第14話 義兄の怒り

「つき、な?」


 今、膨大な魔力の光線が月奈を襲った。

 そして月奈は本来狙っていた塞がれた道から少しずれた壁に打ち付けられ、今は砂埃が舞い、月奈の姿が確認できなくなってしまった。


 月奈を襲ったのはブラックドラゴンの炎では無い。

 炎などでは無く、単純なブラックドラゴンの魔力の塊が月奈を襲ったのだ。


 つまりブラックドラゴンは口から炎を吐くのと、魔力を魔法のように放つ事ができるということだ。


 俺は混乱する頭を回転させて『気配感知』と『魔力感知』を発動せる。

 だが、ブラックドラゴンの巨大な存在感と魔力のせいで、スキルがまともに機能しない。

 それはつまり月奈の安否が確認できないということだ。


 月奈が無事かどうか分からない。

 それだけで俺の心はざわめき出す。

 1秒でも早く月奈の安否を確認しに行かなければならない。

 だが、それを奴は許さない。


「グギャアァァ!!」


 ブラックドラゴンが俺の目の前に立ちはだかる。

 まるで次はお前の番だと言うかのように、ブラックドラゴンの魔力の高まりを感じる。


 俺は大切な人の安否を確認しなければならない。

 だが目の前にはそれを邪魔するものが、俺の大切な人を傷つけた奴がいる。


 それを自覚した瞬間、ざわめいた心に「黒い何か」を感じる。

 その「黒」は、すごく熱くて、異様なほど冷めている。

 これは何だ?と思っていると、その「黒」が突然、俺に問をだす。



【問 何故、お前月奈大切な人は傷ついている?】


 俺は「黒」の突然の問に驚く。

 だが、そんな驚きとは逆に何故かひどく冷静にその問に対しての答えを口にしてしまう。


【答 俺に力が無かったから。】


 俺が答えると、俺の中の「黒」が少し大きくなるを感じる。

 俺は「黒」の多少の変化に驚いたが、「黒」はそんなことを気にせず次の問をだす。


【問 何故今、お前は殺されそうになっている?】


【答 俺に力が無いから】


 質問は何度も繰り返される。

 その度に俺は自分の力の無さに絶望し、「黒」は大きくなる。

 そして、新たな問が出される。


【問 お前はどうしたい?】


 どうしたい、か。いきなり質問が抽象的になったな。

 だが、理解はできる。

 それはきっと、この質問も、他の質問も全部本当は俺の自問自答だから。


 俺は、「問」の答えを出そうと口を開く。

 だが、言葉が出てこない。

 頭の中では出ているはずの答えが、言葉として出てこない。


 何故だ?と、思っていたその瞬間、


「グルァァァァ!!!!!」


 目の前のブラックドラゴンが叫ぶ。


 その叫び声で俺は、はっ!とした。

 どうやら先までのことは、ブラックドラゴンが俺の目の前に来てから、ほんの数秒のことだったらしい。おそらく無意識に『思考加速』でも使っていたのだろう。


 俺は改めて、ブラックドラゴンの姿を見る。

 巨大な体、大きな翼、真っ黒な鱗、4本の足についている鋭い爪、威圧感のある目と牙。


 ブラックドラゴンを見ていると、不意に「黒」の問が頭に浮かぶ。


【お前はどうしたい?】


 俺がどうしたいか。

 ブラックドラゴンを見ていると、「黒」の存在を強く感じる。

 その瞬間、俺は自覚した。


 ブラックドラゴンこいつは、月奈を傷つけた。ブラックドラゴンこいつが俺を殺そうとしている。


 俺がどうしたいか。それなら、答えはシンプルだ。

 俺は心にしっかりとした気持ちと意思を持って、心の奥の「黒」に答えを叫ぶ。


【答 俺は、力が欲しい!】


 答えを出すと立て続けに問を出される。


【問 力を得てどうする?】


【答 ブラックドラゴンあいつを殺す!】


【問 お前に力を使う覚悟はあるか?】


【答 その力でブラックドラゴンあいつを殺せて、月奈を救えるならいくらでも覚悟はできてる】


 やがて、「黒」からの問が無くなる。


【終 ならば、使ってみろ。くれぐれもれるな】


「黒」との話し終わった瞬間、俺の体にとてつもない量の力と魔力が湧き出てくる。


「これは……」


