第11話 VRSNSで出勤しました。でも仕事来ない。
「あのー? 依頼っていつ来るんですか?」
「来ないことに越したことはないだろ。平和で良いじゃねーか」
「それはそうなんですけど」
モミジは未だに依頼を受けて貰えていない。何故なら依頼は先払いであり、モミジはまだ依頼料を支払えていないからである。
その為、他の依頼客を待ち、そこで働いて報酬を得る必要があるのだが、探偵事務所には今日も誰も来ないのである。
モミジに話しかけられて面倒そうにソファで寝転がっていたクロードが上体を起こす。先ほどまで閲覧していた掲示板のウィンドウを閉じ、モミジにもわかるように忙しそうに別のウィンドウを操作し始めた。
「お仕事!?」
「ああ、だが情報のやり取りだけだからお前がすることはない」
「はぁい…………? ねえ、忙しそうなフリしてない?」
「…………してない」
クロードの返事に文句を言いたくも、何も言い返せないモミジは、うっぷん晴らしにトレーニングルームに向かうのであった。モミジが退室した後、クロードはウィンドウの操作を辞めてまたソファに寝転ぶ。
「…………騒がしくなっちまったなぁ」
クロードは以前の自分だけしかいない探偵事務所を思い出す。たまに顔を出すイーサンのことを見ては情報交換だけをして話を終わらせていたくらいだ。事務所に呼ばれない限りは、自室でコーヒーを飲んで窓の外を眺めていることが多いくらいで、本来はVR空間に長時間ログインしているタイプでもない。
だが、ここ最近はモミジがほぼ毎日事務所に来るようになって、クロードもわざわざログインしている。どうしてこんな行動をしているか自分でも理解していないが、それでも毎日仕事がないか聞きにくるモミジの顔を見に来ている。
(本当に慌ただしい奴だ。探偵できるのか?)
クロードはそのままVR空間のソファに身体を鎮め、寝落ちしてしまう。事務所の居室内に戻ってきたモミジは寝ているクロードを見て、そのすぐそばに腰をおろした。
普段は憎まれ口の多いこの男だが、モミジは『フェイスマップ』の件で助けて貰ったこともあり、本当はとても感謝している。
「いつか私のように困っている人がいたら…………またかっこよく助けちゃうんだよね」
モミジはソファから立ち上がり、事務所の内装を眺めながら時間を潰せないか考えこんでいた。
ほとんど何もない内装にカレンダーと時計だけが設置されている。この空間はちょっと寂しすぎる。そう感じたモミジは、イーサンにメールを送る。イーサンから返ってきた返事を見てニンマリと口角を上げると、まだ起きる気配がないクロード宛に言伝感覚でメールを送信しておいた。
翌日、クロードとモミジは『ウロツイター』内部の池袋エリアで待ち合わせしていた。待ち合わせ場所である鳥の像の前にモミジが訪れる。モミジはいつもの服装とは違い、紅葉のような赤い髪より薄く桃色に近いストローハットに黒いリボン。服はカジュアルなワンピースで胸部寄り下が黒く、肩回りは白い布地で半袖の袖口は黒く縁どられていた。また、腰の白いベルトでウェストは細く見えるようにしている。
「うう、なんかこの格好デートを楽しみにしてますって感じ。でも私VR空間の衣服って現実と違って見栄えが良いものしかないんだよね。てゆうかデートじゃないし」
今日はクロードと二人で事務所内のインテリアを買いに行く約束をしていた。クロードには一人で行くとメールをしたが、返ってきたメールからは、『ちんちくりんに事務所の内装を任せられない』と書かれ、急遽本日『ウロツイター』内部の池袋集合で買い物に行くことになったのだ。
集合時間十分前に到着したモミジは、クロードのアバターが来ていないか周囲を確認する。
「さすがにいないか」
モミジは知らない街中を一人歩き始める。集合時間までまだ少しある。そう思ってフラッと歩き始めたのだ。
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