アナバスと神々の領域【1】
舞桜
アナバスの王子
城内の廊下を、明らかにに不機嫌な表情で歩いている鎧姿の青年がいた。
鎧姿といっても礼装のためのもので、装飾品が至る所に
額飾り、胴、手足の各部位の、一部分のみを
そして肩から広がる大きなマントも、礼装としての役割に花を添える装身具の1つとみなされ、かなり薄手なものに過ぎず、歩いているだけでひらひらと美しくたなびく。
下に着用している鎧に合わせて縫われた衣類が、鎧に覆われていない部位と見事に調和し、王族に引けを取らない華やかな仕上がりになっている。
そして鎧自体もとても軽量で、着用している者の動きの妨げにならず、自然な美を創り出す。
ただ、腰に携えた長剣だけは、柄こそ装飾されてはいるが、抜いた時の刀身に関しては、よく磨かれた実用的なものである。
青年は、額飾りを半ば
扉の脇にある四角い人物認識センサーの読み取り部分に、左手首に
バングル型のそれには、自身の識別コード、各地の悪魔情報、城の兵士達の動向、通信機器としての用途など、彼に必要な情報が全て入っており、必要に応じてデータ化された情報が即座に引き出せる。
今は、訪れた部屋の主に、自分の来訪を知らせるためにバングルを用いたに過ぎず、誰が来訪したかが、部屋の中の相手に伝わる仕組みだ。
「 開いてる〜 」
センサーを通じてでは無く、直接の声が扉の内側から小さく聞こえた。
大きな溜め息を漏らして両肩を落とし、彼は施錠されていない扉の内側に足を踏み入れた。
部屋の奥にある、決して
1人用としてはかなり広く、キングサイズよりも更に大きなベッドだ。
身体をうつ伏せに横たえ、両足首をトントンと軽く揺らし、リラックスした体勢で本を読んでいる青年。
この青年は、誰が見ても美しいと感嘆の声を上げずにはいられない不思議な魅力と、不可侵のベールに包まれたような雰囲気を持っている。
その身体は、女性のようにしなやかで、若干柔らかな丸みを帯びている。髪は、ちょうど
それ故に、男女問わず誰をも惹き付けて
その魅力の持ち主は、自分の部屋に入って来たはいいが、無言で立ち尽くす彼へと目を移した。
「 おかえり。どうだった? 」
声を掛けた途端、それまで抑えに抑えていた不満が爆発したのか、
「 どうだったじゃねぇよ!!! 俺が王族嫌いなのはお前だって知ってるよな!? なんでお前はこんなとこでくつろいでんだよっ! 」
と、帰城した青年は怒声にも似た大声を張り上げた。
しかしそれには動じず、ベッドに寝転がっていた青年は本を閉じてゆっくりと身体を起こし、
「 そんなこと言われても、俺だって王族は大嫌いだからさ …… 」
と、そのままベッドの上で
「 イヤイヤ、これ本来お前の仕事だからな? 俺らニアルアース・ナイトにゃ他にも溜まりに溜まった仕事があんだよ! たまには外交くらいしろよジェイ!」
その言葉に黙り込むジェイに対し、少し眉をしかめながら彼はソファーにどかっと腰を下ろした。そして再度、肩で大きなため息をつく。
( 相当疲れたんだろうな )
と、ジェイは
「 …… あれ? パープルは? 一緒に帰って来たんだろ?」
ふと気付いて、部屋の扉に視線をやった。
ジェイの部屋を訪れる時は、彼らはほぼ一緒にやって来るのだが、今は彼に続いてパープル・ナイトが入って来る気配は全く無い。
「 いや、あいつ律儀だろ? 俺なんか挨拶して早々、理由付けて帰って来たけどよ。リドアード星の王女たちがしつこくティータイムに付き合えってまとわりついてきてな。そのまま3王女に連れられて、謁見の間から出てったぜ。まだ帰って来れねーんじゃないか?」
「 おま … っ、ひど! パープルに押し付けて帰って来たとか、最低だなイエロー …… 」
わざと
「 俺たちはお前の代理で行ったんだぞ!? …… まァ、俺らが行っても王女たちは感激して迎えてくれたけどもだな、だいたいな、各星々の全ての女がお前に惚れてると言っても過言じゃないんだからな!?」
ハイハイ、もう聞き飽きた、とでも言いたげに片手に
「 特に! 王族の姫たちはお前が目当てなんだよ! どこの王子とも比較にすらならないその容姿で、しかも全星最高位のアナバスの王子様と結婚したいんだろーがよ! 毎月毎月お前目当ての
「 なーに馬鹿なこと言ってんだよ。アイツらは単にアナバスってゆー " 地位 " に惹かれてるだけなんだって。俺みたいな容姿の奴なんかそこらへんにゴロゴロいるし、第一俺はな、あんなゴテゴテに着飾った腐った性根の塊みたいな王族の女なんかに興味ないんだよ。
たまに顔出したらベタベタくっつかれたり
そこまで言って、ジェイは何か
「 もうさ、今後はさ、
言い終わらないうちに、ジェイはイエロー・ナイトの般若のごとく怒り狂った顔が間近にあることに気付き、ぎょっと後ずさった。
「 そんなこと出来るわきゃねーだろ馬鹿っ!!! それにな、もう1回言うぞ? お前の代理で今回出向いたのはな、オ・レ・た・ち、なんだよっ!!!」
