第3話 VRSNSで怖い思いをしました

 フェイスマップのログインを済ませ、せっかくなのであたりさわりのない程度にユーザー情報を登録していくモミジ。


 海外人気のVRSNSなだけに、日本人なら登録するのに躊躇しそうな情報も散見していた。


 フェイスマップのユーザールームは、レンタル会議室の一室のようなレイアウトになっている。

 これは初期設定で、自由に変更できるが特に運用する予定のないモミジは、部屋のレイアウトにそこまで拘ろうとしなかった。


「約束の時間になったら、教えて貰った場所にダイレクトジャンプすればいいんだよね」


 モミジはダイレクトジャンプの方法を何度も確認しながら、深呼吸をする。モミジが利用しているVRSNSはウロツイターとフライプの二つだけだった。

 これで利用しているVRSNSは三つ目となる。


 そして時間になったことを確認したモミジは、件のマタタビ☆キャット氏に指定されたルームにダイレクトジャンプする。


「えーっと確かダイレクトジャンプの仕方は、ジャンプボックスっていう検索画面をイメージして、そのイメージした画面に指定のURLを想像しながら書き込む」


 すると脳内で認証完了の通知音が流れ、仮想空間内の肉体が渦に巻かれるようにしてその場から消え始めた。

 自身の肉体が渦上に崩壊していくのを見たモミジは一瞬だけ悲鳴のような声を漏らすが、それもすぐに終わる。

 肉体は別の部屋で一瞬で構成されて戻ってきた。

 室内はモミジ同様初期設定のままだった。まるでさきほど作りましたかのような部屋。


「いらっしゃいモミジさん」

「あっ……マタタビ☆キャットさ…………」


 女性の声がした。声をかけられたモミジは、後ろを振り向くと、そこには大きな白い猫の着ぐるみがいたのだ。


 なんだこれは。それがモミジが最初に頂いた感想である。大きめの猫の着ぐるみの割には、両手の部分が異様に薄く不格好だ。それでも白い毛布のような布にくるまれていることに違いはない。


「あー、このアバターびっくりしちゃいました?」


「いえ、全然?」


 モミジはそうは返事するものの、やはり驚いたことに変わりない。大きな猫の着ぐるみ型アバターなんて、多種多様なアバターが行き来しているウロツイター内部では普通だ。


 しかし、フェイスマップは素顔登録の場。顔を隠すアイテムがありだとは考えていなかったからだ。そして素顔に近いアバターでノコノコ現れたモミジ。相手に一方的に素顔を知られたと直ぐに悟った。


 だが、相手に悪意があるとは断言できず、一歩だけ後ずさりする。しかし、そんなモミジの様子を気にすることもなく、マタタビ☆キャットはズカズカと歩み寄ってきた。


「いやぁ、さすがに威圧感は感じちゃいますね。もう少しだけ離れませんか?」

「えー? いいじゃない女の子同士なんだし」


 確かにマタタビ☆キャットの声は女性の声で間違いない。高い声の男性の場合もあるが、それでもモミジは異様な悪寒を感じ、マタタビ☆キャットから逃げるように後ずさりする。

 それに対しどんどん距離を詰めるマタタビ☆キャット。

 マタタビ☆キャットの手がモミジの肩に触れると、がっちりと掴まれてしまった。


「え? なんで!?」


 モミジは驚きを隠せない。接触設定なんて普段無効にしてある設定が、なぜか有効になっているのだ。

 どうやらフェイスマップの初期設定では、接触設定は有効になっているらしい。


「いいじゃんいいじゃん」

「待ってってば! 離して!!」


 スリにあった時とは違う。脳が、神経が危険と判断した。VRSNS内では触れていることがわかる最低限の触覚みたいなものはある。

 それでも高性能ヘッドギアでなければ触り午後地から何までもはわかることはないが。触られている感覚がわかるだけでも、恐怖を感じるには十分だった。

 脳内で何度も助けを呼ぶが誰も来るはずがない。ウロツイター内部の掲示板で、マタタビ☆キャットはモミジにだけ解放したと伝えていたからだ。

 なんでこんなバカな誘いに乗ってしまったのだろうか。そう後悔することと、早く終わることを願うことしかできなかった。

 ログアウトするには、ログアウト認証まで脳内でイメージするしかないが、こんな恐怖の真っ最中に、上手くイメージすることができずログアウトすらできない。

 今思えば、触る為だけに薄くしたと思われる腕に、ひたすら体をまさぐられることが終わるの待つだけだ。


 まだ肩だけだが、その手が次第に体をなぞるようにして胸部にゆっくりと向かい始めた。鎖骨辺りまで手が動いたタイミングで、突然、発砲音とマタタビ☆キャットが悲鳴をあげて吹っ飛んだ。


「おい無事か。マヌケ」


 そこにいたのは、暗い緑色のジャケットに更に黒いシャツ。それからジャケットと同色のネクタイをした男が、拳銃のようなものを持って立っていた。

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