第28話 王都探索(王都デート)
馬車内での問答を終え、俺たちは無事に王都に着いた。
「さて、私は少し所があるからね。二人は好きなように王都、ファスト王国を見て回るといい。後でここに合流ね……はい」
師匠は俺たちに合流場所を書いた紙を渡しどこかに行ってしまった。
「あの兄さん。どうしましょう?」
「そうだな、師匠もああ言ってたし。行こうか王都デート」
「はい!……えっ、デート!?」
俺は驚く月奈の手を引き王都デートを開始した。
――――――――――――――――
ひとまず俺たちは飯を食おうと辺りを回っていた。
ちなみに、俺たちは黒髪を隠すためフードを被っている。王都はリゼットの町よりも多くの人の目があり、勇者がこの国に居るということで、勇者の仲間に思われる可能性がある。故に面倒事を避けるためにフードを被っている。
「こうして見ているとすごい賑わってますね」
月奈の言う通り町中は人で溢れており、至る所に露店が立ち並んでいる。
「そうだな。王都だからってのもあると思うけど、たぶん武闘会が原因だよな。一年に一度の大きな祭りらしいし」
俺たちがそんなことを喋りながら歩いていると声をかけられる。
「そこのお二人さん」
「「?」」
声の方へ近づくとそこは、指輪や髪飾りなどの色々なアクセサリーを売っている露店だった。
声の主はその露店を出している女性だ。
「よかったらどう?せっかくのお祭りに彼女へのプレゼントでも」
「うわあ〜〜。えっ!?か、彼女!?」
露店の商品を見ていた月奈が女性の声に反応しあたふたする。
その様子を見て俺は仕方なく
「違いますよ。俺たちは兄妹なんです」
「そっか〜、ゴメンね。どこからどう見てもカップルにしか見えなかったから」
「お似合い!?私と兄さんがお似合い……」
「おーい。月奈、戻ってこーい」
女性の言葉にまたしても動揺する月奈を現在に引き戻す。
「なら、良い兄として、妹にプレゼントはどうかな?」
女性はそんなことを言ってくる。まったく商売根性がたくましい。けど――
「せっかくですし、そうします。月奈、なにか物はあるか?」
「えっ、あ、はい。でもいいんですか?」
「ああ、天から貰った金もまだ残ってるし、なにより師匠からの紙に小遣いも挟まっていたからな」
なんだが、師匠が日に日にお母さんみたいになっているような気がする。
「そうですか。そういうことなら。え〜と……」
月奈は商品を眺め、やがて一つの物に目を留める。
「それは指輪か?」
月奈が手に取ったのはペアになっている指輪だった。
「お、お嬢さんそれが気になりますか?」
「これは何か珍しい物なんですか?」
「ふむ。見たところお二人はこの国の人ではないですね。と、すると知りませんか。実はですね、この国ではお互いに相手の指に指輪をはめることで求愛や、婚約などの意味を持つんです」
なるほど。異世界とはいえ、そういう文化はあるものなんだな。
「どうする月奈。それにするか?」
俺は月奈に聞くが、月奈はしばらく考え込んだ後、首をゆっくりと横に振る。
「いえ、指輪はまだいいです」
「?。そうか月奈がいいならいいけど。本当にいいのか?」
「はい。……どうせなら兄さんの意思で貰いたいですし」
月奈は、小声で何かを言う。
「月奈、なにか言ったか?」
「いえ、何も。そうだ!せっかくですし、指輪はいいので他のアクセサリーを兄さんが選んでくれませんか?」
ふむ、俺が選ぶのか。……さて、どうするか。
俺はアクセサリーとかはあまりわからないのだが、月奈の俺への期待に輝く目を裏切るわけにはいかない。なにより、月菜へのプレゼントだ。適当な物は選べない。
と、すると俺が分かる基準で最高の物を―
「これ、かな」
俺は三日月の形をした髪飾りを手に取る。
「お兄さん、ずいぶん良い目をしてるね。毎度あり。せっかくだから妹さんに付けてあげなよ」
俺は女性に金を渡し、その場を後にする。
「さて、この辺でいいか」
俺たちは、ちょっとした路地に入りフードを取る。
「はい、月奈。これ、」
俺は三日月の髪飾りを渡そうとするが月奈は受け取ろうとしない。
「兄さんが付けてくれないんですか?」
なるほど、そういうことか。
「分かった。ちょっと、じっとしててくれ」
俺は月奈に髪飾りを付ける。せっかくなので少し髪飾りに細工をする。
「どうですか、兄さん?」
「そうだな。……俺の見立て通り、月奈のきれいな黒髪に、金色に輝く三日月の髪飾りはよく似合っているな」
俺の褒め言葉は月奈を喜ばせるに値し、月菜は嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます!兄さん。でもあのお姉さんの言ってた目ってなんのことですか?」
「ああ、それか。その髪飾りは、あの露店のアクセサリーの中で、一番の魔石が使われていたからな。いざって時、魔法一発くらいの魔力補充は出来るようにしておいた」
まぁ一応、一番月奈に似合うと思ったからでもあるんだが。
そんなことを言い終え、月奈の様子を見てみると月奈はポカンとしている。
流石に理由が酷かっただろうか?
そう思っていると月奈は、
「流石、兄さんですね!機能性とファッション性を兼ね備えて選ぶんなんて」
どうやら月奈は納得してくれてるらしい。良かった。
「さて、次はちゃんと飯を食える場所を探そうか」
俺はフードを被りながら月奈に手を差し出す。
「はい。向こうからいい匂いがしますからそっちに行きましょうか」
月奈もフードを被りながら俺の手を取る。フードを被っていても月奈の髪飾りは輝いていた。
――――――――――――――――――――
俺たちは
「ここは……」
「すごいですね……」
紙に記された場所にあったのはかなり高級そうなホテルだった。
「あ、おーい。冷夜ー!月奈ー!」
声の方を向くと、手を振っている師匠の姿が見える。
俺たちは師匠の元へ向う。
「二人とも王都は楽しめた?」
「はい。とっても楽しかったです」
「まぁ、俺も楽しめました。って、それよりもここって」
俺はホテルを指差す。
「ああ、ここが私達が王都にいる間に泊まるホテルだよ。私の部屋は二人の隣の部屋。あ、ちなみに二人の部屋は一緒にしたけどよかったかな?」
「………」
師匠の言葉の数々で脳内の情報がオーバーしてしまった。というか、なんで俺の周りの人は俺と月奈を同じ部屋にしたがるのだろうか?
俺たちは師匠に先導され、ホテルで休むのだった。
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