第19話 帰ってちょうだい・再び

「そうして君のお母さんは、前にもまして真摯に、ハーブ茶の研究に取り組んだ。妊娠に気づかず不用意に毎日を過ごしてしまったことを悔いて、その贖罪として。それに、いつかまた“メイちゃん”に会えたら、そんな思いもあって、何事にも懸命に努力した」

「そうなんだ、それで―」

「ちょっと待って! もしかして…?」


 私が最初にこの2人から告げられたのとよく似たフレーズが出てきて、たまらず声を上げた。そんなまさか、いやでも、その確率はかなり高そうな??


「ご明察」

「セイバー! だから心を読むのは…!」

 思わず叫んだけれど、いやだって、もうそのほうが話が速いしさ、悪びれずそういう彼に頭痛がして、ため息を吐いた。


「まあ、あんたの考えているとおりだ。彼女は、やり直せるという申し出に対し、あんたのハーブティーを飲まないことを選択した。あのハーブティーの中に、妊婦にはよろしくないものがあったと、気が付いたから」

「!!」

「ああ、安心して。彼女、君がわざとやったとは微塵も思っていないから。自分ですら妊娠に気づいてなかったんだ、当然君も、何も知らずに、善意でお茶を淹れてくれたと思っている」


『でもね、結果的に私は、微量とはいえ妊婦にはよくないお茶を飲んでしまった。だから、それを避ける選択をしたいの。もしもこれで赤ちゃんが助かったとしたら、それは未来を、他人の人生を変えることで、あなたたちにとってはルール違反かもしれない。だけどね、私が願うのはそれだけだわ。それが叶えられないなら、帰ってちょうだい』


「まったく、親子そろって、帰ってちょうだい、ってね」

「まあまあ。というわけで、ほんと参ったよ。こっちは仕事なんだから、そんな風に断られて、ハイソウデスカ、というわけにはいかないし」

「え? そうなの? 仕事だったの?」

「そうさ、何だと思ってたんだ?」

「えーと??」

「とにかく! お察しのとおり。ルールからすれば、彼女の申し出は、来なら受け入れられないものだ。他人の運命を大きく変えてしまうんだからね。でも、今回の場合は―」


 そこで言葉を切って、ちらりと隣に立つ苦い顔のシェイバー(だけだと、髭剃りみたい)と目を合わせ、同じく渋面を作って(でも迫力無い)言葉を続けた。


「迫力無くて悪かったね! で、まあ、何しろ事情が事情で、ルール違反すれすれのできごとを無かったことにする申し出だったし、特別に受けることにしたんだ」

「はあ? そんなの、アリなの?」

「誰が髭剃りだ、誰が! ありにしたんだ、例外的に!」


 マジでぇ? じゃあ、私の努力は、何だったの…。2人の言葉は無視することにして(これも読まれて、“無視するな、こら!”と怒られた)、私はそう呟いた。

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