がる。
「がっはっ!はぁ、はぁ、あ、ありがとう月奈」
「いえ、それよりも兄さん、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ多分、大丈夫」
俺は心配そうな顔をする月奈に、なんとか答える。
「冷夜、少しそのままで、『オーバーヒール』」
「え?あ、あぁー。癒やされる」
師匠は回復魔法を使い、俺は光に包まれる。
「どうかな、冷夜?」
「だいぶ楽になりました。ありがとうございます」
俺は回復したことアピールするため、身体を起こす。
「うん。さて、ここで一度やってみた感想だけど、どうだった?」
「えっと、なんというか、月奈を守らないとって思ったらなんか出来たというか。でも、その後にすぐ黒い魔力に飲み込まれて……」
「なるほどね。まぁ、おおよそ予想通りかな」
「「え?」」
師匠の言葉に俺たちは口を揃えて驚く。
「予想通りって、どういうことですか?」
「どういうこともなにも、まぁ、私の仮説が正しかったとでも言うのかな?」
仮説、ってことは『狂戦士』に関するものか。確か前にも聞かせてもらったけど……
「あの、エスタリアさんの仮説ってなんでしょう?」
月奈が聞くと、師匠は少し考えるような姿勢をする。
「そうだなぁ、…ほとんど証明されたし話してもいいか。私はね、『狂戦士』の力の鍵が月奈にあるんじゃないかって説を立てていたんだ」
力の鍵が月奈に?
「私、ですか?」
月奈は自分名を指差す。
「これは少し冷夜に話したと思うけど。始めて二人と腕試しをしたときに、怜夜が暴走した時、私にだけ攻撃をして月奈には一切の被害を加えなかったことがあったよね」
「そういえば…」
「その時に私は、『狂戦士』は冷夜の心。月奈を守ろうとする思いに強く影響を受けたものなんじゃないかと思ったんだ」
師匠が話し終えると、月奈は納得したようにうなずく。
「あとは、冷夜の暴走を止める方法だったんだけど、さすがに暴走状態で大会を続けるわけにはいかないし…」
それは、確かにそうだ。
「でも、それもどうにかなりそうだ」
「「え?」」
それってまさか、
「さっき冷夜は止めれたのは、月奈が冷夜に抱きついたから、つまり冷夜が『狂戦士』を使う前に月奈が冷夜に抱きつけばいいのさ!」
「え、えぇぇぇぇー!?!!」
暗闇の中に、俺たちの叫び声が響き渡った。
その後、さすがに、人前で抱きつくのはどうかということで、手を握ることになった。
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