第41話

 次の日も学校を休んだ。美月のいない学校には行けない。成績だってどうでもいい。学校どころか,街を歩けば全員がこちらを見ている気がする。


あの人,おかしいのよ。

女の子のくせに,女の子が好きなんだって。

最近は同性愛を認めろとか言う主張があるけど,例え威勢を愛したとしても公共の場でいちゃつかれたらねえ。子どもにも悪い影響があるし。

気持ち悪いのよ,あの子。


目に見えない人から,決して視界に姿を見せずにつぶてを投げられているようだ。実際に言われているわけではないと分かっていても,全員が自分に向けて敵意をむき出しにして暴言を吐いているようだ。どうしたら良いのだろう。もう二度と外には出られない気がする。

 私はおかしいのだろうか。昔から,変わってるだとか,普通にしなさいとか言われることはあった。それでも特段気にすることもなかったし,一般的な枠に収まっているという感覚はあった。しかし,美月を好きになった日から,私の中ではっきりとスイッチが入った感覚があった。それは,新しく配線が取り付けられたのではなく,私の中であらかじめそこにあったもので手探りで触ったところに発見されたようなものだった。美月の話し方,笑った時に見える八重歯,抱きついたときにうなじから香る匂い。全てがいとおしく思える。女の子を好きになってはいけないのだろうか。


ピンポーン


一人であれこれと思いを巡らせていると,チャイムが部屋中に鳴り響いた。携帯みたいに通知をオフにできたら良いのに。鳴ってしまったからには出ないと気になって仕方がない。まさか菜々美がポストに写真を入れに来たわけではないとは思うものの,玄関の向こう側で何が待ち受けているのか怖い。

 恐る恐る玄関に向かう。はーい。と声を出し自分がそこにいることを知らせる。その声が頼りなく震えていることが分かる。しっかりしろ。大丈夫だから。自分で自分を励ましながら,玄関の扉に手をかけた。



「なにしてんの」


怒った口調とは裏腹に,私はホッとした気持ちで来客に憎まれ口をたたいた。思わず涙が出そうになる。私はたぶん誰かに会いたかったんだ。そして,優しく話を聞いてほしかったに違いない。今にもこの不安や言葉にまとめられそうにもない不安を打ち明けたい。抱きつきたい。でも,弱みを見せるわけにはいかない。無様な姿をさらしたくない。様々な気持ちが渦のように巻いて私の心をかき乱した。


「なにって。別に,元気にしてるかなって」


いつものバカみたいな雰囲気とは違って大人な雰囲気を醸し出したエロがっぱが神妙な顔をして言った。ほんと,こいつはこういうところがある。誰かが弱っているところとか,助けを必要としているだとかをタイミングを外さずに気付いて,そっと手を差し伸べる。昔からそうやって不登校の生徒を登校できるようにまでしたり,いじめから友達を救った姿を見てきた。こいつになら悩みを話せる。いや,話したい。そう思った。


「じゃあさ,近くの公園に行こうよ」


私は夕日に向かってエロがっぱと共に歩き出した。

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