第27話 世界の話①
俺たちは師匠の家を出発し、順調に王都へと向かっていた。
「家から少したったけど、二人とも気分はどうかな?」
「はい、問題無いです。この馬車全然揺れないので気分が楽ですね」
「ああ。それに移動速度もかなり速い。もしかしてこの馬車も魔道具なんですか?」
俺が聞くと師匠は頷き椅子を撫でる。
「その通り。この馬車は結構な自信作なんだ。気に入ってもらえた良かった。……と、そうだ!王都に着くまで、まだかなり時間があるから二人の質問にでも答えようか?」
師匠の言葉に俺たちは顔を見合わせる。
そして――
「じゃあ俺から。師匠はたまに、どこからともなく物を出してますけどあれはなんですか?」
「それはね、これを使っているんだ」
師匠は右手にはめている指輪を見せてくる。
「これは君たちが使っている腕輪と同じ、「異空間」に繋がっているんだ。けど、君たちのとは違って、これは使用者の魔力によって物が入る量は変わるけどね」
俺たちの腕輪は無尽蔵に物が入る。そう考えると師匠の指輪は俺たちの腕輪の下位互換ってところだな。
ちなみに、俺たちの腕輪の中は完全に時間が止まっているけど、師匠の指輪は時間が止まっているわけではないらしい。
「じゃあ、次は私が。私たちがこの世界に来てから始めて行ったリゼットの町で私たち、結構目立っていて、それを兄さんは髪のせい何じゃないかって言ってましたけど、実際はなんでか分かりますか?」
ああ、そういえばそんなことを言ったな。
あの町では俺たち以外黒髪の人が居なかったから言ってみたが、師匠は黒髪。これにはどんな意味があるんだろうか?
「髪色か、なるほど。その考えは合っていると思うよ。この世界で髪色、正確に言うと黒髪は重要な意味を持つんだけど。……少し昔話というか、この世界の伝説の話をしようか」
――――――――――――――――
むかし、むかし。この世界に邪神という恐ろしい神が現れました。
邪神はこの世界の魔物や、新たに作り出した凶暴な魔物、時には人を操り人々を恐怖に陥れました。
そんな邪神の横暴を見かね、神々は異世界より9人の『勇者』を召喚しました。
神々はそれぞれの勇者に、剣、鞭、ガントレット、槍、弓、ハンマー、ブーメラン、鎌、杖の形をした神の力を備えし武器、『神装』を与えました。
勇者は神装を使い多くの魔物を倒し、ついには邪神を滅ぼしました。
邪神との戦いを終えた勇者たちは各々、旅に出たり、国を作ったり、愛するものと結ばれたりと幸せな日々を過ごしました。
そして神装は次なる勇者に受け継ぐため、それぞれの思いがある場所に封印をしました。
これが原初の勇者の伝説。
――――――――――――――――――――――
「と、こんなことが昔あったそうなんだけど。どうだったかな?」
「とても興味深い話でした。ですがその話と黒髪になんの関係が?」
月奈が首をかしげると、師匠はああ、と手をうつ。
「そういえばそんな話だったね。まぁ要するに、黒髪っていうのは勇者の子孫、それも勇者の血が濃くでた人に現れる髪色なんだ」
「なるほど。でも、黒髪でない勇者もいたと思うんですけど?」
「その場合でも血が濃く出れば、黒髪になるらしいよ」
……つまり金髪の勇者と、金髪のこの世界の人が子供をつくったとしても、勇者の血っていうのが濃く出ると子供は黒髪になるのか。
そんなことになったら親はびっくりだな。本当に自分の子供かも怪しくなる。
そんな俺の考えが顔に出ていたのか師匠は、口を開く。
「ちゃんと自分の子供なのか調べる魔道具もあるから大丈夫だよ」
「この世界にもそんな物があるんですね。でも、それってどんな風に調べるんですか?私たちの世界と同じように血とかDNAとか?」
「いや。主には魔力かな。魔力は血と同じように人によって違うからね。魔力を測定する魔道具の応用で調べるんだ。ちなみに、この魔道具を作ったのは3回目に召喚されたガントレット勇者なんだ。このガントレットの勇者はこの世界の魔道具の技術を百年進めたと言われている勇者なんだ」
3回目か。1回目がさっきの話の9人。この世界には結構勇者召喚されているのか。
ここで一つ俺は疑問が出てくる。
「あの、師匠。これまでに召喚された勇者で最初の9人以外に神装を持って召喚された勇者はいるんですか?」
これが疑問。天は確かこう言っていたはずだ、
『神装とは、その名のとおりに神にも近い力を持つ、勇者にしか使えない武器のことです。そして『アルヒルド』には、10個の神装があり、その神装だけが、邪神に対して有効な攻撃となります』
10個の神装。だが最初に召喚された勇者は9人。
だとすると後から来た勇者が10個目の神装を持っているとするのが妥当だが――
「いや、最初の9人の他に召喚された勇者は数人いるけど『神装』を持って召喚されたのは最初の9人だけ。それにさっき言った種類以外の神装は確認されてないよ」
「兄さん。それって……」
「ああ。……」
だとするなら10個目の神装は何処に、そして誰が使っていたんだ?
俺たちは新たな疑問を胸にしながらも、王都に着いたのだった。
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