第6話 五日間

「なんで人間は絶望した時”できるはずも無い”ことを”出来る”と思い込むのでしょうね」

「ん、ベータちゃんじゃないか。なんの事かな?」

「今そこにいるあの方の話ですよ。自分を守ってくれた人が死に、怒り、絶望を垣間見た。けれど先輩の一言で少しでも希望があると。死んだ人間を復活させるなんて不可能なのに。教えてあげたいですねぇ。もっと絶望した顔を見たいですねぇ…。そして今あなた達の動かしている体が本当の体じゃないことも教えてあげたいい……」

「ははは、ベータ。君も管理者らしくなってきたねぇ!そうさ!復活なんてできるわけない!あぁ!なんて可哀想!あぁなんて醜いんだ!最高だよ!君達の体はとっくの昔に死んでるって言うのに、足掻いて、もがいて、死んだ人間を復活させようだなんて!そんな神の断りに反する事私たちにできるわけがないじゃないか!あぁ楽しい。あぁ気持ちいい。最高だよキミタチハ」

「コホン、それはそうとB会場の方も第二ゲームまで終了しました。第三ゲームを開始しますか?」

「んーや、彼の勇姿を見てからにしよう。5日間の……地獄の始まりだよ」


 ***


 暗がりの部屋が明るくなると、そこには憎ましいピエロがいた。

「やあ。これから君がチャレンジするゲームはこれだよ」

 そう言ってピエロは何かを差し出した。

 ピエロが差し出したのはなにかのゲームのカセットのようなものだった。

「なんだこれ……ゲーム、か?」

 正直拍子抜けだ。なんの躊躇もなく人を殺せるようなやつが出すゲームとはとても思えないが、5日間のあいだにこれをクリアすればいいってことなら、何とかなりそうだ……。

 そんなだったら、楽だろうな。だがしかし、簡単な話なわけがない。相手はあの惨い殺し方をし、笑えるピエロだ。何かある。そうに決まってる。

 覚悟を改め、俺は口を開いた。

「なんの、ゲームなんだ?」

「これはねぇ、恋愛シュミレーションゲーム!とあるキャラクターとの親密度を上げて付き合うまで至るみたいなゲームだね。私もさぁ、この歳になって配偶者とかいないからさぁ、甘々な恋愛を見たいんだよォ!期待してるよ!はい、そこに機械があるから入れてね、そしたら勝手に転送されるから」

「なっ、コントローラーとかでやるんじゃないのか!?」

「当たり前じゃん、ちゃんと恋しなよ」

「まじかよ……」

 つまり主人公、は俺。という事になる。正直見た目に自信はないんだが……大丈夫なのか?

 いや、これは志賀さんを救う為なんだ、自信とかそんなの関係ない!行くしかない!

 俺はピエロからゲームを受けとり、機械に入れた。

 すると、俺の視界は何も無い空間から、誰かの部屋になっていた。

「もうゲームが始まってるってことか?」

 えっと……どうすればスタートなんだ?

 色々と考えることが多すぎる、まずは攻略対象の女の子を探さないとな。

 考え込んでいると、家のチャイムがなった。

「はい」

「マサキくーん?今日から学校だよー、早くしないと遅刻だよー?」

「え、あ、誰」

「あはは、なんの冗談だよぉう。君が生まれて十六年、ずっと隣に笑顔ニコニコカナタちゃんだよー」

 ……すぅー……。これ攻略対象だとしたら嫌すぎるんだけど。

 というかこれは幼馴染?なら攻略対象になる、はず……。

「ちょ、いや、突っ込んでよ!やるの恥ずかしいんだからね!?」

「え、あ、なんかすまん」

 良かった羞恥心というものは持ち得ているらしい。

 とにかく、今は情報収集から始めないとな。

「早くしてよー!遅刻するー!」

「あぁ、分かった!今行く!」

 多分学校のカバンだろうと思うカバンを持ち、俺は玄関を出た。

「はい、おはようマサキくん」

「おはよう」

 そう言えばマサキくんって誰だ。

 少し考え、視線左上を見ると

「なんかある……」

「ん?何かあるの?」

「あぁ、こっちの話」

「あ、そう」

 なにこれ、HP?体力あるのか?意味わからないんだけど。恋愛シュミレーションゲームって言ってたよな。なんで体力があるんだ。

 さらにその上に内田 雅紀うちだまさき。と記されていた。

 あぁ、このキャラの名前か。なるほどね。

 ふむ、少しずつ分かってきたな。

 攻略対象は多分このキャラ、ずっと隣に笑顔ニコニコカナタちゃんだ。この子を攻略すればクリアになる……はずだ。

 とにかく数日は情報収集に費やそう。


 ***


 このゲームが始まって五日間が経とうとしていた。

 この五日間で集めた情報を整理しよう。

 攻略対象は全部で四人。

 幼馴染の桜 奏多さくらかなた

 同級生の花沢 美來はなざわみらい

 先輩の水奈瀬 美鈴みなせみすず

 後輩の瑞希 朱里みずきあかり

 全員が攻略対象でこのうちの誰かを攻略しなければならない。

 なるほど、これが第一の試練か……。五日間過ごすとか言ってたけどこういう感じのゲームを五回繰り返すのか。なかなかめんどくさいな。

 とにかく今はどう攻略するかだ。

 まあ、今はもう夜遅いから考えるのは明日からにしよう。

 目が覚めると、五日間過ごしたマサキの部屋だった。少し前までは違和感があったが五日間も過ごせば違和感も無くなってくる。

 俺は学校へ行く準備をし、りびんぐへおりた。

 すると、家のチャイムがなった。

「はい」

「マサキくーん?今日から学校だよー、早くしないと遅刻だよー?」

「分かってるよ、今行く」

 ……え?今、”今日から”って言わなかったか?しかもいまさっきのセリフは…、おかしい、何か、おかしい。

 俺は近くにあったケータイで今が何日か確認した。

 そこには、このゲームに来た時と同じ数字が刻まれていた。

「早くしてよー!遅刻するー!」

「分かってるよ!ちょっと待って!」

 まて、考えろ、なぜゲームがリセットされた?まだ五日間しか経ってないぞ?リセットされる理由が……まてよ、”五日間”?

 ピエロの言葉を思い出し、俺は鳥肌が立った。

『今から五日間、この空間を生きてくれるかな』

 この空間って、この世界の事か…!!

 そこでまた一つ思い出した事があった。

 このゲームの題名。

 それは……

『♡ファイブラビリンス♡』

 五日間の迷宮。

 馬鹿な……、この五日間で攻略対象を一人攻略知ろっていのか!?無理だ!時間が足りなさすぎる!

 俺は、あのピエロの顔を思い出し、怒りとともに、怒り異常の恐怖と絶望といった感情が胸に現れ、膝から崩れ落ちた。

「は、ははは……なんだよ、これ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る