第7話『攻略は近くて遠い』

「カナタ」

「ん? なに? ……もう、なんで見つめてくるの?」


 照れながら髪をいじるカナタに、俺の思考は攻略方法について思考を張り巡らせた。

 一般的に見て、カナタはとても可愛い。モデルであると言われても「そうなんだ」と納得してしまうほどに。


 だからこそ俺は、強く思ってしまう。

 どうやって攻略すればいいんだ……と。


 俺ことマサキはそこまで顔が良くない。……あ、ごめんねディスっちゃった。

 まぁ、それはさておきとして。ザ・モブな顔である俺がどう攻略すればいいと言うんだ……?


「マサキくん?」

「ごめん! 急なんだけど、今日学校休んでレストランでも行かない? なんか急に話したくなって」

「え……でも、学校は?」

「学校なんていつでも行けるし、少しだけ! 無理……かな?」

「んーん! いいよ、あはは……マサキくんから誘われるなんて思ってもなかったよ」


 紫紺の瞳を歓喜に染め、水色の髪から生えるアホ毛がぴょこぴょこしている。

 俺はそんな嬉しそうにしてくれるカナタに対して『ワンチャンあるのでは?』と可能性を感じていたことで、あることを見逃していた。


 カナタの左上にあった数値が80から90に変わっていたことに。


 *


 レストランに着くと、カナタは嬉々としてメニューに目を通す。


「これ食べたいなぁ……あ、こっちも美味しそう!」


 レストランとは様々な料理があり、ジャンルもバラけている。

 故に色々なモノが食べたくなり、決めきれなくて時間をかけてしまう。……誰得情報?


「悩むよー!」

「どれで悩んでんの?」

「こっちのハンバーグも美味しそうだし、パスタも食べたい……あ、ピザも!」

「じゃあ全部頼もうか」

「え!? それじゃあ食べきれないよ」


 驚きと嬉しさを混ぜた表情のカナタがつい面白くて吹き出すと、むーっとカナタの頬が膨れるのが目に映った。

 俺は慌てて「ごめんごめん」と手を合わせると。


「俺とシェアして食べれば全部食べれるだろ?」

「で、でも自分の食べたいものを食べた方が……」

「俺が食べたいのはカナタが食べたいヤツだから気にしないで」


 そこまで言って、俺はハッとした。

 ちょっと……キザすぎない!? 漫画の読みすぎかな!? はっずいわ!


 視線を下に向けて顔を背けるが、ついちらとカナタの表情を見てしまった。

 すると、そこには蔑んだ瞳ではなく、瞳がハートマークと化したカナタの姿が。


「な、なんか今日のマサキくん……かっこいいね」


 刹那、数字が90から95に変化するのが見受けられた。

 ……最初なんだった? 95……これ、体力じゃないのか!?

 未だ何かは掴めないが、この数値はきっと重要なものであることだけは理解出来た。

 仮にもこれがだったとしたら――俺はこの空間を抜け出すのもそう遠くない未来だ。


 *


「美味しかったね」

「そうだな、また来ようか」

「うん! 絶対……だよ?」


 上目遣いで約束を結ぼうとするカナタに、俺は「ああ」と返して会計に並んだ。

 伝票で値段を見たカナタが財布をゴソゴソと漁り出すので、俺はそれを止めて。


「俺が払うからいいよ」

「え……でも」

「急に呼び止めといて会計させる訳にはいかねぇだろ? それよりさ、ゲーセン行かね?」

「ゲーセンはいいけど……」

「じゃあ決まり! 外で待ってて、すぐ済ますから」


 全額払われる女子はその行為を好む人と好まない人がいると聞く。

 きっと長く付き合いたいなら割り勘でした方がいいだろう。だが、今回はカナタを五日間で落とさなければならない。

 手っ取り早く、その観点からは全額払う方が効率的だと踏んだ。


 外に出ると、カナタは「ごめんね」と言ってきた。

 だが、数値は変わってないことから、申し訳なさと優しさが相殺された結果だと思う。


 今日一日で落とすのは不可能に近い。

 だが、着々と親密度を上げ、俺は五日のうちに告白し成功させてやる。


「どこのゲーセン行くの?」

「特にきめてないけど……大型のスーパーが近いしそこに行こうか。学生の溜まり場みたいだしね」

「でもそれって放課後じゃ……」

「気にしなーい気にしなーい! たまには逸れた道を歩くのも、人生を退屈しない一つの手段だよ」


 俺の言葉は中々恥ずかしいことを言っていると自覚している。

 それでも言えるのが、今の俺が内田雅紀であるから。ごめんね、マサキくん。やりたい放題させてもらってるぜ!


「いやー、あんまり人いないねー」

「平日の午前中だもんね。でもそれだけしやすさも増すよね」

「だな。人に見られてると気恥しいもんな」


 俺達は苦笑しながら、景品を見て回る。

 すると、カナタが一つのぬいぐるみに目を留めて動かなくなった。


「欲しいの?」

「ん!? あはは、気にしないで。可愛いなって思ったけど大きいし取れなさそう」

「諦めたらそこで試合終了ですよ」

「安〇先生……!」


 と、少しの小ネタを挟んで場を和ますと、俺は犬のぬいぐるみを取るために五百円を入れた。

 相手は三本爪……確率機! 運ゲー上等! なんなら今もやってる最中!


「――中々取れないね、諦めよっか」

「まだ五百円だけど!? 行ける行ける、アーム強くなってきたし」


 そう言って、俺はまた五百円を入れた。

 計十一回やったがまだ取れず、残り一回となった。多分これで取れなければ「諦めよう」と強く言われるだろう。

 ……お願い神様、お願いマッスル!


「取れたー!」

「やったな、カナタ!」


 俺は取り出し口から犬のぬいぐるみを引き抜き、カナタに手渡す。

 カナタはぽろぽろと涙をこぼし、にへらと笑って「ありがとう」とつぶやく。


 この時、俺は見逃さなかった。

 数値が百パーセント、綺麗なピンクに光っているのを。

 直感で感じ取った。これは告白すれば必ず成功する、マス〇ーボールと同じであると。


「か、カナタ」

「ん? 何?」


 人生初の告白がゲーム内だとは夢にも思わなかった。

 とても恥ずかしい。けど、どこかゲーム内だからと緩和されている部分があるのも感じ取れた。

 勇気を出して……俺は!


「カナタ、俺はお前のこと……」

「あ! マサキせーんぱーい!」

「ぐふぅ!」


 横からの飛びつきで俺は吹っ飛び、カナタも慌てた様子だった。

 飛びついてきた相手が誰なのか確認しようとむくりと上体を起こすと、そこには小柄で、でもしっかりと女の子らしい体付きの子がいた。碧眼で金色の長髪……俺はそれだけで誰なのか理解した。


「アカリ……」

「そうです! 先輩のアカリです!」


 馬乗り状態でビシッと敬礼するその後輩ちゃんは、訳の分からんことを言い出した。

 待て……先輩のアカリ……つったか、今!


 刹那に首がもげてもおかしくないスピードでカナタに視線をやると、今度こそ紛れもない蔑んだ瞳をしていて――


「……マサキくん、ちょっと……トイレ行ってくる!」

「か、カナタ!」


 潤んだ瞳からは数滴涙がこぼれていて、肝心の数値は――60になっていた。

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リレーでつなぐ現代ファンタジー 柊木ウィング @uingu

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