だいたい、とイエロー・ナイトは思った。
( お前みたいな容姿の奴がごろごろ居たら、それこそ異常だぜ … 。ほんっとこいつ、ここまで自覚がないってのも厄介だよなぁ …… )
「 分かった、分かったって!」
イエロー・ナイトの怒りの形相に
が、次の瞬間 ┄┄┄┄
「 アハハ、ちょっ、馬鹿やめろって! アハハ!」
イエロー・ナイトはまるで子供に接するかのような
「 アハハハ、ひーっ、やめろって! …… 無理、もう無理、キブキブ! アハハハハ!」
「 お前みたいなヤツはな、こそばしの刑だボケ〜!!!」
「 アハハハハ、やめろイエローっ!!!」
この世界は、アナバスと呼ばれる星を中心に、その他8つの惑星で形成されている。
星々による階級は無いが、唯一、他星の王族や一般階級の住人に至る全ての人々から
アナバス星全体には強力な結界が張られており、悪魔が存在しない唯一の楽園の星とも呼ばれ、それが人々の
星々間での人民の移住は原則禁止で、旅行や観光においてのみ、他星に行くことが可能となる唯一の手段だ。しかしこれには、自星の許可が降りた場合にのみ有効、という条件付きである。
だが、アナバス星への観光は例外だ。
" 旅行 " という宿泊を
つまりアナバスへの観光は、自星の許可ではなく、アナバス側からの許可が必要となる。
当選確率は1億分の1とも言われ、また、このような
アナバスを含む9つの星の文明は高度に発達し、統治に関しては、星全体のトップに立つ王族と、各地に散らばる王族の血筋を引く者たちによって治められている。
王族以外の住人は、各地それぞれの王族が
王族絶対主義であり、例え不当だと思われる些細なことや、あらぬ濡れ衣などを着せれた場合でも、まず主張すら受け入れてもらえず、厳しい処罰を受けざるを得なくなる。
そういった理不尽なことが全く無いと噂されているのがアナバスであり、これもまた人々の憧れを強める要因だ。
ましてや、アナバスの王位継承者である唯一の王子ジェッド・ホルクスが、この世の者とは思えないほど容姿端麗で、温かく柔らかな雰囲気に包まれており、男女関係なく人々を魅了して
これら全ての理由を総合し、アナバスでは王族からの不当な支配は無いとの信憑性が、人々の間ではほぼ確信されている。
この世界には悪魔という、人を捕食する生物が数多く存在しており、その強さによって大きく分類が成されている。
下級悪魔、中級悪魔、上級悪魔、そしてそれらの悪魔が太刀打ち出来ないほど強大な
最上悪魔は他の悪魔と違い、ほとんど人前に姿を見せることは無いが、半年に1度ほどの間隔で、人肉を大量摂取する。
ほぼ全ての悪魔の姿形は人とさほど変わらない。各星々での悪魔目撃情報は随時アナバスに送られ、得られた範囲での容姿と名前、強さに分類され、現在確認されている全ての悪魔の最新情報が、全星に広く公開されている。
悪魔開示情報の専用機器は、余すことなく全星全ての住人1人1人にアナバスから無料支給された、小型の携帯機器である。ポケットに入るサイズであり、王族以外は大抵の住人が身に付ける生活必需品となっている。
また、悪魔に関する最新情報が入れば、アナバスからの操作1つで自動的に更新される仕組みだ。
そしてそれに貢献しているのが、全星各地に配置されたアナバスの兵士たちと、全星の住人がアナバスに直接転送することが出来る、通信型レター装置の存在である。
通信型レター装置とは、助けを求める住人のための救済ポストであり、悪魔の被害や王族からの弾圧など、声を上げることが出来ない人々のために、アナバスが全星各地に設置している。
無論、それら全ての要求に応えられることはまず無いが、明らかに急を要する助けは優先され、アナバスの兵士が動く。
そういった様々な救済メールを一括管理しているのが " パープル・ナイト " の称号を持つ、現在、全星最強の兵士レイク・サウストールという人物だ。
救済メールの大まかな仕分けは、彼の部署の兵士たちの仕事だが、基本的に彼はその性格上、ほとんどのメールに目を通し、その内容に適したアナバス兵を現地に派遣する。
そのパープル・ナイトの次に位置するのが " イエロー・ナイト " の称号を持つヒューズ・カルナだ。
全星各地に
パープル・ナイトとイエロー・ナイトは、約2年前に同時に代替わりしたばかりで、
ニアルアース・ナイトはその担当任務の
勿論、ニアルアース・ナイト就任後でも、途中で彼らより強い能力を持つ候補者が現れた場合の交代も有り
また、アナバスの兵士は他星と比べて役割が大きく異なる。
他星の兵士はその星の王族を悪魔から守ることだけが仕事だが、アナバスの兵士はそれ以外に、全星の治安のため悪魔被害を最小限に
そして本来ならば、これらアナバスの兵士たちを統括する特別な任に就く騎士は、3人存在する。
それが、イエロー・ナイト、パープル・ナイト、そして、兵士最高位の称号を持つブラック・ナイトである。
