第20話 後日譚がややこしすぎる件

「さて、少々ややこしいことになるが。この話には、後日譚がある。俺達には知らせる義務はないが、おそらくあんたには興味深いことだろうから、教えてやる」

「そりゃどうも、ご親切に」

 どこか横柄なシェイバーのもの言いにムカついて慇懃無礼にそう言うと、瞬間、険悪な空気が流れた。顔を見合わせて睨み合い、それから、ふん! と互いにそっぽを向く。セイバーが慌てたようにとりなしてきた。


「2人とも。抑えて抑えて。

 でね、マリ、君は知らないかもだけど、お母さんには、君と同様、一度体験したことは忘れない才能があったんだ。だから、夫、つまり君のお父さんに、問われるままに、飲んだお茶の構成や量を正確に語って聞かせた」

「そして、あんたの父親は、AI分析の第一人者だ。妻から聞いたお茶のレシピを、彼女が飲んだとおりに、同じ量で飲むと何が起きるのかを分析したんだ。そして発見した。この組み合せが、絶妙な相互作用で体格や体質に関係なく、“母体にやさしい堕胎薬”として作用することを」

「これは危険なレシピだよね。彼の子(つまり君だね)に不幸な結末をもたらし、妻の心に深い傷を残した。だけど、彼は同時に冷静に理解してもいた。このレシピの有効性を。だから、あるサイトに掲載したんだ。十分な安全措置が取られていて、悪用のリスクが低いサイトに」

「そ、それって…!?」

「そうだ。例のサイト、あんたがレシピを得た、あれだ」


 何てこと! もう頭が付いていかない!


「え、え、ちょっと待って! 私があのレシピを過去で使ったから、あのサイトで見ることができたの? じゃあ、もし、過去に行ってあのレシピを使うと決断しなかったら、あのレシピは存在しなかったってこと? そしたら、私があのサイトを見て使うこともなかった? あれ?」

「うーん…。本当にややこしいよね。鶏が先か卵が先か、みたいな」

「まったく、いろいろな点で、厄介なことをしてくれたんだ、あんたは」


 そんなにも厄介をかけてしまったのか、と思うや否や、

「そうなんだよ、ここまでややこしい事態は、いまだかつて無かった。おかげで、初めて始末書を書いたよ」

「始末書!?」


 本当に、仕事なのねえ、そう思った途端、そりゃそうさ、もちろん仕事、何度も言うけど、他の何だって言うのさ? 即座にそんな反論が聞こえてきた。

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