 さらに増幅した魔力が体の外まで満ちて【黒い魔力】が溢れ出る。

 そして傍から見ればわかったかもしれないが、俺の黒い眼に薄っすらと紅が灯る。

 そんな俺の変わりようを見たブラックドラゴンは叫ぶ。


「グオオオオォォォ!!!!」


 その叫びはこれまでのような弱者に対する威圧とは違い、明確な敵への威嚇と威圧、殺意が乗った声だった。

 だが俺はその叫びを聞き……。


「さっきからギャーギャーうるせんだよ!!!」


 溢れ出る黒い魔力を使い、ブラックドラゴンを睨みつけ威圧仕返す。


「グゥォォ……」


 ブラックドラゴンは俺の威圧に押される。

 俺はそのスキを付き、ブラックドラゴンの元へ走る。


 速い!


 今の俺の走る速度は、これまで使っていた身体能力強化や風魔法を使った移動よりも圧倒的に速かった。


「おっラァァ!!」


 俺はブラックドラゴンに近づき、その顔に蹴りを入れる。


「グォ!?」


 俺の蹴りはこれまでの攻撃が嘘だったかのように、ブラックドラゴンにダメージを与える。


「グ、グォォォ!!」


 俺が自分の攻撃に驚いた僅かな瞬間に、ブラックドラゴンが上空へと逃げる。


 俺はそんなブラックドラゴンを追いかける、ということはせずに腕輪から複数の鉱石と剣を取り出し、『錬金術』のスキルを発動させる。


「『錬成』」


『錬成』で剣に鉱石が融合され、欠けた刃が修復、強化される。

 そんな事をしている間にブラックドラゴンは上空へと飛び、俺を見下ろしている。


「グルァァァ!!!」


 ブラックドラゴンは俺に向かって巨大な炎の塊、火炎弾を飛ばしてくる。

 俺は瞬時に『思考加速』『身体能力強化』などのスキルを発動させ、火炎弾を避ける。


「グルガァ!!」


 ブラックドラゴンは更に数多くの火炎弾を飛ばす。


「チッ!ウザったいな!」


 俺はそんな火炎弾を避けながら、ブラックドラゴンに攻撃を仕掛けるため『身体能力強化』を脚に集中的に強化をして風魔法を発動させる。


「……はぁっ!」


 俺は強化した脚と風魔法でブラックドラゴンに向かって跳ぶ。

 だが、空高くに飛んでいるブラックドラゴンには届かない。

 なので、


「『マジックバリア』」


 俺は魔力障壁を俺の、に張る。

 そのマジックバリアを足場にして跳ぶ、跳ぶ、跳ぶ。

 マジックバリアは少量の魔力で創ったので、俺が跳ぶ度に割れていく。


「はっ!はぁっ!!」


 バリンッ、バリンッ、とマジックバリアが壊れる音を響かせ、火炎弾を避ける。

 黒い魔力の影響か、火炎弾の動きを、読むことができる。

 俺は全ての火炎弾を避けきりブラックドラゴンの目の前へと着き、剣を握る。

 ……殺った!

 そう思った瞬間、


「グルガァー!!」


 ブラックドラゴンは、これまでとは比べ物にならないほどの火炎弾を放ってくる。


「っ!はあぁ!!」


 俺は握っていた剣をそのまま横に思いっきり振り、

 火炎弾を切り裂く。


「グルァ?!!」


 ブラックドラゴンが驚いたような声を出す。

 それもそのはず、まず普通であればドラゴンの火炎弾なんて切れるものではない。

 だが黒い魔力に包まれて強化されている俺であれば不可能ではない。

 しかし剣は違う。この黒い魔力は俺を強化できても今の俺では武器を強化することはできない。

 なので俺は剣を修復した時、前に修復に使った鉱石、そして炎耐石を混ぜた。

 炎耐石はその名の通り炎にとても強い耐性を持つ。なので、その炎耐石を剣に混ぜたことにより、ブラックドラゴンの火炎弾を切ることができた。

 俺はブラックドラゴンに剣を向ける。


「これで死ね」


 俺は向けた剣をブラックドラゴンに向かって思いっきり、投げつける。


「グ、ァァ…」


 剣はブラックドラゴンの喉に突き刺さり、ブラックドラゴンは地へと落ちていく。


「これで、終わっ……」


 俺はブラックドラゴンを殺したという達成感を得て、地面に落ちていく。

 背後に巨大な魔力が集まっているとも知らずに。


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