だが現在、ブラック・ナイトは空席であり、昔から実際に存在したのかどうかも、人々の間では知られていない。しかし現在に
そしてこの3騎士を総称して、ニアルアース・ナイトと呼ぶ。
彼らは正確にはどの星にも属さず、全星の王族の
それ故に彼らはアナバス城内に個々の自室を持つ。
他星の3~4倍の人数がいるとされているアナバス兵たちも同様に、2人部屋ではあるが、兵士宿舎塔が城内に完備されている。
つまり、アナバスの兵士に就任出来た者は、特例として、出身星からアナバスへの移住が許可され、正式なアナバスの住人となる。当然それは余程のことがない限り、家族も同様の扱いを受ける。城外に家が与えられ、兵士は城内の宿舎か、城外の家族と共に暮らすかを選択出来るのだ。
そのため、
その時々の応募者数により5〜10回の選別が行われ、まずは応募者同士での
その上で、一般兵士の管理・訓練者、ニアルアース・ナイト、アナバス王族の前で能力を披露し、合否が決まる仕組みとなっている。
ジェイとイエロー・ナイトが、アハハギャハハとベッドの上で
「 なにやってんの …… 」
と、静かな落ち着いた、しかし
「 どうせここにいるだろうと思って、無断で入って来たよ。中から笑い声も聞こえてくるし 」
あっ、とジェイが小さく声を上げ、するりとイエロー・ナイトをかわし、
「 おかえりパープル! なんかめっちゃ良い匂いがする!!!」
と彼に駆け寄った。
そんなジェイに苦笑して、パープル・ナイトは両手で抱えていた大きな紙袋を手渡す。
「 リドアードの姫たちが、 " 少々体調を崩して寝込んでいる " ジェイにって、預かって来たよ 」
パープル・ナイトが若干の皮肉を込めて言うその間にも、ジェイは紙袋の中身を確かめ、テーブルへと持って行く。
中には大量のケーキやクッキーが、綺麗なラッピングと共に入っていた。
「 マジ嬉しいっ! あの王女たちみんな、お菓子作りだけは最高に上手いんだよなっ♪」
ジェイはひらりとテーブルに飛び乗り、片膝を立てて早速カップケーキを手に取る。とても全星の人々から憧れの眼差しを向けられる、 "
「 俺にも
イエロー・ナイトもベッドから降りて来て、クッキーのラッピングを開けている。
やれやれと再度苦笑して、パープル・ナイトはふと廊下に気配を感じ、部屋を出た。
「 ありがとう 」
にっこりとたおやかな微笑みを相手に向けてから、ジェイの部屋へと戻る。
彼の持つトレイには、3客のティーカップと、優しく心安らぐような香りの湯気が立ちのぼるティーポットがあった。
パープル・ナイトはトレイをサイドテーブルに置き、
「 帰った時にすれ違った侍女に用意して貰ったんだ。イエローの王族嫌いからのストレス
ティーポットから黄金色の液体をカップに
「 俺の好きなオレンジ・ペコ! さすがパープル〜、がさつな誰かとは全然違うよなっ 」
パープル・ナイトの首に両手を回し、ジェイはチラッとイエロー・ナイトを
「 るっせぇよジェイ! 仮病使って俺らに
ひょいとテーブルから降り、今度は長いテーブル周りを逃げるジェイを、イエロー・ナイトが追い回す。
「 … お茶をこぼして火傷しないようにね 」
パープル・ナイトは1人ソファーに腰掛け、恐らく2人の耳には絶対に届いていないであろう注意を
ニアルアース・ナイトも、全星から絶大な人気を誇る。男性からは強さの象徴として目指すべき目標となり、女性からは黄色い歓声が常に飛び交う。
ジェイと大きく違う点は、強く頼もしい男性像と、それに加え一般女性からは
また、パープル・ナイトの容姿も端麗だ。ふんわりと風に揺れる、淡い栗色のような、
一方のイエロー・ナイトは、パープル・ナイトとは対照的な魅力を持つ。男らしい肉質の体格、濃い黄に赤みがかったような
また、彼らは最年少のニアルアース・ナイトとしても有名で、現在18歳という若さだ。つまり、16の
しかして、その強さや統率能力は申し分の無いものであり、
また、
散々走り回った
呆れて少しの間はそんな2人を見ていたパープル・ナイトだが、おもむろにティーカップをテーブルに置いて立ち上がった。
「 イエロー、帰城して一息着けたことだし、そろそろこれから着替えて、カジュデイル星に行くよ 」
その言葉に、イエロー・ナイトは視線だけを彼に移した。
「 なに、悪魔か?」
「 そうなんだ。さっき部署に立ち寄って来たんだけど、今日の昼過ぎに届いたものでね。まだ4時間ほどしか経ってないから。詳細は行きながら話すよ 」
言いながら部屋を出て行こうとするパープル・ナイトの背後から、
「 俺も行くーっ♪」
と能天気なジェイの声が響いた。
通常、多くの星の王族は、まず悪魔や悪魔による被害に積極的に
自分たちさえ悪魔から襲われなければ、逆に喜んで
城外で暮らす人々の、いつ悪魔に殺されるか分からない不安と隣り合わせの生活など、王族には全く想像もつかないのだ。
