第9話 VRSNSで実力テストを行いました
イーサンにお願いしたプログラム。どうやら既に形だけはあるようで、早速ヘッドギアにインストールを開始するモミジ。
「でもちょっと意外なチョイスね」
「そうですか? 私これでも得意だと思っていますよ」
「そ、そうなの? まさか、やってたとか?」
「はい! 結構得意です!」
「意外な一面ね」
モミジの脳内に、インストール完了の通知が直接届く。モミジは早速そのアプリを起動すると、両手にグローブが具現化した。モミジはグローブの付いた腕を軽く振り回す。
「これいいかも」
イーサンは、モミジちゃんって現実だとボクシング経験者なのかしら? と疑問に思っていた。が、実際のところモミジが経験しているのはVR格闘ゲーム。それも対戦経験は父親とよく遊んだことぐらいだ。
イーサンはまずはモミジの動きを確かめるために、自分自身のアバターで前に出た。
「あれ? 良いんですか? これって接触したアバターの持主にダメージを与えちゃうんですよね?」
「アプリから設定でダメージを零にできるわ。もちろん接触はできるから殴り飛ばすことは可能よ」
モミジがインストールした攻撃モジュールは設定変更が可能である。その中には、接触したアバターの持主の痛覚に干渉するものもあった。これは兵器と言っても差し支えない。モミジは仮想空間内で剣とグローブを手に入れた。
イーサンを傷つけないように、ダメージを零に調整する。その他にもグローブのサイズや吹き飛ばし距離などの設定もあり、モミジはちょこちょこといじった。
「設定完了しました」
「オーケー。こっちもよまずは拳を当てる練習ね。私は避けるから頑張って頂戴」
「わかりました!!」
イーサンは女子高生相手に後れを取らない。そう過信していた。が、直前のやり取り。彼女がもしボクシングにおいて経験者だというなら油断もできない。
しかし、それも杞憂に終わる。モミジの構えはほぼ棒立ちに近かった。イーサンはそれを見て気を抜いてしまった。その瞬間のできごとだった。モミジのアバターが一瞬でイーサンの懐まで接近する。
イーサンは、とっさにバックステップをするも、モミジはまだ殴りかかろうとせずにもう一歩接近する。イーサンがモミジの右拳が引くのを確認し、肩の動きから右ストレートの動きを想起した。
これなら躱せる。そう思ったイーサンはモミジの視界の左側にサイドステップをするが、そのステップと同時にモミジも同じ方向にサイドステップをした。
その瞬間、イーサンの腹部めがけて、モミジの弾丸のようなストレートが繰り出された。とっさにイーサンはガードするも、アバター接触判定により、殴り飛ばされる。しかし、そこで違和感を感じた。少ししか殴り飛ばないのである。
しかし、今のイーサンは地に足がついていない。つまり、動けない。空中で地を蹴って逃げることも、接触するだけで吹き飛ばされるからガードすることもできないまま、イーサンの肉体は無防備な状態で宙に舞った。
「これで合格くださいね。おりゃああああああああああ!!!!」
モミジのラッシュがイーサンを少しずつ吹き飛ばしながらも、常に空中に身を晒し続ける状態を維持される。決して動くことも、ガードすることも許されないこの攻撃はまるで格闘ゲームのコンボそのものだった。
「休憩よ! 休憩!」
「はーい!」
「モミジちゃん、どうして吹き飛ばし距離をそんなに少なくしたのかしら?」
「あー、あまり吹き飛ばない技の方がコンボ決めやすいかなって」
「…………そういうことね。貴女、VR格闘ゲームの達人ね」
「いえいえ、父と遊ぶくらいです」
この時、イーサンはモミジの父親とだけはVR格闘ゲームをやりたくないと考えた。彼女の動きは、父親としかVR格闘ゲームをしない女子高生の動きではない。ただし、父親が異常なまでに腕前が高ければ別だ。
「ま、攻撃は上出来ね。攻撃モジュールについては教えることはなさそうね。しいて言うなら、もっとたくさんそのパパと遊びなさい。私と訓練するより絶対に上達するわ」
「そ、そうなんですかね? ははは」
モミジはなぜ父親がこんなにもあげられているかわかっていないが、とりあえず愛想笑いをする。イーサンはイーサンで、この子は色々覚えさせれば化けるのではと考えていた。
「じゃあ、次は潜入や法の知識ね。私達は犯罪者を懲らしめると同時に法を犯す。だから何が犯罪で何が犯罪じゃないかちゃんと線引きする必要があるのね」
「えーっとつまり…………勉強ですか?」
「そーよ! よろしくね」
「うっ…………うっす」
モミジは、勉強ときいて急にテンションを落とす。、イーサンについていって様々な知識や法律を叩きこまれることになった。約束の一週間後までに戦闘訓練は不要と判断され、みっちり勉強するのであった。
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