第3話 月城くんと嘘 (2)
「ところで、さ。前から気になってたんだけど、早乙女、姉妹とか居たりする?」
「え?いないけど。」
「そ、っか。」
「何?突然。姉妹がどうかした?何でそんなこと聞くの?」
「あ、い、いやぁー・・・・・なんて言うか、そのぉ―――――」
突如として視線が露骨に泳ぎ始める月城くん。一体どうしたんだよ!っていうか何その反応!何なのかめっちゃ気になるんだけど?!
「その?」
「まぁ、その、何年か前に――――――」
「あら。凛、もしかして学校の友達?」
タイミング悪っ?!
やっと聞けそうだったのになんで今!このタイミングで話し掛ける?!
「お母さん。もう話は終わったの?」
「えぇ、待たせちゃってごめんね?それで、その子は?初めましてよね?」
「初めまして。月城玲央です。早乙女さんの同級生です。」
そう言って頭を下げる月城くん。誰だよ!めっちゃ大人っぽいんですけど?!さっきまでの月城くんはどこに行った?!
「まぁ!しっかりしてるのね。―――――あら。失礼。私は早乙女
「こちらこそ、凛さんにはいつもお世話になってます。」
「ほんっと良くできた子ねぇ。うちの凛とは大違い。」
凄い。自己紹介が流れるように進んでいく。私が入り込む隙間もない。―――――――置いて行かれた。つまんない。っていうか、私とは大違いってどういう事よ?!お母さん、さりげなく娘をディスるな!
「・・・はは、そんなことないと思いますよ?」
ほらぁ、月城くんも困ってるじゃん。お母さんのバーカ。
「ところで月城さん。あなたは今、彼女とかは?いたりする?」
は??
「ちょっ、ちょっと待ってっお母さん!突然何てことを言い出すの?!そんなこと聞いたら月城くんに失礼でしょ?!月城くんに彼女が居ない筈がないじゃない!」
慌てて止めたけど、う――ん。何か余計な事まで言っちゃった気がする。ヤバい。
「えっと―――あの、ごめんね?早乙女。俺、今彼女いない。でもありがとう。」
お―――――ぅ。マジか!ごめん、月城くん。女子にモテモテだから、絶対彼女いるって思ってたわ。あ―――――――でも、確かに彼女が居る男子では騒がないかー。あ―――やっちゃったぁ。
「あ―――ごめんね?月城くん。女子がよく月城くんのことかっこいいって言ってるから、彼女いるんだろうなぁって勝手に思ってた。」
ごめんなさい。私の悪い癖だな、これ。相手のことを良く知らないくせに勝手に決めつけちゃうところ。
「あら。凛だって失礼じゃない。ごめんなさいね?月城くん。」
お母さん、にやにやしないで?!
「もうっ。お母さんはちょっと黙ってて!!」
「いえいえ、構いませんよ。そう言ってもらえるなんて、寧ろ嬉しいです。」
「本当にお父さんは月城くんを見習うべきだわ。」
「確かにそうだけどいきなり何?!もういい。帰るよお母さん。」
本当にいつまで話してるつもりなの?!いつまでたっても帰れそうにないからもう待つのはやめだ。無理やりにでも連れて帰る。
「お母さんに付き合わせちゃってごめんね、月城くん。じゃ、そういうことだから、じゃあね。」
納得いかなそうなお母さんの背中をぐいぐい押して出口へ向かう。重い。自分で歩いてくれ。あぁ、ソファに座ってるおばあさんがこっち見て笑ってるんだけど。嫌だぁ――――。目立ってるー。
「お、おう。じゃあまた明日。」
「うん。また。」
手を振りながら、大きな自動ドアをくぐる。出た瞬間に纏わりついてくるムワッとした熱気。外に出た瞬間、病院に戻りたいと
脳に直接響いているような蝉の声。いつもよりも必死そうに聴こえるのはきっと、私ももうすぐ死ぬことが解っているから。
病院から家への帰り道、月城くんについて楽しそうに訊いてくるお母さんに上の空で返事をしながら、ただただ車窓に映る景色を眺め、車に揺られていた。
『7月18日。 残り364日?
今日は病院で検査を受けた後、月城くんに会った。
月城くんはサッカーの試合で腕を折ったらしい。大丈夫かな?
ま、私の方が大丈夫じゃなさそう。
月城くんに訊かれて、咄嗟に?喘息って言っちゃった。あーあ。
私、最近嘘ついてばっかりだなぁ。
お母さん、いつになったら私に病気のこと話してくれるのかな?
まだ2日目なのに、知らない振りをするのはもう疲れちゃったよ。
蝉の声を聴くと、どうしても考えてしまう。私はもうすぐ死ぬんだって。』
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