第42話


 銀木犀の花が咲くベンチの下に二人で腰かけた。よく菜々美と二人で来た場所だ。ここで星の形をした銀木犀の花を見ながらたくさんの話をした。テレビで流行った芸人のこと,勉強のこと,部活のこと,クラスであった面白かったこと,好きな人のこと・・・・・・。楽しかった日々を思い出しては今置かれた状況に涙が溢れそうになる。もう,だめかもしれない。


「泣いてもいいんじゃない。お前,いろいろと抱え込みすぎだよ。別に話したくなかったらいいんだけどさ。その代わり,またいつか楽しく笑える日は必ず来るから,この世の終わりみたいな顔をいつまでもしてんなよ」


口元を両手で覆った。無理やりにでも抑えていないと声が大きく響き渡ってしまいそうだった。大粒の涙が頬を伝う。ごめん,冷たく当たったこともあったかな。写真を撮ってばらまいたのだって,最初に疑ったのはこいつだった。こんなに私のことを包み込むようにしてくれているのに。私はなんてばかなんだろう。大バカ者だ。

 抑えきれなくなったおえつが漏れると,徐々に制御が効かなくなり,しまいにはこだまするのではないかと思うほどの大声を上げた。周りに人は来なかったのか,あるいはやじ馬がいたのかは分からない。ただ,隣でずっと背中をさすってくれたこの手のぬくもりだけはずっと私の中にある。




「どうしてそんなに優しくしてくれるの。関係ないくせにさ」



笑いながら言えた。もう,鬱陶しいだとか構わないでほしいとかは思わない。嫌悪感はこれっぽっちも感じてないし,一緒にいてくれて,こうして話が出来ていることを嬉しく思う。そんな気持ちが伝わるように言えた。この気持ちは伝わっている。きっとそう。


「別に,おれって優しいからなあ。ブスでもつらそうな顔をしているとほっとけないんだよ。ほら,女は愛嬌って言うだろ。ブスが辛気臭そうな顔をしていたら縁起悪そうだろ」

「ひどーい。お前こそ,大した顔してないくせに。おまけにスケベとか,犯罪だからね」


昔みたいに笑いながら話せる。それで十分だ。


「ありがとね。今日は会えてよかった」

「・・・・・・おれも」

「なになに? 変な間作らないでよ。気持ち悪っ!」


冗談ぽく言ったつもりだが,まじめな顔でこちらを見つめている。星の花はこの不思議な空気に似つかわず二人の間をきれいに彩っていた。

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