第4話 余興の数々

「●●くーん(=夫)!」

「世界一~!」

お色直し後の入場時、歓声と共に義妹や義父の茶目っ気のある声が聞こえてくる。

新婦の私はサーモンピンクのカラードレスを身にまとい、新郎の夫はチョコレートのようなブラウン系のタキシードを身にまとって立つ。堀添さんからの指示もあり、再び正面を向いて静止をしていた。

「それでは新郎様と新婦様が、皆様のテーブルを回ってお写真を撮りたいという事なので、お二人が手作りされたフォトプロップスをお渡しします。お好きなのを1つ取ってみてください」

穴守さんの台詞ことばを皮切りに、私と夫は堀添さんの指示に従いながら移動を始める。

披露宴にて新郎新婦がテーブルを回る演出は定番であり、キャンドルサービスが昔は王道だったが、近年では様々な種類がある。私達が選んだのは、ゲストのテーブルに出向いて写真を撮るフォトラウンドだ。フォトラウンドにも方法が複数あり、私達は簡単に手作りも可能なフォトプロップスを小道具に選択した。

フォトプロップスは市販でも購入できるが、近年ではインターネットにて無料の画像をダウンロードする事が可能のため、私の方でデザインをいくつか探して作成したといった具合である。

「これ、手作りなんだねー。すごーい!」

「うん、そうだよ!裏を見ると、思いっきり手作り感あるっしょ!」

フォトラウンドで私の友人らが座る席を訪れた際、私は彼女達とそういった会話をしていた。

私が手作りフォトプロップスの裏面を見せると、そこには棒となるストローと音符や動物の口が描かれた紙が養生テープで固定されている。そこには、私と夫の好きなイラストレーター・カナヘイさんが手掛けるキャラクターのイラスト入り養生テープが使用されていた。後日、玉岡さんが撮影してくれた写真を見た際、それぞれがどういう風にポーズを取ってくれたのかが十人十色で面白かったのは、今見ても同じように感じるだろう。中でも一番見ていて面白かったのは、夫の祖父だったのかもしれない。茶目っ気たっぷりな雰囲気でポーズをとって写っていたので、写真を初めて見た際は思わず和んだかんじですね。


フォトラウンドが終わり、新郎新婦が高砂に着席してから数分後―――――――――――余興の一つ目が始まる事となる。高砂のすぐ近くに移動した新郎新婦。私の両手には、造花と飴が束ねられた手作りのキャンディーブーケが握られており、ブーケの下部分と一緒に複数のカラフルなリボンが一緒に握られている。

「最初の余興として、ブーケプルズを行います。皆様のお名前が印字された席札の内、音符のシールが貼られた方、前の方へお越しください」

穴守さんは、余興の開始合図として、この台詞ことばを述べていた。

ブーケプルズとは、花嫁のもつブーケの先に何本かひもやリボンを出しておき、それをゲストが引く演出を指す。

実際はくじ引きのように一本だけがブーケとつながっていて、それを引き当てた女性は次の花嫁になるという、欧米の言い伝えから日本でも行われている演出ものの一つだ。

ブーケプルズは花嫁とゲストの距離が近く、ブーケトスのような俊敏な動きもないために屋内でも落ち着いて行えるというだけでなく、老若男女問わずに参加できるという事が、私達としてはやる決め手となったといっても過言ではない。

「音符のシールが貼られたゲスト」をプルズの参加者にという決まりにしたのも理由がある。その場で立候補だとゲスト自身が声を大にして言いづらいだろうし、逆に名指しで新郎新婦こちらから指名するのも前に出にくいだろうと私達で考えた結果、あらかじめ参加者を決め、市販で購入した音符デザインのシールをスタッフさんに預けて貼ってもらったという経緯になる。

穴守さんの司会とほぼ同時にゲストがそれぞれ席札を確認し、該当者が新郎新婦の近くに現れる。

私と夫が選んだ参加者は、お互いの友人達だった。新婦わたしの友人は皆、当時はちょうど独身だったため、プルズの参加者としてはもってこいだ。一方、夫の友人達はほとんどが既婚者のため、幼いゲストが参加者の中にいたのである。

「では、プルズのリボンは新郎様より皆様に渡して戴きましょう」

穴守さんの台詞ことばを聞いた夫は、私が手にしていた8本のリボンを一人一人に手渡していく。

 どうか、上手くいきますように…!

