第6話 なんでも個性、そんな今より色々あって全部いい ~ミサイル7-7-6D~

 自分が高校生だった頃の為替レートは1ドル140円程度だった。1ドルコーヒーや1ドルラーメン店の店主が、もう限界だと訴えるニュースが流れていた。戦後、360円固定レートだった頃から、現在はほぼ100円にまで円高は進んだ。円高にしろ円安にしろ自分には大して関係ないが、どちらにしてもうまくはいかないようである。

 パチンコも今や一玉4円で借りて4円で返すのが当たり前の時代になったが、自分が高校生の頃は2.5円で返す店が多かった。中には2.3円なんて換金率の店もあった。初めて換金率が3円の店で玉を流し、換金所でお金を受け取ったときは、ババア間違えやがったなラッキーなんて思ったものだ。逆に言うとそれだけ多様な形態の店や台が存在したということ。店は台のラインナップで個性を出すだけではなく、様々なルールやサービスで客の様子を窺っていた。

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 「打ち止め」ある台で一定以上の出玉が出た場合、その台をしばらく打てない状態にする、打つことを止めるというルール。打ち止め、と書かれた札が台に挿され、有無を言わさず玉を流されるというなんだか理不尽なシステムなのだが、その実は一発台や羽モノにおいて出し過ぎを押さえながら釘を開けるための方策なのである。定時になると打ち止められていた制限を解いて再び打てるように開放するため、釘の読めない素人でも甘い台を打てるチャンスがあるというサービスであった。スリースターにミサイル7-7-6Dという3つ穴クルーンが魅力の一発台風(これが後に問題となるのだが)の台があった。液晶などが付いていないので見た目はとにかく地味だが、クルーン皿の上をゆらゆらと玉が揺れる興奮は液晶では醸し出せない秀逸なものだった。二十年後、福本先生がカイジの沼でほぼ同じクルーンを採用していることからもその出来を知ることができるだろう。クルーンでゆらゆらした玉が手前の穴に入り大当たりすると、ゲージの右側のチューリップが順番に開き、右打ちするだけで2000発の玉が出た。そして、打ち止めということになる。この台はクルーンに至る釘が重要なのはもちろんのことクルーン皿のクセも大当たりに大きく影響した。打ち止めシステムのメリットが最も分かり易い台であった。ところがこのミサイル7-7-6Dはチューリップの動きが悪く、すぐ詰まってしまっていた。また、スリースターにはタイムサービスという制度があり、その30分の間に大当たりした場合は出玉が倍になるという店独自のルールが存在した。その場合は大当たりすると店員が来て、4000と書いてあるレシートをくれるのだからもうパチンコでもなんでもなかった。(これが問題の一発台とみなされた理由なんじゃないかとも思う……。)

 「止め打ち」先述の言葉をひっくり返しただけだが、当然意味は異なる。打つのを止めるのではなく、止めながら打つのだ。……、同じか。レバーで一発ずつ打ち出す手打ちと異なり、今はハンドルを回して連続で玉を打ち出すことが当たり前になっている。しかし、手を放したり、停止ボタンを押したりすることで意図的に玉を打ち出すタイミングをコントロールすることを止め打ちという。タイミングよく玉を打つことに何の意味があるのかと疑問に思われるかもしれないが、ただ三三七拍子で打つなんてことではない。当時の台の大当たり抽選は数秒の周期で抽選されていた。まさかと思われるかもしれないが、この周期を狙い撃つ技術が止め打ちであった。この周期を知らせる体感機という機械もあり、こちらは違法であったが、プロは自身の感覚だけでこれを成立させていた。テレビチャンピオンでこれを目にしたときは、どの世界にもプロはいるんだなと驚嘆させられた。テレビでそれやっていいのかよとも思った。また、役物が同じ動きを繰り返す羽モノなどの台においても止め打ちは攻略法になり得た。目に見えるだけにこちらの方が分かり易い。クラウンという店にホー助くんDXという台があった。名前の通りフクロウの顔の役物がゲージの中央で時計回りにグルグルと回転している台で、その回転のタイミングに合わせた止め打ちがよく効いた。しかし、当時の自分には難易度の高い技で、探り探り止め打ちを行っていると、端っこの席で打っていたちょっと怖いおじさんがスッと寄って来て「遊びでやってんなら帰るんな」って怒られた。まあ、シマを荒らすなってことなんだろうけど、別に怒られるほどのことはしていない。でも、即帰った。

 「ラッキーナンバー制」大当たりした絵柄によって、そのまま出玉で遊戯しても良いか、その出玉は流さなくてはならないかを決めるというルール。換金差を利用するために出玉で打たせずに現金を投資させるシステムで、換金差のあった昔ならではのルールである。出玉で続けて打てることを無制限といって特別扱いをしていた。例えば7絵柄で当たったら無制限とか、真ん中のラインで当たったら無制限とか、台や店によって様々だった。柳沢センターのフィーバークイーンは赤7、青7で当たると無制限というルールだった。いつものようにフィーバークイーンを打っていると、隣のおじさんの台に赤7とジョーカー絵柄のダブルリーチがかかった。そして赤7で止まり、おじさんがガッツポーズを決めた次の瞬間に中リールがジョーカーに滑った、というか落ちた。「はい、一回交換でーす。」と店員がプレートを挿したときのおじさんの顔が忘れられない。この後しばらくしてこの店のラッキーナンバー制はなくなった。

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 他にも思い出深い台として、柳沢センターにハニーフラッシュというノーマルデジパチがあった。液晶の裏を玉が通るときにそのシルエットが液晶にも映るというシュールな売り込みであったが、実際の魅力は1/200という高い大当たり確率とシンプルで秀逸なリーチアクションであった。そして、この台の最大のインパクトは、一回の大当たりで出玉が2700玉出るというところだ。この微妙に箱に入らない数がなんとも言えなかった。そのままだと箱から溢れてしまうのだが、店員を呼んで二箱目を使うほどでもない。色々なことがあるから面白かったし、それが当たり前だと思っていた。

 この後もパチンコ業界は、魚群が美麗なギンギラパラダイスが出荷台数の記録を更新し、1/3三回権利ループの大工の源さんが爆裂出玉をもたらし、パチンコ史上最高のバランスとスペックのモンスターハウスが打ち手を魅了し、客の増大、新台ラッシュ、チェーン店の増大とパチンコバブル絶頂を迎えた。しかし、ここに私の求める快楽はなく、パチンコは去年のクリスマスに買ってもらったおもちゃのような存在になっていった。

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