VRSNSで正義の味方やってみた
大鳳葵生
第1話 VRSNSにログインしてみた
「コネクト!」
今、一人の少女が頭部につけたヘッドギアから、別の仮想世界に繋がる為にベッドに横になる。
西暦二千四十年。インターネットは更なる可能性を広げ、世界中の人達が仮想世界であるVRSNSを利用して当たり前になった時代。
人々は仮想世界において疑似的な肉体を作り、コミュニケーションツールとして発展していたVRSNSは、学校の授業や、企業間での仕事の場として利用されるようになっていた。
当然、ハッキング対策もどんどん強化されているが、それでもVRSNSでは犯罪が発生することもあり、そのたびに仮想世界反対の声が広がることもあったが、現実でも仮想でも犯罪がなくなる訳であなく、仮想世界の犯罪はサーバーログなどから現実より検挙率が高いという意見により、一蹴されるのであった。
そして少女、
一人の少女型アバターがVRSNS空間内に出現する。髪は紅くショートヘア。瞳はオレンジ色をして現実離れした外見だが、ベースは本人の外見を基に作成されている。
葉子は紅いキャスケット帽に紅い縦セーターに白茶色のショートパンツを穿き、更には紅いマフラーまでしている。
季節は夏であるが、気温が関係ないVR空間では冬服も着ても問題ない。が、彼女のアバターは少々紅すぎる。
ウロツイター内部は基本青い床に白い壁となっているが、設定をいじることで個人個人で配色を変更することが可能だ。葉子は基本的にデフォルトカラーの青い床に白い壁で利用している。
ウロツイターは、現実世界をほぼ忠実に再現したマップを歩くことになる為、設定画面にはリアルカラーなどもある。
しかし、高性能なヘッドギア以外でその設定を利用すると、余りの重さに不快になる為、その設定を利用できるものは、一部の富裕層か、病院にてVR空間でしか意識が保てない一部の患者しか利用していない。
「さてと、今度友達とVR海外旅行するんだよね。良いコスチュームないか見に行こっと。お小遣いもアバターにチャージしてあることも確認したし、これで何個かコスチュームが購入できるね」
VRSNS空間内で利用するアバターは、初期アバターや初期コスチューム以外に、課金することで好きな恰好になることができる。
葉子は初期アバターを少しだけカスタマイズしているが、ところどころ課金コスチュームや、課金パーツを利用している。
今や、VR空間でのおしゃれは、現実でのおしゃれと変わりないくらいな認識だ。
特に、葉子のように物心ついたころには、世界中で仮想世界を利用し、小学校の頃にはVRSNS用アバターを作成。更には学校の出席も毎週月曜日と水曜日はVR空間での登校していたため、現実世界と仮想世界に大きな区別はないのである。
ウロツイター内部にあるアバターショップは、現実世界の服屋がある位置にあることが多い。ウロツイター内部のアドレスは、個人間で購入可能ではあるが、基本的にウロツイターサービス開始時に、現実世界の土地の保有者が購入していることが多い。
葉子もウロツイターのホーム設定は、自宅のある場所に設定している。
「正面から大量に人が来ているな。何かの帰り?」
道を横一列で並んで歩いている男子中学生らしき集団と葉子はすれ違う。しかし、お互いのアバターは接触しない。VRSNS空間内ではアバター同士が接触してもお互いに許可をしない限りは触れることができない仕様になっている。
だが、それを良いことに変な考えを持つ輩もいる。
「おい、今お姉さんの中に入ったぞ俺」
「俺もちょっと入った」
「くっそいいなぁ。次は真ん中歩かせてくれよ」
「コージさっきオッサンとすれ違って自分から端に言ったんだろ?」
葉子はギリギリ会話が聞こえる位置にいたが、男子中学生に対してエロガキども後で通報してやるから覚えていろくらいしか思わずにそのままスルーしていった。
VRSNS空間内では珍しいことではなく、触れられないことを良いことに、わざと接触を図るアカウントもいるくらいだ。
もちろん、過度の接触を図ると、ウロツイター運営に通報が可能で、その後に接触を頻繁にしていたユーザーの特定と過去ログがすべて確認されることになる。
そして利用ユーザーの特定が用意になり、VRSNS空間内の変質者は即座に逮捕され、個人情報どころか行動ログ含めて晒される場合もある。
そう言った理由から、迂闊な変質者が現れること自体は少なかった。
もっとも、この場合個人情報を晒した人間は別の罪に問われることになるが、それはまた別の話である。
対策として人外アバターなどを着用する女性も多いが、可愛くないとか、現実の自分に似せられないアバターを作成するやつは自分の容姿に自信がないなどという意見が多く、そういう理由で女子高生などからは不評である。
「モミジ!」
「あ! ルリちゃん奇遇だね」
モミジとは、VRSNS空間内においての葉子のアバターネームである。
そしてルリちゃんと呼ばれた青い髪に白いワンピースの女性アバターは、葉子もといモミジの幼馴染であり親友だ。現実世界の名前は
