第12話 VRSNSで初依頼お受けしました

 クロードと待ち合わせの時刻まで近づいたことに気付いたモミジは、いそいで目的地に向かう。自分で呼び出したというのに、遅れる訳には行かないと思ったからである。

 そして人ごみをすり抜けつつ、待ち合わせ場所までダッシュをしたモミジは、ちょうど目印にしていた鳥の像の前には、白いシャツにネイビーブルーのカーディガン。それからベージュのチノパンを穿いているクロードの姿があった。


「あ! クロード! 二十年前の若者って感じだね!」

「どうした? 今日の買い物の予定に喧嘩を追加して欲しいのか?」

「え? 売ってないけど?」

「…………まあ、いい。行くぞ」

「あいあい」

「…………」


 クロードはモミジのノリを理解できず、彼女の返事に対してツッコむこともできなかった。しばらく二人でインテリアを販売しているお店に顔をだしては、これだこれじゃないとお互いの主張を言い争う。


「ねえクロード! この本棚可愛くない?」

「え? 可愛くねーだろ? てゆうか、事務所に本棚なんているか?」

「え? なんか調べものできそう! って感じにならない?」

「調べものも読書も眼前にウィンドウを出せばいいだろ?」

「あ、そっか」

「確かに購入した電子書籍を電子本棚に並べる奴もいる。そしてリストから探すより本棚から探す方が好きな奴が多いのも事実だ。だが事務所の外観様に本棚を買うのはナンセンスだ。何故ならそれっぽい本を並べる必要がある! お前、何か電子書籍持っているのか?」

「少女漫画なら」

「却下だ。そんなもんを探偵事務所に置けるか」


 本棚はダメだった。その後もいくつか家具を見て回ったが、モミジとクロードのセンスはほぼ正反対。モミジたちはは別のコーナーに足を運ぶ。

 今度は観葉植物だ。このコーナーは意外とクロードも真剣に見始める。


「どういう奴が良いかな?」

「VR空間のくせに世話まで再現されているからな。水やりの少ない奴だ」

「いやもっとこう見た目の話で」

「葉っぱがでかいやつだな」

「へえ、そういうの好きなんだ」


 モミジはクロードから言われた植物を探してみるものの、中々見つからない。何個か個人的に好きな観葉植物もあり、クロードと話し合いながらテーブルヤシとクロゴムを数個購入。モミジは圧縮鞄にデータを入れて持ち運ぶ。

 その後も二人で色々見て回り、何故か購入されたダーツセットとビリヤードにバーカウンター。探偵事務所というよりは、プールバーに近い内装に近づいた。

 それから結局スチール製の棚を購入し、その中にお互い気に入ったものを観賞用として購入していく。


「なんだその人形」

「いいじゃん! 可愛いじゃん! てゆうか、VR空間なのにお酒の瓶を棚に置く方がおかしいよ!」

「ああ? 良いだろ別に!」


 ある程度のものを購入したところで今日の買い物は終了。事務所に戻っては二人で喧嘩をしながら順調に設置していく。そんな中だった。事務所の扉がノックされる。モミジとクロードは顔を見合わせると、クロードは頷いてドアを開錠し、来客を招き入れた。


「あの? 探偵事務所はこちらでしょうか?」

「「いらっしゃいませ、仮想探偵事務所へようこそ」」


 二人同時に来客に挨拶をする。

 来客は、白いセーターに紅いミニスカート。薄い茶色に髪を染め、顔のパーツがくっきり見えるメイクまでしている。クロードとモミジは初見で来客をやんわりとした雰囲気の女性と認識した。


「私、戸倉祐介とくらゆうすけと申します」

「あー、男性の方でしたかすみません」

「いえ、よく間違われるので」


 どうやらこの方はイーサンのような男性らしい肉体のまま女性ものの服を着るタイプではなく、女性らしい外見までしっかり作っている人物らしい。モミジもクロードもこれまでの人生で仮想空間で外見の性別が一致しない人物を何度も見てきたし、近年では現実でもそれは普通となっており、モミジの通う高校でも、スカートを穿いてくる男子生徒が数十名いる為、女装そのものは二千四十年では選択肢の一つとされている。

 ちなみにモミジは、ズボンだと足が太くなった時、パツンパツンになって恥ずかしいという理由でスカートを穿いている。


「てゆうかアバター名でいいんですよ? 何故リアルネーム?」

「あ! いえ、外国育ちのものでしてSNSは基本本名文化でしたので」

「あーなるほどな。俺の知り合いにも本名で『ウロツイター』登録している奴は何人もいるし、あまりきにすることじゃねーだろ。早速ですが、依頼内容を聞いても良いですか?」


 クロードが依頼人である戸倉を事務所内部のソファに座らせ、自分も対面するように座る。


「えと、何から話したらいいか」


 戸倉はゆっくりと依頼内容を説明している。モミジはクロードの隣に座り、話を聞き始める。隣に座ったモミジを厄介払いしたいクロードは彼女をみて睨みつけるが、モミジは普段から目つき悪いなって思っているクロードに睨みつけられて、なんか顔についているのかなと、VR空間であるにも関わらずに心配し始めた。


「実はネットストーカーにあっているんです」

「「あー」」


 二人は納得した。戸倉の格好はどう見ても女子大生と言っても通じる。メイクもばっちりでそういう目的で近づいてくる人間がいてもおかしくないと思ったからだ。

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