暑い日

遊楽

暑い日

ああ、暑い。

け切れそうだ。


近所のコンビニ袋をがさがさいわせながら、質素な自宅アパートへの道を戻る。


この袋は重くていらいらする。


何の気なしに外に出てきたが、こんなに暑いとは思わなかった。


じわりじわりと汗が滲んで、止まる兆しは一向に見えない。

背にはり付いた服は、昔買った特別なものだったが、そんなことは気にしていられない。


こんなことが続くと、汗染みができてしまうかもしれないが……やっぱり気にしてはいられない。


ここを歩く限りは汗をかき続けるのだから仕方ない。


身をよじるたび、湿った不快な臭いが身体から沸き上がる。

むわりと鼻を覆う空気を、鼻息でかき消すという無駄な抵抗を、もう何度もやっている。


滑稽だ。



こんなに暑いなら、外になんか出なけりゃ良かったか。


涼しくなりたい。


そうだ、今から海にでも行ってしまおうか。


そういえば最近、学生時代の同期が海での写真をSNSにあげていたな。


どこの海だったか覚えてないが、着いてしまえば以外と近いかもしれない。


潮水に浸かってゆったり浮いて、飽きたら浜でかき氷を食べよう。


トッピングの練乳も、ケチらずにかけて……





汗が滑り落ち、顎先から滴が離れた。


灼熱のアスファルトにぶつかって、じゅっと苦しそうに啼いた。


記憶を辿るようにしばらくその様を眺め……顔を上げたときには、何もかも忘れていた。


ただ家に帰らなくてはとだけ思う。

再び歩き出し、引き寄せられるように質素な自宅アパートへ。


「なんだかんだ言ってもな、あの部屋には思い入れがあるんだよ」


誰が吊り上げたのか、口の端が不自然に上向いている。


腕にのし掛かるコンビニ袋を持ち直す。


ああ、暑い。

暑いなあ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

暑い日 遊楽 @yura_hassenka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