第2話 VRSNSでスリの被害にあいました

 自身のアバターにチャージされている金額を何度確認してもゼロのまま。モミジが慌てていることに気付いたルリがお金を貸すことで、その場は何とかなったか


 ログアウト後もチャージ履歴を確認した葉子ようこ。しかし、そこには確かにウロツイターのアバターにお小遣いをチャージした記録が残されている。


「なんで? どうして?」


 ウロツイター内部のアバターと違い、栗色の髪にショートヘア。黒い瞳の普通の少女が、涙目になりながら預金やチャージ履歴。

 チャージ前の電子マネーの残高を確認する。しかし、何度確認してもお昼前にチャージしたという事実確認しかできなかった。


「そうだ! ウロツイター運営に連絡しよう!」


 早速ヘッドギアを装着し、ウロツイター内部に再度ログイン。運営宛にメール作成を始めた。

 メール作成中は、頭の中で考えた文章がメール本文に転写されていく。その為、大体の人が棒立ちになることがある。

 例のごとくモミジも棒立ちになりながら運営にメールを送信した。


「これで良し。借りたお金はルリちゃんに返そう」


 ウロツイター内部外部関係なく、この時代は電子マネーを他人に譲渡する場合、役所に履歴が残ります。

 その際に未成年の金銭のやり取りが行われる場合は保護者宛に確認と承認のメッセージが出てくるようになっている。


「ママに怒られちゃうけど仕方ないか」


 借りたお金をルリに送信したモミジは、運営から返信メールが来ていることに気付いた。確認の為にメッセージを開く。


「VRスリ? ってもしかして最近噂の?」


 VRスリ。発生場所はウロツイターまたはその他仮想空間。方法は不明だが、被害にあったユーザーはアバターにチャージしていた電子マネーがすべてなくなっていることから、VRスリと呼ばれるようになった。


 どうやら葉子もまた、VRスリの被害者リストに加わってしまったようだ。


「うっそ!? 確かVRスリって最初の被害から未だに犯人が見つかってなくてお金の返金もされていない例の? 待ってよ! 運営が賠償金を払うのが筋なんじゃないの?」


 しかし、運営サイドもVRスリの被害にあったチャージ金額の返金が行われた事例は一度もない。


 返金ができない原因はそれだけではない。犯人が特定できていない状況で無作為に返金を行ってしまう場合、犯人が誰かに協力してしまう可能性が発生する。


 例えば、犯人が電子マネー十万円相当を被害者AからVRスリで取得する。次に被害者Aが運営側に十万円の返金を請求した時、被害者Aと犯人が共犯だった場合、運営から無償で十万円手に入る仕組みになってしまう。

 これを複数人で行われてしまえば、ただ運営が損をしてしまうだけなので、返金できない状態が続いている。


 もちろん、今後の運営に関わる為、運営サイドも犯人を放っておくつもりもないが、VRスリの犯人は、未だに痕跡一つ残していない。


「うーん、スリかぁ。スリってことはやっぱり接触してくるのかなぁ?」


 モミジは考えた。もしかしたら先ほど行ったショッピングモールのどこかでスリにあったのでないか。一瞬だけアバターが重く感じた時。


「あの時、絶対何かあったんだ。こうなったら他の被害者と連絡がつかないか掲示板に書き込んでみよう」


 モミジがウロツイター掲示板に書き込むと、すぐに返事レスが来た。内容はどれもいい加減なものだったり被害にあったことを馬鹿にしてきたりするものばかりでもやもやしたが、一件だけ同様の被害にあいましたという連絡がきた。


『こんにちはマタタビ☆キャットです。私も同じ被害にあいました。もしかしたら協力できるかもしれません。モミジさん宜しければ仮想空間内でお会いすることは可能でしょうか。本日午後五時頃ウロツイター内部ではなく、VRSNSフェイスマップにて私のホームをモミジさんのみ開錠した状態にしておきます』


 普段なら明らかに怪しいレスであったが、今のモミジには正常な判断をすることができなかった。


 仮想世界には国家間の移動も用意であることから、国際条約まで用意されている。その中でもSNS含むすべての個人用アカウントは、同一のIDで利用するというルールが存在する。

 その為、掲示板の書き込みからユーザーを別のSNSで特定することが用意になっている。

 この国際条約に関しては一部の反対団体も出てきているが、ほとんどの国がそれに同意。同意しなかった国は国際間で仮想世界を利用することが不可能となる為、日本も同意している。

 その為、正規の日本人ユーザーは、全てのSNSが共通のアカウントでログインしていることになる。

 また、今回モミジが招待されたフェイスマップは現実の顔以外をアバターで利用できない仕様の為、日本人の利用者は少ない。


 モミジは他の掲示板の書き込みを無視し、掲示板を閉じる。モミジが掲示板を閉じる直前に一件書き込まれたが、それを見ないでモミジはフェイスマップのアカウント作成を開始した。


『あからさまに怪しいじゃねーか。行くんじゃねーぞ』


 忠告のレスは、モミジに届かないまま、被害者を馬鹿にするチャットや、加害者を攻めるチャット。運営に文句を言うチャットに流されてしまった。


 フェイスマップのアカウント作成はヘッドギアについているカメラ機能から顔を正面横顔。頭頂部。後頭部撮影する必要があるが、それ以外は特に必要はない。

 デフォルトの服装も、現実世界で来ている服を撮影することで、それに近いコスチュームが作成される。

 ちなみに全裸を投稿すると一定期間の全インターネット利用停止と、周辺地域に全裸で登録しようとしたことがネットニュースで流される。

 フェイスマップ運営は軽いジョークのつもりだが、日本では何件かいじめで全裸登録させられた事案が発生してしまったため、ネットニュースは流れなくなった過去もある。


「よし。こんな感じかな。VR空間なのに現実と同じ髪色なのはなんだか落ち着かないけどまあいいか」


 現実同様の栗色の髪に、初期撮影の顔写真から一切加工できない顔のアバター。洋服は青いキャミソールに白いキュロットのコスチュームになった。

 モミジは件のIDを参照して、フェイスマップの個人ルームにダイレクトジャンプする準備まで整えた。

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