私は、ゲストが受け取ったリボンを見つめながら、このブーケプルズが成功するようにと祈るような気持ちで見守っていた。

「せーのっ!」

その後、夫による掛け声と同時に、ゲストが一斉にリボンを引っ張り出す。

引っ張った直後は、ゲスト全員が「ん?」と言いたげな表情かおをしていたが、その場にいる全員の視線が一人へ向けられる。

「受け取られた方、おめでとうございます!」

私の近くで見守っていた穴守さんが、その瞬間を見て声に出す。

ブーケプルズで見事ブーケを当てたのは、私の友人の女性だった。当の本人は、とても嬉しそうな表情かおをしていたのを、今でも覚えている。また、ブーケプルズの面白い所は、ブーケを当てる事ができなかったゲストにも、何かしらプレゼントをあげられるという点だ。

外れたゲストへのプレゼントは何が良いかと事前に夫と話し合った結果、男女誰でも喜びそうなキャンディーを参加したゲスト一人一人にプレゼントする事にした。そのため、ブーケが当たらなかったゲストのリボンには、袋に入った棒付きキャンディーが括りつけられている。

また、そのキャンディー及びキャンディーブーケに使用した飴は、表参道に本店を構える専門店「キャンディー・ショー・タイム」のものだ。

「今のお気持ちをどうぞ」

その後、ブーケを当てた友人に対し、穴守さんが一言インタビューをしていた。

私が招待した友人の内、今回引き当てた友人は一番貰ってほしいとも思っていた友人のため、私も少し嬉しかった。因みに、このブーケプルズにおいて八百長的な事は(やろうと思えばできるが)一切していない。そのため、見事八分の一の確率で彼女はブーケを引き当てたのであった。

その後、私や夫とのスリーショットを玉岡さんに撮影してもらい、ブーケプルズは幕を閉じる。



そして、時は進み私や夫にとって最大の見せ場――――――――――――というか、準備に時間をかけたであろう余興の時間がやってくる。前の回にて私と夫の共通の趣味が音楽である事を触れたが、そのアルトサックスとギターをゲストの前で演奏するという余興だ。そして、演奏する曲は2曲。

サックス経験者の方はわかると思うが、アルトサックスを含むサックスは準備で組み立ての必要な楽器だ。そのため、リード以外の部分はお色直しの際に自分で組み立て、控室に置いておいた物をスタッフさんが持ってきてくれたという次第だ。夫が使用するギターは、組み立ては不要ではあるものの、アンプがないと音が部屋中に響きにくいという事もあり、スタッフから片手で持てそうな小さめアンプも運んでもらっていた。

準備期間中、披露宴会場をほんの少しだけお借りし、渡辺さんに見守ってもらいながらリハーサルを行ったりもしているため、「やっとゲストに聴かせることができる」という気持ちを抱きながら、準備を進めていく事となる。


1曲目は、いきものがかりの「熱情のスペクトラム」だ。演奏後のMCでゲストには伝えたが、とあるアニメのオープニング曲である「熱情のスペクトラム」は、歌詞がとても前向きにさせてくれる歌詞ものであり、曲調もテンポ良い事もあって選んだ曲だ。私が主旋律を吹き、夫はその伴奏を担当する。

 よっしゃ、楽しむぞー!

私は、これまで経験してきた本番と同じような気持ちで演奏を開始する。

サックスは10年以上続けていて、幼い頃はピアノを習っていた事もあり、人前で演奏するのはかなりの慣れっこだった。そのため、緊張らしい緊張は、ほとんどないといっても過言ではない。ただし、精神面メンタルでは絶好調でも、別の問題が待ち構えていた。

「…!!?」

演奏中、突然アルトサックスからの音が出せなくなる。

その事態を目の当たりにして隣で演奏していた夫は、表情こそ微笑んでいたものの、内心では動揺していただろう。私も、何事もないように指を動かして続けていたが、音が所々で出なくなっていく。

 「これ」は、練習で吹きまくった時にしかならない現象なのに、何故に今…!?

私は、内心では動揺を隠せずにいた。

自分の場合、サックスで長時間練習して疲弊してくると、たまにブレスがどこかから漏れて、音が出ず空振りしてしまう―――――――――――そんな現象がよく起きる。

しかし、この時は長時間練習した訳でもないため、すぐにそうはならないはずだ。ただし、後々よく考えてみれば、すぐわかる事だった。挙式・披露宴と立ちっぱなしや移動等を繰り返し、なおかつ今身に着けているカラードレスはお腹を締め付けている。そのために、疲労が蓄積されてそうなってしまったのではないか。


曲はMCを挟み、2曲目へ突入する。曲は、SMAPの「ありがとう」だ。この曲はタイトルにある通り、色々な方への感謝の言葉が歌詞に出てくる曲だ。今回参列してくださった皆様へ「ありがとう」と感謝の気持ちを込めるために、この曲を選曲したのである。

こちらも、私が旋律で夫が伴奏を担当する。

 音が出づらくなっているなら、仕方ない…。この曲は、演奏だけでもないし…!

2曲目に入った後も、演奏をしつつも1曲目と同じ現象は再び起きてしまう。

しかし、どうにもならないのなら、この際は今過ごす披露宴このばを楽しまなくてはと思い、演奏を続けた。

この曲では最後の方で「ラララ」と歌う部分があり、その演出に最後は助けられた。

私と夫がマイクスタンドにかけられたマイクで歌い始めると、会場にいるゲストも口ずさんでくれる。因みに、どちらの曲もカラオケが披露宴会場内に響いているため、どちらかが間違えても曲が止まってしまう心配はない。

兎にも角にも、私にとってはサックス演奏人生の中ではもっとも恥ずかしい演奏ものになってしまったが、新郎新婦渾身の余興は終わりを告げるのであった。

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