第4話 間接キスとお弁当 (1)

 

「―――――でさぁー、うちの顧問こもん、いっつもミニスカなの!それも膝上のだよ?!・・・あっこれ美味しい。買って正解だった。」


 一口サイズの唐揚げを頬張りながらそう話すなぎ―――――――水瀬みなせ なぎは中学生の頃からの友達だ。人付き合いが苦手な私にとって、凪が高校で同じクラスになったのは非常にありがたいことだった。

 凪は吹奏楽部でフルートをしている。何でもフルートは人気が高く、凪はオーディションで勝ち取ることに成功したらしく、少し前まではウザいくらいにそのことばかりを話していた。因みに私は生徒会に入っている。


「へぇー。でも、いつもってことは似合うんでしょ?膝上のスカート。ミニスカ似合うっていいねぇ。」


 先生がミニスカートって珍しい。私はミニスカ穿いたことないかも。すごいな、先生。


「いや―――それがさ、全く似合ってないの!!!マジヤバいんだってば!」


「え?嘘、マジで?」


 その先生は勇者かもしれない。っていうか、似合わないって言われてること知ってるのかな。


「うんうん、マジだよ。どう見たって似合わないのに蛍光ピンクのTシャツ着たりフリルまみれのスカート穿いたりしてんの。未だにすれ違うとき二度見するもん。」


「わ――ぉ。そりゃ凄い。私は絶対そんな格好できないわ。その先生、すごいねぇ。」


 ふと時計を見ると、後10分で五限目が始まることに気付いた。ヤバい。食べ終わらない。隣の凪の弁当箱を覗くと、ちゃんと中身が減っていた。何で私だけ遅いんだ。せぬ。


「うわっヤバい!間に合わない!急げ急げ―――!」


「わー凛、食べるの遅っ!」


「何言ってんの、こんなに話してたのにもう完食しそうな凪がおかしいの!!どうやったらそんなに早く食べられるのさ?!」


「普通に食べればいいの。」


「だーかーらー、その普通を知りたいんだってば―。」


「凛、諦めて急ぎな。もう救いようがないよっ手遅れ――――っふふっははっ――――――――あはははははっ!!」


 お腹を抱えて笑い出してしまった。もう凪なんかしーらないっ。


「はははっ・・・・もう、ごめんって凛謝るから拗ねないで。ね?」


 凪、声がまだ震えてるんですけど。何か男子がこっち見てるし、ふざけるのはもう、この辺にしておこう。


「別にいいけど。―――――――あーぁ、誰か私の弁当食べるの手伝ってくれないかなぁー。」


 そう言いながら、ちらりと凪を見る。食べて?っていう念みたいなものを精一杯のせながら。

 きっとこの時の私は周りが全く見えていなかったに違いない。そうでなければ、後ろから人が近づいてきていたことに気付かない筈がなかったから。


「じゃあ、俺が手伝うー。どれを食べていいの?早乙女。」


「わっ?!」


「おー、落ち着いて?凛。月城だよ。月城がこっち来るなんて珍しい。何か用?っていうか、その左腕!!どうしたの?」


 は?月城くん?!何で!―――――っていうか手伝う?まさか私の弁当食べるの?


「今更か水瀬。腕は部活で折ったの。それより、俺は理由なくここに来ちゃいけないのか?あぁ、用ならあるぞ?早乙女、食べないんだったら弁当頂戴?」


「え?食べてくれるのは有り難いけど、でも、何で?」


「待って凛!月城が凛の弁当食べるのは良いの?」


「うん。むしろ有り難い。」だって食べ終わらなそうだし。


 そう言うと、凪は何故か頭を抱えてしまった。


「早乙女もそう言ってるし良いだろ?水瀬。」


 何が良いんだろう。凪、私をジト目で見ないで。もしかして私、何かやらかしちゃった?


「う――。仕方ない。凛、後で話そう。」


「はい。」


 凪が怖い。私は一体、何をやらかしたのだろうか。


「―――――なあなあ早乙女、この玉子焼き食べてもいい?」


「あ、う、うん。どうぞどうぞ。」


「サンキュって、箸がないわ。取ってくるから待ってて。」


 月城くんがそう言って慌ただしく走っていくと、今度は凪がはぁ―――――っと大きく種息をついた。


「凛。あんたって子は、純粋培養じゅんすいばいようっていうか、にぶい?鈍感どんかんなのか?とにかく放っておくのは危険すぎる。」


「なにそれぇ。その言い方だと私、まるで危険物じゃん。それにー、純粋でもないしぃ、鈍感なんかじゃありませ――ん!」


 凪ってば失礼過ぎ!!


「あ――。分かった分かった。もういい、そういう事にしとく。でも、何かする時は、私に言ってね?良い?」


 何でよ。凪は私のお母さんか?!まあ、いいけどね。


「はぁーい。わっかりましたぁー。お母さん?」


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