第15話 天の視線

てん視点)


「うっわぁー、まさか序盤でドラゴンとエンカウントするなんて……」


 目の前のディスプレイを眺めながら、若干引き気味に呟くのは、わたし管理者ナンバー10こと天。

 わたしはディスプレイを見ながらも下では手を忙しく動かしている。


「これはまた、ずいぶんと運が悪いですね。あ、管理者ナンバー10様、どうぞ、お茶です。」


 わたしにお茶を出すのは、わたしと同じような長い金色の髪を持つ、メイド服を着ている無表情な少女。

 その顔立ちはわたしとよく似ていて、旗から見ると姉妹のように見える。

 ……あっ、そうだ!


「ありがとう。天使ナンバー27ちゃん。あと、私のことはこれから天ちゃんって呼んでね」 


「?……了解しました。天様」 


 天使ナンバー27ちゃんはその無表情な表情を困惑に変えながらもわたしの言うとおりに呼び方を変える。


 ちなみに天使ナンバー27ちゃんは、その名前の通り天使だ。

 天使とはわたしの様な管理者や神の下に付きわたし達の命令の通りに動く、極端に言うと下っ端のようなものだ。

 管理者や神、天使の力関係は次の通りになる。


『〜管理者達の力関係〜』


 一位 【管理者】

 それぞれの世界を管理する者。全生物の頂点に立つ。


 二位 【神】

 剣の神、知恵の神、恋の神、などのそれぞれ特定の役割を持つ。特定の役割は管理者の力にも迫るが、それ以外は、人間に劣るものがあるほどダメダメ。


 三位 【天使】

 管理者や神の下に付き、その主の名に従い行動をする。主から力を貰うことにより、その個体の力は、神に迫ることも出来るほど、大きく変わる。

 だがほとんどは雑用で使い潰される可愛そうな役職。


 ______________________


 と、力関係はこんな感じ。

 これだけ見ると天使は結構可愛そうだけど、わたしに仕えている天使ナンバー27ちゃんはわたしがかなりの力を与えていてかなりの強いから、本当に天使は仕える主次第だと思う。

 中には、本当に使い潰すだけに使ったり、自分の欲望を満たすために使う、クズな管理者や神がいるから。


 閑話休題


 わたしは、お茶を飲みながら引き続きディスプレイを見ています。


「……ゴクゴク……グブォ!!」


 ディスプレイを見て、思わずお茶を吹き出してしまった。



「天様どうし……これは、また」


 天使ナンバー27ちゃんもディスプレイを見て驚いている。

 それもそのはず、


「月奈さんが、月奈さんがぁ!?」


 月奈さんが、ブラックドラゴンの魔力の光線により壁に打ち付けられてしまったのだから。


「ど、どどどど……」


「天様、落ち着いてください。どうやら月奈さんは大きなダメージはあるものの生きてはいます」


 天使ナンバー27ちゃんが、別のディスプレイを出し、月奈さんの無事を伝えてれる。


「よ、良かったぁ〜。いや、ダメージを負ってるから全然良くはないんだけど」


 ともかく、生きているなら本当に良かった。


「天様、月奈さんの無事も喜ばしくはありますが、冷夜さんの様子が……」


「え?、……これって」


 ディスプレイに映っているのは、顔を下に向け、まるで誰かと喋っているような様子をした冷夜さん。


 その冷夜さんから少しずつ黒い魔力が溢れて、彼を包み込み、黒い眼に紅が灯る。


 そんな姿になった冷夜さんは、ブラックドラゴンと戦い出す。


「あの、天様。冷夜さんのこれは何なんでしょうか?」


「これは、『狂戦士バーサーカー』冷夜さんのエクストラスキル、……のはず。」


「……はず?」


 天使ナンバー27ちゃんが不思議そうにするので、

 わたしは、自分のディスプレイを操作する。


「うん。本来『狂戦士』のスキルは、理性を犠牲にして強大な力を得て、目に映るすべてを蹂躙、破壊しようとするっていうスキルなんだよ」


「?でしたら、疑問に思うことはないと思いますが。ほら、今も」


 天使ナンバー27ちゃんのディスプレイには、「オラッァ」と叫びながブラックドラゴンと戦っている冷冷夜さんが映っている。


「えっと、確かに実際に声に出してる言葉は荒いものなんだけど。……これ見て」


 わたしが見せたディスプレイには、


【剣を炎耐石を混ぜ修復、『マジックバリア』を足場にし、ブラックドラゴンの元へ跳ぶ】


 などのことが、表示されている。


「天様これは、まさか!?」


「わたしが冷夜さんと月奈さんに渡した『管理者の加護』を通して、冷夜さんの考えていることをちょと覗かせてもらってるの。で、見てわかる通り冷夜さんは、頭の中ではかなり冷静なの」


 本来の『狂戦士』なら、頭の中こそもっと荒れている。もしくは考えなしに全てを壊そうとするはずだ。


「なるほど、たしかにこれは『狂戦士』とは言い切れませんね。ですが、それならこの力は何なんでしょう?」


 本当にこの子は、好奇心が旺盛らしく食い気味に聞いてくる。

 なのでわたしも仮設を話してあげる。


「う〜ん。これは仮説なんだけど、スキルって使用者本人の才能や努力、心を表したものなんだよ」


「はい。一応存じています」


 天使ナンバー27ちゃんが食い気味に返答する。


「だから、『狂戦士』のスキルが冷夜さんの心の影響を受けて理性を失い目に映る全てを破壊する。から、理性を少し犠牲にして、冷夜さんの、なにより月奈さんの敵を確実に殺す。みたいな風になってるんだと思う。」


 天使ナンバー27ちゃんは、納得してくれたらしく冷夜さんを観察するように見ている。


 ……どうでもいいけど、天使ナンバー27ちゃん。名前長いな別の呼び方ひてみようかな。


 にしても、自分では無く義妹いもうとのため、月奈さんのために、自分の身をボロボロにて敵を殺そうとするなんて。本当に月奈さんが大切なんだろう。

 スキルの発現も月奈さんが原因だし。


 これでは、『狂戦士バーサーカー』では無く、

義妹狂愛戦士バーサーカー』義妹を狂ったように愛する戦士、とスキルを変えたほうがいいのではないだろうか。


「どう思う?ニナちゃん」


「?!ニナって私のことでしょうか?」


「うん。天使ナンバー27で、27ニナちゃん。気に入らなかったかな?」


「いえ、天様のお好きなように呼んでください。それより天様もう終わりそうですよ」


 ニナちゃんのディスプレイには、喉元に剣の刺さったブラックドラゴンと冷夜さんが映っている。


 どうやら、勝つことができたらしい。


「良かったぁ〜。これで一安心だ……」


「天様?どうしましたか?」


 ニナちゃんが不思議そうな顔でわたしを見る。

 それはきっとわたしが、とても焦っているから。

 だって、


「……やばい」


「え?」


「このままだと冷夜さんが死ぬ」


 冷夜さんの後ろに、膨大な魔力の塊を感知したのだから。


「どうしよう、どうしよう……」


 わたしはどうにか、助ける方法を考えるが、案が思い浮かばない。

 そんなとき、


「天様、これを」


「……え?」


 もう一つの力の発現を感知した。






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