第6話 VRSNSで探偵助手始めました
モミジの返事に満足したクロードは依頼料の請求書を送り付ける。
「げ!? こんなにですか?」
記載されていた金額は、モミジのひと月分のお小遣いをつぎ込むような金額。それを見てモミジのアバターは青ざめた表情に変わる。VRSNSでは表情を作ることが難しく、感情がそのまま表情に現れてしまう。それを欠点と感じている人もいれば、現実世界で表情が作りづらく苦労している人たちは逆に親しみやすくなったと言われる要素でもある。
つまり嘘のない表情で青ざめたモミジを見て、クロードは楽しそうに笑った。無論、これにも嘘はない。
「あのぉ? もう少しお安くなりませんか?」
「ならねぇよ。俺たちはこれからお前の為に違法する。そpのリスク込みの金額だ」
「あー、なるほどぁ」
違法する。そう聞いたモミジはフェイスマップでの出来事を思い返す。マタタビ☆キャットの個人ルームだ。あそこにはモミジしか入れなかったはず。それなのに堂々と侵入したクロード。更には、仮想空間にも関わらず銃弾を放ち、マタタビ☆キャットを吹き飛ばした。
あんなもの合法のはずがない。つまり、彼らはアバターに違法プログラムをインストールしている。それはモミジにVRスリをしてきた男もそういう違法プログラムをインストールしたからだろう。そうモミジは考えた。
「じゃあ、その手伝います。お仕事手伝いますから! その分だけ引いてもらえますか?」
「馬鹿か? 素人が半端に関わる。邪魔になるだけだ」
「確かにそうかもしれません。それでも、こんなお金払えるか!!!」
「じゃあ依頼は引き受けない」
「ぐぬぬ」
モミジとクロードが見つめ合う。互いに譲れないものがあるから引けない。モミジはVRスリを許せないが、依頼料ももう少し安くしてほしい。対するクロードはリスク込みであるから依頼料を安くできないし、彼女を手伝わせることは、リスクを大きくするだけだと理解している。
平行線の言い争いが始まり、互いの主張が拮抗したところで、室内に何者かがログインした。
「ちょっとストップ! ストーップ!!」
甲高い声にモミジが振り向くとそこには、小麦色の肌をして、紫のロングヘアをしたまつ毛の長い碧眼で綺麗な化粧をした美顔の成人。それから…………肉厚な大胸筋! 逞しさを隠せない上腕二頭筋! へそ出しスタイルによりその美しさを隠すこよないシックスパック! パンツスーツがはち切れそうな大腿四頭筋! 見るからにやばそうな筋肉ダルマアバターの男性がフロント・リラックスの姿勢でそこにいた。
「あら? アタシに惚れると大やけどしちゃうわよ?」
「え!? …………は!?」
「客を怯えさせるんじゃねえイーサン。すまねぇな。こいつはイーサン。現実世界ではここの住所でプールバーのマスターをしている。が、裏では俺の仕事を手伝ってくれる頼れる男だ」
「あらクロード? 今更アタシに惚れたの? センスが時代に追いついたのかしら?」
「こんな感じの奴だ。イーサン、こいつは客のモミジだ。昼間話しただろう?」
クロードにそう言われ、イーサンはそういえば聞いたわねといいながら、アブドミナル・アンド・サイのポーズをしながら下半身をアピールしていた。
モミジはその光景に慣れることができずに視線を逸らすと、その視線の先に自然な足取りで移動するイーサン。
「ぎゃああああああ!? なんですかこの人普通に怖いですよ!!!!」
「ああ、気にするなこういう感じの奴だ」
「気にしますよ!!!!!」
「…………それでイーサン。お前何しに来た。ボディビルなら他所に行ってくれ」
クロードに言われイーサンが大人しくソファに座る。
「そうそうアタシ。そこの若葉ちゃんに助け船をだしにきたのよ。ま、アタシのか弱い細腕で舵を取れる船で宜しければ出すけどねぇ!!!」
細腕という言葉を聞いたモミジは、イーサンの三角筋はメロンのように大きく、前腕筋群は視界にいれるだけで鈍器のように扱えそうな固さと太さを感じさせた。
イーサンにとって今のアバターはまだまだ細腕と判断されるレベルなのだろう。もしくは現実世界の話をしているのだろうかとモミジは感じたが、この異常な筋肉愛をみて、現実でも似たような体系だろうと推測した。
「えっと、その味方してくださるんですよね?」
「ええそうよ? 貴女がとても可哀そうだから、オネエサンが救済の女神として現れたの」
「うわぁ…………ありがとーございまあーす」
モミジの返事完全に棒読みで、クロードはそれを見て大きくため息を吐く。その空気の中でイーサンだけはよろしくねと言いながらウィンクをして見せた。
「そんで? どう助けるんだ?」
「アタシが彼女を指導するわ。それでリスクを発生させない! いいでしょ?」
「…………期間は一週間だ」
「やったありがと!」
クロードの了承を得ることができ、モミジは嬉しさのあまり彼に飛びついた。飛びつかれたクロードはモミジを引きはがそうとするも、モミジは剥がれようとしない。それを見ていたイーサンは、なんだか楽しそうに笑っていた。
「それじゃモミジちゃん。貴女は今日から探偵助手よ」
「おめえが言うなよ」
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