第8話 義兄妹と異世界の森 〜初めての戦闘後〜

 初めての戦闘が終わってから森の中を歩き始め、日が傾いてきた頃。


「月奈、今日はここでテントを張ろう」


「いいですけど。まだ、全然歩けますよ?」


 普段は早く森を抜けるために日が暮れるギリギリまで森の中を移動している。だが、今日はそう行かない理由があった。


「歩けるって、お前ゴブリンと戦ってから移動中たまにボーとするし、歩く時もフラフラしてるし……」


「うっ?!そ、それは……」


「という訳で今日はここで終わり。今日はもう休む!いいな?」


「……はい」


 月奈は渋々と言った様子だが納得し、今日は少し早く休むことになった。







 ―――――――――――――――――――――

 

 テントを張り、夕食や読書をして眠りにつこうと横になっている時の事だった。


「兄さん、まだ起きますか?」


 月奈から声がかかる。


「ああ、起きてるよ。どうかしたか?」


 寝転がったまま答えると、月奈は無言で近づいてきて俺の背中を抱きしめる。


「月奈?」


「すいません。少し、このままにしてください」


 月奈の言葉に従い、俺はしばらくそのままの体制でいた。

 やがて月奈がゆっくりと口を開く。


「今日の私、おかしかったですかね?」


「そうだな。ゴブリンと戦った後の様子はいつもと違った」


「……ですよね。あの、ですね兄さん」


 月奈は、少し苦しそうに話を続けようとする。


「えっと、あの!」


「……わかってる」


「え?」


 俺は月奈と向き合う様に体制を変え、月奈の頭を優しく撫でる。


「怖かったんだろ?」


「っ!」


 俺の言葉に月奈の肩が震える。


「……わたし、魔物を殺しました」


「ああ、そうだな」


 魔物を殺した。 

 そのことを責める者などいない。

 この世界の人にとって魔物は、人を害する悪なのだから。


「……私、生き物を殺しました」


 生き物を殺した。

 さっきの言葉とは似て非なる言葉だ。


「私は魔物を、生き物を殺したことが怖かった。けど!それ以上に力を持った私が怖かったんです」


 魔法。それは俺達の世界では空想の力それでいて、とてつもなく強力な力だ。

 そんな空想上の力を本当に、持ってしまった。

 そんな力を持てば、きっと多くの人は喜ぶのだろう。


「わたしは魔物を簡単に殺してしまったとき思ったんです。もしかしたら、私の力が誰かを傷つけてしまうんじゃないかって。……おかしいですよね。私から兄さんに頼んで、戦いたいって言ったのに」


 月奈は気づいた。自分が強い力を持っていることに、誰かを簡単に傷つけることが出来る力を持ったことに。

 だからこそ、今こうして怖がっているのだ。


「おかしくない。月奈はおかしくない」


「にい、さん?」


「確かに俺に戦いたいって言った時は力を持っていることに気づいてなかった。けど、今気づくことができた。なら後は簡単だ」


 月奈は俺の言葉にどういうことだと、目で聞いてくる。

 俺はその目をまっすぐ見ながら、続きを話す


「月奈が間違った力の使い方をしそうになった時は俺が止める」


「っ!」


「だから月奈も、俺が間違えそうになった時は止めてくれ。そうやって二人で戦っていこう」


「っ!はい!」


 月奈は涙を流しながら俺を抱きしめる。

 俺もまた月奈を優しく抱きしめて頭を撫でた。





 ――――――――――――――――――――――


 月奈は泣き疲れてしまったのか、俺に抱きついたまま寝てしまった。

 俺は少し夜風に当たろうと月奈を起こさないように静かにテントから出る。


「ふぅ~。風が気持ちいいな……」


 風に当たりながら、ふと思い出したように俺は腕輪から剣を取り出す。


「少し刃が欠けてるな。直すか」


 剣はよく見ないと分からないくらい、刃が僅かに欠けていた。

 それを直すために腕輪から鉱石と砥石を取り出し、『錬金術』と『鍛冶』のスキルを発動させて作業をする。

 作業と言っても簡単な物で、錬金術で欠けた部分に鉱石を融合させて鍛冶のスキルで砥石を使って刃を研ぐ。


「よし、直ったな。本当に天は色んな物をくれたな」


 そんなことを呟きながら、俺が切ったゴブリンと月奈の言葉を思い出す。


「怖かった、か」


 月奈は自分の力が怖いと言った。それは俺にも理解できた。

 だが、


 魔物を、生き物を殺したことが怖かった。


 これについては理解は出来ても、共感は出来なかった。


 これまで平和に生きてきた者が未知の生物と戦い、殺す。そしてそれに恐怖を覚える。

 これはそうおかしなことではないのだろう。


「けど、俺はそう思えなかった」


 ゴブリンあいつはは月奈を傷つけようとした、だから殺した。

 きっと俺はこれからも多くの命を奪う、その時俺は恐怖や、罪悪感を覚えるだろうか?


「いや、無理だな」


 きっと俺はどんな命を奪ってもそうは思わない。

 たとえ人間であろうと月奈を傷つけようとするならば、命を奪うことを躊躇わないだろう。


「ふぁ〜。寝るか」


 俺は剣と手入れ道具をしまい、テントに戻って眠りについた。








 ―――――――――――――――――――――

 初めての戦闘から数日たった。


 あれ以降も戦闘はあったが、二人とも怪我をしたり体調を、崩したりすることなく無事に切り抜けることができた。


 とくに月奈は、あの日のやり取りで心に余裕ができたのか、具合が悪くなったり、フラフラとしたり、ボーとしたりすることはなくなった。



 そして今、


「町だな」


「町ですね」


 森を抜け、ようやく町に着くことができた。


























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