そのため、悪魔から襲われて助けを求める依頼は、ごく当たり前のようにアナバスに届く。
その任務の中で、ニアルアース・ナイトが2
どの星でも、兵士には専用の戦闘服や、軽量の鎧などを支給しているが、ニアルアース・ナイトは主に礼装用の鎧しか
何故なら彼らほどの能力の持ち主は、自分に適した服装での戦闘を好む。戦闘服や鎧などで悪魔からの攻撃を防御するより、その攻撃能力に見合った防御能力を使う方が速いからだ。
ニアルアース・ナイトが着替え終え、ジェイを含む3人がカジュデイル星に着いたのは、その後1分も
他星での詳細は不明だが、アナバス城に関しては、瞬間移動装置が設備されている。
最大10人までが1度に利用でき、これが5台設置されている。依頼のあった座標を入力すれば、一瞬で目的地に着く。
アナバス兵といえど、全員が自力でテレポート出来る能力を持っている訳では無い。もちろん日々訓練をして能力の向上に
また、テレポートにはかなりの能力を消費するため、悪魔との戦闘時に
ジェイは、依頼のあった場所ではなく、ニアルアース・ナイトに指定された座標を入力し、彼らと落ち合った。
被害にあったのは、カジュデイル星の主な都市からは随分とかけ離れた、深い森の奥に位置する村だ。
「 要請があったのは、この先の村からでね。人口は100人足らず。今朝起きたら、その約3分の1にあたる、31人が亡くなっていたそうなんだ 」
村長の家へと向かいながら、パープル・ナイトが説明する。
自給自足で暮らすこの村では、ほとんど街に出た者はおらず、高度な技術も取り入れていない。
皆が
つまり、真っ暗になった昨晩から今朝までの間に、悪魔が現れたことになる。
悪魔が一度に人を喰らうのは2〜3人とされている。このことから、
下級悪魔は
つまり、今夜は昨晩見張り役だった悪魔が、喰う側になって襲来する可能性が高いのだ。
このように下級悪魔が敢えて同じ場所を襲うには訳がある。1つは、最初の捕食で、見張り役の悪魔たちがその場所の周辺建造物や道の入り組みなどを把握し、退路を確保出来ること。2つ目は、最初の襲撃人数を増やし、2回目は喰う側の人数を減らす。それにより見張り役は前日より増え、同じレベルの悪魔に横取りされないような体制を取り、早々にその場を離れることが可能になるからだ。
┈┈┈┈ ただ、
とパープル・ナイトは続けた。
「 下級悪魔じゃない可能性もある。俺たちの今日の大きな予定は、リドアード星への外交のみだった。だから、その可能性を見極めるためにも、俺たちが直接来た方が早いと思ったんだ。こうして動けて、ちょうど良かったよ 」
「 だな、現場を見てみなきゃ分からないけど、中級悪魔が連れ立って現れて、面白半分に喰い散らかしたとか、上級悪魔の可能性もあるしな 」
イエロー・ナイトも
「 ま、最上悪魔じゃないことだけは確かだな。アイツらは人を喰う間隔が長いから、一度に30〜50人は当たり前だしよ、そこにヤツらの
イエロー・ナイトがそう言い終えたのと同時に、先頭を歩いていたパープル・ナイトが急に走り出した。慌ててジェイも後を追い、その後からイエロー・ナイトが続く。
恐らくここが村の入口であろう。
道を
家から引きずり出された人は、
その惨状が数百メートルにも渡って続いている様は、
「 … 俺、ちょっと無理 …… 」
入口で立ち止まり、ニアルアース・ナイトがその惨状を検分している様を、ジェイは遠巻きに
ある程度の状況を把握したのか、パープル・ナイトは立ち上がった。
「 …… やっぱり、下級悪魔の
「 ああ、俺もそう思う。だとしたら、今晩あたり、必ず第二弾が来るな 」
まだ死体の
「 行くよ、ジェイ 」
パープル・ナイトに声を掛けられたジェイは、あからさまに眉をしかめた。
下を見ないようニアルアース・ナイトに近付き、そして、意を決したように、おずおずと右手を差し出した。
「 目を
「 はァ!? なに甘えてんだジェイ! ふざっけんなよな!!!」
イエロー・ナイトが目を吊り上げて声を荒げる。
「 ごめん、王子で …… 」
全くよォ …… とブツブツ
「 とにかく急ごう。今夜の計画を村長に伝える。だからジェイ、目を開けても大丈夫になったら言うから、そこからはスピードを上げるよ?」
「 分かった!」
陽がだいぶ
「 まさかこんなに早く、それもニアルアース・ナイト様にご対応頂けるとは …… 」
高齢の村長を始め、集まった10人の村の男たちは、感謝と
「 いえ、当然のことですから、どうかお顔を上げてください 」
パープル・ナイトは穏やかな微笑みを浮かべ、村長の
「 我々は最悪の事態を想定して来ました。亡くなられた方々は残念ですが、これ以上の被害は
その言葉に、村人たちは更に泣き
「 村の若い
( そうか、それで要請が届いたのが昼過ぎになったのか )
イエロー・ナイトはそう思いながら、そっと村人たちを見回した。
