離婚

 







離婚
















人知れず悲しげに垂れ下がる、

シダレヤナギ風








 あなたは好きな人と、一緒に居たいと思いますか。

 一緒に居たいと思うこと、それが愛だというのなら。だとしたら――。

 私は先日、離婚しました。

 いやー、上手くいきましたよ。本当によかった。

 いやぁ。本当にバカなヤツですよ。本当に……。

 いや、私にも。愛さえあればお金なんていらない、そんな風に思う時期もあったんですよ。少しのお金と愛があれば、幸せに暮らしていける、だなんてね。

 でもやっぱり、違いましたね。そうはいかないんですよ、これが。

 娘もね、来年から高校生ですからね。この後も、大学やらなんやらって、お金がかかるでしょう。それに加えて、日々の生活費。

 いやー、お金ってのは本当にかかるもんですよ。

 なんて言ってもね、別に困窮してたわけじゃあないんですよ。私だってついこの間までは、愛さえあればって思ってたんですから。

 でも、あんなこと聞いちゃったらねぇ。そうも言ってらんないでしょ。

 本当だったらすぐにでも別れたかったんですけどね。いやー、離婚てのは時間も労力も奪われるもんですね。

 ただでさえ短い寿命が、余計縮むかと思いましたよ。はは。

 にしても、離婚を切り出した時の妻の顔。忘れらんないっすよ。

 嘘でしょ、って。何で、って。バッサリ切ってやりましたけどね。

 娘もすごかったなぁ。うちは反抗期っていう反抗期はなかったんですよ。仲良かったですからねぇ。その分、もーすごかったですよ。

 まあ、人生かかってるわけだし。一世一代の大勝負、って気持ちでしたからね。

 なんとしても別れたかったですし。

 いやでも、慰謝料。滅茶苦茶、支払いましたからね。

 どっからってそりゃあ、借金しましたよ。あんな大金、あるわけないじゃないですか。雀の涙ほどの貯金と合わせて全部、渡してやりましたよ。

 まあ、今後のことを考えると金融機関の皆さんには申し訳ないですけどね。そこは、まあ、私にも大事なものがありますから……。

 にしても、うちの嫁。って、もう嫁じゃないんですけどね。彼女は本当に可愛くってねぇ。何より、気立てがいいと言うか、愛想がいいと言うか。

 結婚してからも隙あらば、なんて男がいっぱいいましたからね。

 よく結婚できましたよね、私。

 共通の友人にもいましたよ。旦那が嫌になったらいつでも、何て冗談めかしに言ってましたけどね。あれは本心でしたよね。

 アイツの方が金もあるし、アイツと結婚してれば今頃もっと裕福だったろうに。何で私なんか選んだんでしょうね。ほんとに、バカですよ。

 いやー、でもアイツは良いヤツですからね。今も二人により添って、今後の相談とかのってるみたいだし。

 傷ついた彼女も娘も、完全にあっちに心いってますよ。

 まあ、状況が状況ですからね。みんな二人についてますよ。もともと彼女は人望もあったし。

 いやーでも、人の心なんて本当にいとも容易く変わるもんですね。

 あれだけ嫌われればね。妻も娘も、私が死のうがどうしようがもう微塵も悲しみゃしないでしょうね。

 えっ、何で別れたかって。そりゃあ、ねえ。

 言われたんですよ。医者から余命半年だって。

 突然ね。今までぴんぴんしてたのに、わかんないもんですね。治療しなければ余命半年。娘もこれからたくさんお金のかかる時期ですし、妻の負担だって尋常じゃない。

 でもこれでもう、大丈夫。金はあるし、支えてくれる人たちもいる。私が死んでも悲しまない。きっと知ることもない。

 一緒に居たいと思うこと、それが愛だというのなら。だとしたら私は、家族のことを愛してなんていないんでしょうね。

 でも、私にとって一番大事なのはね。一緒にいることじゃあない。愛でもない。妻と娘の、幸せなんですよ。

 目をつぶると、浮かびますよ。リビングに飾ってあった、家族写真。

思い出が。

 楽しかったなぁ。

 ――その日。とあるマンションの一室で、男が宙にぶら下がった。



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二〇一六年 六月一五日

二〇一六年 六月二八日 最終加筆修正

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