第8話 VRSNSで特訓始めました
「これ、高性能ヘッドギアと同レベルの出力だ」
ふと周囲を見渡すと、普段は味気ない白い壁に、青い床。そんな空間が広がっていたはずなのに、今は現実世界の建物と同じ色同じ形のものがある。道路のひび割れまで再現された道を歩く。
「VR海外旅行の時にしか使ったことないけど、こうして現実に歩いたことある街を歩くと再現度に驚くなぁ」
キョロキョロと周囲を見渡すが、再現度の高さに物珍しさも薄れ、すぐに約束の駅に向かう。モミジは昨日言われた通り、一週間以内に合格点を貰えるように頑張ろうと考えていた。駅に向かい指定の駅を入力。昨夜と同じ手順で事務所に向かう。
事務所にたどり着いたモミジはドアに触れるとアバター認証により無条件でドアのロックが解除された。ちゃんと自分が登録されていることに、少し嬉しいと感じるモミジ。
モミジが事務所に入り、最初に目にしたのは、アバターにログインしながら、ハッとを顔に被せてソファで居眠りしている男性。クロードである。それの横を通り過ぎ、奥でフロントラットスプレッドの姿勢をしているイーサンのところに向かった。
「あのよろしくお願いします」
「あらいらっしゃい。それよりどーお? 良い筋肉でしょ?」
「はい、そのとてもいい腕の筋肉ですね???」
「やっだ! 違うわよ! フロントラットスプレッドは正面からも見える膨張した背筋をアピールする姿勢よぉ?」
「へー、ベンキョウニナリマース(知らねえ)」
モミジは苦笑いを浮かべるも、イーサンは満足そうに筋肉のコンディションを再確認し始めた。モミジはVR空間でアバターのコンディションを確かめているイーサンに対して苦笑する。
しばらくしてから事務所にある柱時計のオブジェクトの前にイーサンが立つと、そこで顔認証を行い始めた。すると、柱時計はいつの間にか扉のオブジェクトにコンバートしていた。
「ついていらっしゃい?」
「はい!」
イーサンとモミジが扉の向こうに入ったところで、ハットをずらしてそちらの方を見つめるクロードは、もう一度ハットを直して眠り直した。
「モミジちゃん? 早速ツールの使い方を教えてあげるわ」
「はい! えっと師匠?」
「師匠? んー? 暑苦しいわねぇ。お姉さんでいいわよ?」
「えー? ではお姉さん。お願いします」
「よくできました。まずは脳内にアプリ一覧を思い浮かべて頂戴。それから剣のマークのアイコン見えるかしら? それ起動しちゃって」
モミジは言われた通りにVR空間の視覚上にアプリ一覧を出し、アプリの中にある赤い剣のアイコンを見つけた。それを頭の中で選ぶとモミジの右手には剣のモブジェクトが握られた。
「え? え? え?」
「それは剣よ」
「見ればわかりますよ! こんなもの何に使うんですか?」
「その剣は、刃と同一座標にいるアバターに対して接触することができるの。以前、クロードに銃で助けて貰ったでしょ? あれは同一座標にいるアバターを吹き飛ばす弾丸を発射できる銃のオブジェクトよ」
モミジはマタタビ☆キャットの件を思い出す。確かにマタタビ☆キャットのアバターは吹っ飛ばされていた。それと同時にアカウントにしばらくログインできない状態にロックまでされていたような気がする。そう考えた。
「あの、これってもしかしてVRスリの犯人を斬れってことですか?」
「そう言うことね」
「間違えて別のアバターを斬るとどうなりますか? 一定時間切断された部位がアバターと再結合することはないわ」
モミジはサーっと血の気が引く感覚に襲われる。今、自分が手に持っているものが実物の剣に感じてならない。なぜなら、モミジにとって仮想空間とは、園児の頃から遊戯場として利用されていたものだからである。つまり、仮想も現実。治るとわかってもアバターから腕が切り落とされるのは想像したくはなかった。
「ところで攻撃ができるようになって何になるんですか?」
「ノックダウンした相手のアバターの抜け殻を調べるのよ。それから違法ツールのデリートとアバター情報を裏に流して警察に回るようにすることもできるわ。でもその場合私達の接触記録が残る訳にはいかない。だから記録も記憶もデリートするわ」
モミジは記録と記憶という言葉を深く考えずに頷く。その言葉の意味がどれほど重いかも考えずに。その後はイーサンから攻撃の仕方を学ぶものの、どうも剣や銃はうまく扱えていない。
「うーん? 攻撃モジュールは貴女には相応しくないのかしら? それでも最低限いきなり現れたアバターに対しては有効打を持ってほしいわね」
「攻撃かぁ…………お姉さん。一つ試したい武器があります」
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