悪魔による被害を受けた者たちの、大きな悲しみが伝わってくる。昨日の夕方まで共に笑い合っていた仲間が、一晩明けてみれば変わり果てた姿になっていたのだから。
「 村長、皆さん。もし今夜も悪魔が来るとすれば、それは昨夜より早い時間に来ると覚悟してください。何故なら今回の悪魔は、我々に知られないよう、
パープル・ナイトは
能力を持たない一般人にしてみれば、悪魔の強さなど関係ない。常に悪魔は捕食者であり、自分たちは捕食される側という、決して
そこへ、悪魔が単体でないことや、悪魔の習性を話したところで、ますます村人たちの恐怖心を
パープル・ナイトは、これから村人たちの取るべき行動について話を進めた。
まず第一に、無事生き延びた村人の家に、夜を迎えるための明かりをつけること。これは、悪魔がもう襲って来ないだろうと通常生活をしていること = 悪魔討伐のために誰も来ていないと、間接的に信じさせるためのものだ。
第二に、明かりをつけた後はすぐに自宅を
そして最後に、
当然ニアルアース・ナイトにとって下級悪魔など相手にならないが、群れで来る悪魔たちが散らばれば、
また、この村を目指してやってくる下級悪魔全てを、村に入る前に迎え撃つ方法もあるが、それにも
万が一にも近くを上級悪魔やそれに近い中級悪魔が通りがかった場合、村人が身を
悪魔にとっては
故にニアルアース・ナイトは、村人の近くで
「 で、では …… 囮になる者は … 死を意味することとなるのでは ……?」
ざわつく村人と村長の不安をかき消すかのように、パープル・ナイトはにっこりと微笑んだ。
「 ご安心を。囮にはこの者がなりますので 」
と、小1時間程度の正座で足の
「 …… っは!?」
突然振られた話に、
その隣りではイエロー・ナイトが笑いを
「 あ、あの …… 失礼ですが、そちらの方は … 」
心配そうにジェイを見遣り、村長がおずおずと口を開く。
「 この者は、アナバスの兵士見習いです。心配には及びません。それに、」
とパープル・ナイトは続けた。
「 この者はすぐには殺されません。この容姿ですから、悪魔でさえも
┈┈┈┈┈ 確かに!
村人たちは大きくしっかりと
( なんだよ、なんなんだよ、パープルの奴っ! 俺は王子だぞ!? なのに守る気全然ねぇじゃん!)
そんな不満と
あのあと3人になった時に
今の時期だとこの服装でもまだ通用する上、実際に、集まっていた村人の中にも同じ服装の
ただ、中性的なジェイが着ると、
だが、ジェイ本人に全くその自覚が無いことが
ザワザワと嫌な風が吹き荒れた。
来たな、とパープル・ナイトはジェイが見える位置で待機するが、
ギリ、と歯を食いしばった瞬間、
「 ひゃあっほーう! 俺が一番乗りだァ!!!」
木々の間から屋根を伝い、盗賊のような
「 …… ぐっ!」
後から村に入ってくる仲間をチラ、と後ろ目に
( 子供だ!)
悲鳴の正体は、5〜6歳くらいの少女だった。親とはぐれたのか、1人逃げ回っていた様子で
パープル・ナイトは小さく舌打ちした。村人たちが避難して行く中で、この
そしてそのことにより、パープル・ナイトはジェイが
「 イエロー、幼い女の子を保護した 」
小声でバングルの通信機能を使う。
「 了解、最後の村人だ。ここの明かりは既に消してる。俺が村に出る、入って来た悪魔は9人、
「 分かった 」
短い会話を終えた瞬間、少女を
ニアルアース・ナイトや兵士たち、すなわち
" 気 " を感じ取ることは、能力者にとっては一番底辺に位置する、基本中の基本能力である。もちろん能力の強さに比例して、感じ取れる " 気 " の数は違うが、これにより、敵が何人いてどこにいるのかを判断し戦闘を行う。
自分より弱い能力を持つ相手の気はたやすく
今、ニアルアース・ナイトは確実に悪魔たちの居場所全てを
一方、家の中に連れ込まれたジェイは、テーブルの上に上半身を叩きつけられ、
「 んん〜? この家は明かりがあるのに不在かぁ?」
悪魔はキョロキョロと周りを見渡したが、すぐにジェイに目を戻した。
「 離せ!」
ジェイは悪魔に
しかしそれは、どうやら逆効果だったようだ。悪魔はにやにやと
「 お前 ……… 喰い物のくせに、
「 はぁ?」
悪魔の言う意味が分からず、ジェイは眉根を寄せた。
「 お前みたいな
テーブルに乗せられていない、床に足が着かない状態のジェイの両足を、悪魔は
ジェイの首筋に、悪魔の
「 ちょ… 、」
ジェイの全身に、ぶわっと鳥肌が立つ。
悪魔の顔が近付いて来ただけで、そしてその息がかかっただけでも、もの
( アイツらっ、なにやってんだよ!!! マジで俺を見捨てるつもりか!? こんな頭のおかしなヤツ …… もう、限界かも ……っ )
ハッとイエロー・ナイトは顔を上げた。ちょうど6人目の悪魔を倒した直後だった。村には残り3人の悪魔、だが、見張り役の悪魔たちの気配が、