VR海外旅行の約束も彼女としている。
※ここからは現実仮想含めて葉子という人物を示す場合は『葉子』。仮想世界の行動などアバターの動作を示す場合は『モミジ』と表現し、他の登場人物もそのように表現します。一部例外あり。
VR海外旅行とは、ウロツイターの再現度から多くの人が利用する海外旅行である。多くの人は高性能ヘッドギアをレンタルして、ウロツイター内部をリアルカラーにして海外サーバーにログインして仮想空間で海外旅行をする遊びである。
高性能ヘッドギアには、視覚以外の五感も再現でき、触覚はもちろん、味覚や嗅覚も仮想で再現してくれる。気温や天気も再現されるが、その辺はオンオフ設定も当然用意されている。
時期に高性能ヘッドギアも民間で購入できるほどになるが、葉子たち学生には手が出せない代物であることに変わりはない。
「モミジもアバターショップ行くの?」
「ルリちゃんも? 一緒に行こう?」
「おっけー」
「それにしても仮想世界の海外旅行楽しみだなぁ」
「去年はシベリア送りごっこしたよね」
「やったやった。温度設定一瞬でオフったよ」
「あれは仮想世界でも凍死するよね」
「さすがにそれはしないってば」
他愛もない話をしながら仮想世界のショッピングモールにたどり着く。ここではアバターの他に様々なツールも販売しており、仮想世界の映画館なども存在する。
一応、フードコートも存在するが、それらは味覚機能のある高性能ヘッドギア対応店舗である。
「今年はどこ行く?」
「そーねぇ。去年のシベリアは私の希望だったし今年はモミジの行きたいところでいいんじゃないかな?」
「マジで? イースター島とかは?」
「あんた本当にそういう訳のわからない場所好きだよね」
「モアイ像の上で踊れるのも仮想世界だけの特権かと」
「女子高生にもなって恥ずかしい真似はやめなさい」
「甘いねルリちゃん。大学生になったらもっとできなくなるし、社会人になればさらにできなくなるんだから、女子高生のうちにやりにくくなるやりたいことは潰すんだよ」
「ま、アンタ一人だけ踊るならいいけど」
モミジはルリと二人でショッピングモールのゲートを潜り抜ける。この瞬間にモミジとルリのアバターには、モールにログインした実績がサーバーログとして記録される。
このログには、各モールのアドレスに訪れるユーザー情報を管理し、仮想空間内の経営データとして利用される。ちなみに利用されるのはあくまで、アカウントに関連付けされている性別データと年齢データ。それから職業データだけである。
その為、ウロツイター内部では、性別と年齢、職業を偽ったアカウント登録は規約違反とし、アカウント登録も役所を通す必要がある。
モミジとルリが並んで歩いていると、モール内混雑しているためすれ違う人は多い。当然接触することはない為スルスルと通り抜けていくのだが、一瞬アバターの動作が重くなる違和感を感じ、モミジは振り返った。
「どーしたのモミジ」
「ん? なんでもない。かな?」
二人でアバターショップに入り、コスチュームコーナーで色んな洋服を試着する。試着は試着室を使用せず、アバターショップ空間内であればタッチした服や一覧にある洋服を自由に着ることができる。
更にカラー変更も可能となっているが、購入時からカラーを変更することはできず、別カラーは再度購入となっている。
ちなみにモミジのアバターで来ている赤い縦セーターは現実では約八千円の代物だが、仮想世界では三百円である。
また、所持しているコスチュームのカラー変更だけであれば五十円程度で可能だ。頻繁に色を変えないのであればカラー変更だけする場合もある。
「モミジ、イースター島にいくのにロングコート? しかもまた紅い」
「いやぁモミジってアバターネームだとなぜかこの色に愛着がですね」
カラーパレットを開き、別の色も試してみるが、やはりモミジは基本は紅い方が良いらしい。
「ルリちゃんそれどうしたの?」
モミジに話しかけていたルリのアバターには黒い猫耳と尻尾が装着されていた。
「ん? ああ、猫耳? あんたが言ったんでしょ? 女子高生のうちにやりたいことを潰せって」
「似合っているぜハニー」
「ひっかくぞ」
モミジはルリと戯れながらショッピングを楽しみ、何個か気になったコスチュームとルリに合わせて白い猫耳と尻尾を購入しようとカートに登録しようとした時だった。
「ん?」
モミジが操作しているシステムウインドウに警告画面が表示される。このタイミングで表示される警告とはつまり、残高不足である。それも一点目。猫耳の金額はたったの百円。
「なんで? なんで? 百円で残高不足? さっきお小遣いが入っているのも確認したのに?」
モミジは慌てて残高照会すると、アバターにチャージされている金額はゼロ円だった。それはお小遣いをチャージする前の残高よりも少ないどころか、無である。
「え? どういう、こと?」
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