第13話 VRSNSで初仕事終えました

 クロードとモミジは依頼人の話を聞いてから調査に入る。


 戸倉はいつもVR原宿を独り歩きしていることが多いらしく、そこで頻繁に何者かに後を付けられている感じがするらしい。


 依頼人も初めは気のせいと判断していたらしいが、それは人気ひとけのない通路を歩いている時に発覚したそうだ。


 振り向くとそこには大柄の男性がいたらしい。それを何度か繰り返し、何度も同じ人物であったことから、やっと相手をストーカーであると確信して相談に来たそうだ。


 クロードとモミジは男女二人ということで兄妹という設定で一緒に行動しながら、依頼人戸倉を尾行することにした。


 二人はVRストーカーに怪しまれない様に、被害者である戸倉にはなるべく普段通りの生活や行動をして貰いながらついていく。


 イーサンに恋人で良いじゃないといわられたときは、モミジもクロードも全力で否定し、イーサンはくすくすと笑った。


「オニイチャーン、アノアイスカッテー」

「…………そのお兄ちゃんはだなぁ…………恥ずかしいからやめてくれてもいいんだぞ?」


 明らかに演技が下手なモミジを目の当たりにしたクロードは、一瞬下手くそと言いかけながらも、もしかしたら近くにいる人間がストーカーかもしれないと考え、違和感のなさそうな返事に切り替える。


 だが、モミジは何恥ずかしがっているの? と朗らかに笑いながらクロードの肩をバンバンと叩いた。


 叩かれたクロードは、調子に乗っている感じの方が違和感がないなと思い、バンバンと叩いてきたことに怒らない様にと自制した。


 しばらく独り歩きしていた戸倉に対して接触してくるアバターも、遠巻きで尾行しているアバターもいないことに気付く。


「お兄ちゃん?」

「…………」

「ねえ?」

「ん? ああ! わりぃわりぃぼーっとしていた」

「次はあっちのお店行ってみよ?」


 モミジは元気な妹役を演じながら、何事もなかったように戸倉のいる方を指さす。演技は下手な時もあったが、彼女なりに真面目に依頼をこなそうとしているのだろう。


 そう思ったクロードはモミジの頭をワシャワシャ撫でてから戸倉のいる方に足を運ぶ。


 しかし、ストーカーの姿は視認できない。不審に思ったクロードは特定のアプリを起動する。それは、アバターの行動ログを探る時にように開発したVR足跡ログだ。


 これによって誰がいつどこに立っていたか把握できる。早速足跡を確認すると、アバターが視認できないところでその足跡は発生していたことに気付いた。


「モミジ」

「なぁに?」

「見つけたぞ」

「え? どこどこ?」

「キョロキョロするな。お前は演技を続けろ」


 クロードにそう言われたが、モミジはストーカーがどこにいるか気が気でなかった。その様子を見たクロードは教えたことを失敗したと思う。


 相手との距離が一定以上であることを確認したクロードはモミジに電子メールを送信する。通知に気付いたモミジがクロードから受け取った電子メールを読み始めた。


『アホモミジ。相手はアバターを消すアプリを使用していると見てまず間違いないだろう。??ログが視認できるツールを送るから、これで確認してみるといい』

『バカクロード、ありがとう』


 モミジは早速渡されたツールを起動し、確かにクロードの言っていた通り、誰もいない場所に足跡があることを確認した。足跡を確認したモミジは、クロードにメールを送った。


『あったよバカクロード! でもじゃあなんで戸倉さんは彼を視認できたんだろう』

『まあ、この手のタイプは自分の存在に気付いて欲しかったんだろ』


 とにかく足跡の人物に気付かれない様に足跡ログを辿りながら、二人は尾行を開始し始める。


『違法ルール持ちだ。他にも何かを持っているから警戒しておけ』

『はいはーい』


 クロードから警戒要請に対して、モミジは適当に返事を返す。大丈夫かよと思いながらも、クロードはゆっくりと前に進んだ。


 相手の姿が確認できないということは、相手が後方を確認しているかどうかもこちら側は確認できないと言うこと。


 クロードは足跡の持主の現在地を決して覗き込まない様にする。


 モミジもクロードに腕を掴まれたままで、前に出ることはできない。


『この腕は?』

『離したらお前飛び出すだろ』

『リードみたいじゃん!』

『犬コロみたいなもんだろ』


 そしてバレない様に覗き込むと、やっと男が姿を現したのだ。ここだ。


「おいあんた! そこのアバターのストーカーで間違いないな?」

「ひぃ!? 誰だお前は!!」


 大柄な男の割には、驚くほどビビりな声。外見はトレーニングジムでインストラクターをしていそうな爽やか系の成人男性だった。イーサンほどではないが、クロードよりも体が大きい。


「もしかして中身は…………内気な人?」

「VR弁慶か。ここではよくあることだな」

「へ? そうなんですか?」


 戸倉さんがこちらに近づいてくる。近づいて来て初めて大柄の男は三人の人間に囲まれていることに気付いた。


「あんたら誰だよ」

「探偵だ。ストーカー被害でな」

「ストーカーなんてしてない」

「だが、アバターを透明化していたよな? その違法ツールはどこで手に入れた?」

「!? くそ!!」


 大柄な男のアバターはまた消失したが、クロードとモミジには足跡の位置がはっきり見えていた。


 攻撃アプリを起動し、即座にグローブを装着したモミジは、大柄な男を思いっきり殴り飛ばした。


 クロードも足跡ログを確認して大柄な男がそこでノックダウンしていることを確認する。


「え? こんなにあっさり?」

「普通の奴はここで殴られることを想定してねえ。この程度の奴ならいつもすぐに終わる。本当に面倒なのは俺らみたいな人間を知っている犯罪者だ」


 初仕事が思ったよりあっさり終わって拍子抜けのモミジと何度か経験した上で、今回もいつも通りだと思い、特に思うことがないクロード。


 当然、目の前で人が殴り飛ばされて、理解が追い付かない戸倉。


「さてと、初仕事ご苦労だったな。こいつの違法ツールの除去と厳重注意をするから、お前は依頼人を事務所に連れていけ」

「りょーかーい。行きましょう戸倉さん」

「は、はい」


 その場に残ったクロードは、違法ツールの削除と、このエリアに入ってからのメモリをロールバックする。


(これでこいつはなぜここにいたかわからなくなるのと、違法ツールが消失していることに気付くだろう。それから、こいつも仕込ませて貰おうか)


 クロードは、大柄な男のアバターに、とあるファイルをインストールして事務所に向かった。

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