( 感じていた見張りの悪魔は12人。俺の動きを読んで、パープルが倒したのか? 村の悪魔は
「 ガ、ハッ……! 」
ジェイを
「 あ ……… 」
気付けば、悪魔の姿は一瞬にして真っ黒な炎に包まれ、
代わりに冷たくジェイを見下ろす、
「 なにを遊んでいる、ジェイ 」
「 ルトこそ …… なんでここに?」
疑問を投げかけながら、ジェイはゆっくりとテーブルから降りた。ふぅ、と一息つく。
「 さっきの体勢、かなりキツかったからさ …… 」
そして、目の前の男を正面から見上げた。
「 … なに怒ってんだよ?」
「 いいから俺の質問に答えろ!」
ルト、とジェイが呼んだ男は、思わず
「 お前はさっき、あんな
え? と、ジェイはきょとんとした表情で首を
「 なにを … って、
「 ジェイお前 ………… 」
「 頼むからいい加減に自覚しろ ……… 」
彼が発した小さな
「 え、なんて? おい、… ルトアミス? 」
彼の言動の意味が分からず、そしてただただ今の状態に
「 とりあえずもうイエローが来るから!」
と、自分でもよく分からない言い訳をして、彼から
「 大丈夫だ、
「 え 」
「 お前が抵抗しないのなら、さっきの馬鹿がお前に何をしようとしていたか、今から
┄┄┄┄ が、
「
ルトアミスを
「 ん … っ」
「 なんなんだよ、もう! さっきの悪魔といいお前といい、意味分かんないことばっか俺に押し付けんな!」
続けて、
「 さっさと行けよ 」
そう言い捨て、ジェイはルトアミスに背を向けた。
ルトアミスはやり切れないようなため息を小さくついて、前髪をかきあげた。
「 …… すまなかった 」
低く呟くようにそう言って、ルトアミスはパチンと指を鳴らす。時を止めていた術を解除したことは、ジェイでも
ハッとジェイはルトアミスを
ルトアミスが
「 ルト、あの、…… 助けてくれてありがとう 」
その言葉に、彼はふっと優しい笑みを浮かべ、しかし次の瞬間にはその姿は消えていた。
「 ここに
ルトアミスとほぼ入れ替わるように、イエロー・ナイトが走り込んできた。
イエロー・ナイトの無責任な問いかけにジェイはムッと
「 ……… あぁ、この通りな 」
「 それより …… 見張りの悪魔の気配が急に消えた。今、パープルが調べに行ってるぜ 」
パープル・ナイトは、見張り役の悪魔たちの気配が消えた時、
当然、虫の息である悪魔が1人いることは分かっていたが、念のため、悪魔の気配があった場所を1つずつ回っていた。
結果、パープル・ナイトが目にしたのは、木々から大量の血が
腹を切られ、飛び出た内臓の一部を
それも、殺されたばかりの生々しい血の
パープル・ナイトはその
無数の木の茂みの細い枝が顔以外の体全体にびっしりと突き刺さっており、その肉体は
まだ話せるだろうか、とパープル・ナイトは近くの枝に飛び移る。と、微かに口元が動いていることに気付く。
「 な、な……ぜ、ヒクッ、じ…、まを、す、る。オれ、は、ジ、ジヌ……クハッ…… 」
「 ここで何が起こったの?」
その声が下級悪魔に届いたかは分からない。分からないが、次に悪魔の口から吐き出された言葉は、
「 ガ、グ、グ、な…ぜ、なぜ、ル、ルル……ミス、ゲボッ、…じゃ、まを、われ、ラ、しょくじ、ル、ミス、……し、も、べ………が 」
下級悪魔はそこで
そして、悪魔のその
なんとか動揺を
昨夜に続き今夜の悪魔襲撃に、
「 パープル、村の方々には報告済みだぜ。… とは言っても、すぐには恐怖は
「 そうだね … でも、ありがとう。それで、今後はどうされるって?」
「 ああ、
今回のように、村や町全体が悪魔の被害に合ったり、例え1人、つまり個人で
それに加え、被害者(生存の場合)やその親族、近隣住人、被害場所に
兵士たちがその希望者を取り
今回は村人全員が、同じこの土地で暮らして行くと決断したようだが、過去に見てきた被害者の中には、転居を希望する者は決して少なくはない。
長老がジェイたち3人の前に進み出た。
「 最後にお助け頂いた幼子、リーヌは、昨夜両親を亡くしたのでございます。皆で代わる代わる様子を見ていたつもりが、ここに来るまでにはぐれたようで、申し訳ございませんでした。…… 今朝から口がきけなくなっております。本当にお助け頂いて、何とお礼を申し上げて良いのやら …… 」
自分たちがこの村に来た時から今に
「 必ず全員お守りすると、お約束しました。礼など、とんでもないですよ 」
ふと、
「 どうしたんだよ? なんか、真っ青な顔してる?」
心配そうにそっと
どうやら
長老にバレやしなかっただろうかと
「 イエロー、ごめん、
「 え? 事後処理って …… なんの? 俺はヤツらの死体が残らないよう、
そう答えてから、イエロー・ナイトは、まさか、と続けた。
「 パープルが調べに行った見張りの悪魔、確か12人だよな。炎上してなかったのか? てか、何があったか分かったのか?」
