第二章 義兄妹と師匠と剣の勇者

第17話 義兄妹と漆黒の魔女

「ん、ん〜。ふぁ~〜。……ん?」


 俺は目を覚ます。

 背中が柔らかく、目を開けた先が木製の天井であることを考えると洞窟ではないらしい。

 とりあえず……。


「この天井、知らないな」


「兄さん!?」


 声のする方向を見ると、すぐ隣に目に涙を浮かべた月奈が見える。


「兄さん!!」


 月奈は走って俺に抱きついてくる。


「おはよう月奈。今日は天気が良い、のか?」


「今日は天気が良い、のか?……じゃ、ないですよよ!? もう、兄さんは冗談を交えないと起きれないんですか? ちなみに今日はとっても良い天気ですよ!」


 月奈は俺に抱きつきながら早口で言う。

 俺はそんな月奈の頭を撫でる。


「えっと、その、心配かけたな。ゴメン」


「ほんとに!もう無茶しないでくださいね……」


「ほんとに、ごめんな。……ちなみに、俺はどれくらい寝てたんだ?」


 3日か、もしくは一週間とかが定番だと思うが……。


「2日、と言ったところだよ」


 それに答えたのは月奈では無く、ショートカットの黒髪と黒の目を持つ大人の女性。


「あなたは?」


「ふむ、名を尋ねるときは自分から。っと、月奈から聞いたのだが?」


 俺は一度月奈に離れてもらう。


「それもそうか。……失礼しました。では名乗らせてもらいます。俺の名前は星空冷夜ほしぞられいや。聞いたかも知れませんが月奈の義兄です」


「うん、では次は私の番だね。私の名はエスタリア。君達をここまで運び治療した者であり、この辺りでは「漆黒の魔女」と呼ばれる者だ」


 エスタリアさんは、高らかにそう名乗った。


「そっか、あなたが。ありがとうございました。月奈と、俺を助けていただいて」


 俺は頭を下げる。

 だがエスタリアさんは、バツの悪そうな顔をする。


「いや、気にしないでくれ。本来ならば私は謝る立場なんだ」


 どういうことだ?と、思いながら月奈を見るが、月奈は首を横に振る。


「私が君たちが受けたクエスト。「炎耐石の採取」を依頼したんだ。すまなかった、私がクエストを出さなければ、ブラックドラゴンがあの辺りに出現したという情報を早く掴んで、クエストを取り下げていればあんなことにはならなかった」


 エスタリアさんは俺たちに頭を下げる。


「それは、別に俺たちに危害を加えるつもりでは、なかったんですよね?」


「ああ、誓って君たちに危害を加えるつもりはなかった」


 エスタリアさんはさらに頭を下げる。


「頭を上げてください。故意にやった事でないなら、あなたが頭を下げる理由はありません」


 エスタリアさんは顔を上げ、俺を見る。


「それに、月奈を守れなかったも、俺が2日も寝ていたのも、俺に力がなかったからです。なのであなたが謝る必要はないですよ」


「私も、兄さんに無理をさせてしまったのは、私に力がなかったからです。ですからエスタリアさんは謝らないでください」


 エスタリアさんは一瞬、ポカンっとし、そして


「く、くはははは。なるほど、まさか私を恨むどころか、自分たちに力がないから私が悪くないとは。君たちは本当に面白いな、気に入った」


「「え?」」


「二人共。力、欲しくはないか?」


 俺たちは顔を見合わせる。


「「欲しいです!!」」


「なら、私がその力を与えよう。君たち、私の弟子になりたまえ」


 こうして、俺たちは「漆黒の魔女」エスタリアの弟子になったのだ。



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