イエロー・ナイトの言葉によって、その光景が鮮明に思い出され、パープル・ナイトは必死で吐き気を
「 ごめん、それについては、帰ってからで …… 」
そう途中まで言葉にしてから、パープル・ナイトは自力でゆっくりと立ち上がった。
「 …… ほんと大丈夫かよ?」
ジェイが不安げにパープル・ナイトを見上げる。
大丈夫、と答えるかのように、彼はジェイの頭にそっと
「 ごめん、さっきの言葉は
「 え? そりゃもちろん付き合うけどよ …… 」
「 俺がどうかしてた …… 。あんな地獄絵図状態の後処理を、アナバスの兵士にやってもらおうだなんて。…… ニアルアース・ナイト失格だな 」
そして、真っ直ぐにイエロー・ナイトを
「 俺たちにしかあの死体は片付けられない。イエロー、正直に言うよ。今まで俺たちが見てきた、悪魔の
それを聞いたイエロー・ナイトは、ゴクリと
┄┄┄┄ が、
「 状況は分かった。パープルがキツそうな理由もな。よし、一緒に片付けに行こうぜ!」
ニッと強い
集会所に1
後からこの場所に合流したジェイも、やっと真っ暗な広い集会所に目が
もはや悪夢は過ぎ去ったとはいえ、村人たちは家族や仲間の命を一瞬のうちに
暗い影が、彼らの心の内に大きな広がりを見せていることは
ジェイは長老の
「 ここの明かりは、どこでつけられますか?」
あぁ、と長老は
恐らくは老体と恐怖による手の震えだろう。ジェイは村を支えてきた長老の
「 少し、明かりをつけたいと思います。一度目を閉じて頂き、少しずつ開けて目を
ジェイの
村人たちが一度閉じた目を再び開いて最初に目にしたものは、先程の声の主、ジェイであった。
人工的な光とはいえ、
最初にジェイと対面した長老や
誰もがジェイの
ジェイはゆっくりと長老の前に正座し、身を
そして、静かな口調で話し出す。
「 皆さん、夜明けまでにはまだ時間があります。どうか今夜はこの集会所で、皆さん全員でお休み頂くことをお
悪魔はニアルアース・ナイトが確実に除去しました。ですが、まだ恐怖や悲しみ、
朝には
パープル・ナイトの柔らかな話し方とはまた違った温かさを持つ、心に澄み渡るような美しい声だった。
あとは … 、とジェイは更に続けた。
「 皆さんがこの地に
一つ一つの言葉をゆっくりと丁寧に
「 あ、の …… もしや、もしや
長老がなんとか言葉を
しかしジェイは、そんな村長の言葉を
「 あ、すみません! 見習いなのに
先程の
村人たちはジェイの笑顔と言葉に、やっと少しばかりの安堵の表情を見せた。
ジェイは彼らの
今回の件を簡単に説明したあと、朝日が昇る頃までにはこの村に来て、補修作業と村人たちのケアを行なうよう指示を出す。また、3日間この任務を続けることと、そのために派遣する兵士は引き継ぎをして交代制で行うことの許可を与えた。
通信を終えたジェイは、明かりのボタンに手をかけた。
「 明かりを消しますね!ニアルアース・ナイトが戻り次第、我々はここを去りますが、どうかお休みになっていてください。アナバス兵も十数名、こちらに
言い終わり村人たちを優しい瞳で見回してから、ジェイは集会所の明かりを消し、再び暗闇が辺りを
しかし、今まで村人に恐怖と不安の影を落とし続けていた闇は、少しではあるが
アナバス城に戻ったジェイたちは、パープル・ナイトの希望で、ジェイの部屋で休養していた。
城の中でも特に厳重な警備が敷かれ、ジェイの部屋に続く廊下を行き来出来る者は最小限の人数と、それを許された者だけに限られている。
つまり、いくら平和なアナバスにあっても、ジェイの部屋は一番情報が
村の集会所で待つジェイの元にニアルアース・ナイトが戻ってきた時、やはり下級悪魔たちの惨殺死体は、今まで彼らが見てきた " 悪魔が喰い散らかした人々の死体 " とは全く比較にならない、トラウマになりそうなレベルであったらしい。
とりあえずは
アナバス城の専属医に処方して貰った安定剤を飲み、ジェイの部屋のダブルベッドに、ニアルアース・ナイトは2人して横になっていた。
こちらのベッドはジェイ自身が利用することは無く、たまにニアルアース・ナイトどちらかが利用している。言い換えれば、それほど3人の仲の信頼度が、身分を超えて高いということだ。
パープル・ナイトは、まだ息のあった下級悪魔の最期の言葉、恐怖に
〝 ルトアミス 〟とも取れる
「 それ …… もう確定だろ? 最上悪魔ルトアミスの
イエロー・ナイトは張りのない声でそう言って、更に続けた。
「 本人が居たかどうかは不明だとしてもよ …… 下級悪魔たちは突然、何らかの理由でルトアミスの
「 でも …… 最上悪魔の
「 んー、だいたい最上悪魔と
ニアルアース・ナイトが下級悪魔惨殺のことについて話をしているのを、ジェイは自身のベッドの上で片膝を抱え、静かに聞いていた。
「 そう言えばジェイ 」
イエロー・ナイトに話を振られたジェイは、
「 んー?」
と、彼らの方を見ることなく、返事をする。
「 お前は何も見なかったか?お前、俺が村に入って来た悪魔を倒して行った時、最後の悪魔の気配がある家に居ただろ?」
「 俺は … 」
と、ジェイはそこでニアルアース・ナイトに目を向けた。
「 一番最初に大声上げて入って来た悪魔に
…… お前ら全っ然助けに来ないから、俺マジでどうしようか、すんごい
ぷいと
あ … 、とニアルアース・ナイトは
「 ま、まァそれは
「 されたって!!!」
ジェイは勢いよくベッドの上で立ち上がった。
その言葉といきなりの大声に、ニアルアース・ナイトは、えっ!?とジェイを見上げた。
「 悪魔に首を
そう続けたジェイに、
「 な、なんだ … 、ビビらすなよ、それだけか …… 」
ニアルアース・ナイトはホッと安堵の息をつく。
そんなイエロー・ナイトの
「 悪かったって!」
慌てて謝るが、ジェイの怒りは収まらない。
ベッドに仁王立ちして、声を
「 ほんっと、俺を
「 それは … うん、ごめんジェイ ……… 」
今はどんな言い訳をしても仕方がないと判断したパープル・ナイトは、素直に謝った。
はァ、と勢いを
全星の人々が最も恐れ、そして悪魔からは
そして、その最上悪魔の中でも特に1、2を争う
ただ、とにかく最上悪魔に関する情報は少ない。
しかし、アナバス兵にだけは、
頂点に立つルトアミスとファズが直接ぶつかったことは無いと推測されてはいるが、その能力はほぼ互角と噂され、 "
また最上悪魔には、
ただ唯一分かっていることは、
アナバスでの、悪魔を研究する部署の一部の者たちからは、下僕は上級悪魔さえ上回る能力を持っているのではとの声も上がっているが、それはあくまでも推測の域を出ない。
「 …… ルトアミスは、あの村に居たんじゃないかな 」
ぼそっと呟いたジェイに、ニアルアース・ナイトはゆっくりと体を起こした。
ジェイは相変わらず天井を見上げたまま、続けて言った。
「 だってさ、よく分からないけど … 下級悪魔はルトアミスの
ニアルアース・ナイトは互いに顔を見合わせた。
「 確かにそれは考えられるよなぁ。…… けどよ、だったらなんでルトアミスみたいな大物が、あの村に居たんだ?」
ゆっくりと再びベッドに横になったイエロー・ナイトは、当然の疑問を口にした。
何せ、あの村にルトアミス本人が居たとしても、そして悪魔の底辺である下級悪魔を殺した
その証拠に、村人は誰一人喰べられていない。そして、ニアルアース・ナイトとも一切遭遇していないのだから。
「 そんなの俺に分かる訳ねぇだろ?」
そう答えたジェイを見て、パープル・ナイトも再びベッドに体を
彼は、もしかしたらルトアミスはあの村でジェイと何かしらの接点を持ったのではないかと、
この位置からではジェイの表情は全く見えないが、先程のジェイの言葉から、その可能性は単なる自分の
気付けば、隣りでイエロー・ナイトは寝てしまったようだ。つい今しがたまでジェイと会話をしていたのに、と、パープル・ナイトは苦笑した。
今回の任務には、全く想定すらしていなかった最上悪魔ルトアミスが、何らかの理由で関わっていた。それによる下級悪魔の残骸処理の負担は、イエロー・ナイトが
互いの仕事以外ではほとんどの時間を共に過ごし、ニアルアース・ナイトとしても友人としても、気の合う信頼出来るパートナーである。
パープル・ナイトはそのことを、今回の件によって強く再認識し、彼が " イエロー・ナイト " で本当に良かったと心からその有り難さを噛み締めた。
ジェイは両腕を枕替わりにして、ぼんやりと天井を見つめながら、ルトアミスのことを考えていた。
( あの時、あのタイミングでルトが現れたのは、果たして偶然なんだろうか。城外に出れば、高確率で彼と遭遇するのは何故なんだろう。偶然にしては、多過ぎる。ましてや最上悪魔は滅多に人前に姿を現さないはずなのに …… )
そして
最初は少し驚きこそしたが、互いの唇が軽く触れ合うものだったため、悪魔同士のスキンシップなのかと思い、ほんの少しずつではあるがその行為に慣れていった。
しかし、徐々に唇が合わさる時間が長くなり、それに加え
そしてここ最近、突然口の中に彼の舌を入れられたのだ。
さすがにジェイは驚いてルトアミスから
ルトアミスが村でジェイを助けた時も
( ルトは …… 何が目的で俺に近付くのかな ……… )
そう考えを巡らせていると、徐々に襲い来る睡魔に勝てなくなり、ジェイはベッドにやんわりとその
┄┄┄┄ 完 ┄┄┄┄
現在、【2】巻まで公開中。ジェイのアナバス城内での様子を書いているのと、ルトアミスとの絡みが増えます。
【3】は悪魔界へ行く話で、前編後編に別れる予定で、執筆中です。
次巻もよろしくお願い致します。
舞桜
アナバスと神々の領域【1】 舞桜 @MA-I
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