第18話 ハナの回想・2
「いただいたお茶の中には、妊娠中は接種を控えたほうがいいハーブを含んだものも確かにあったわ。でも、それはごく微量だった。それに、私自身ですら妊娠に気づいてなかったのよ? その女の子が私に故意にそんなお茶を飲ませるとは、到底思えない。第一、動機が無いもの」
「なるほどね」
メイちゃんの存在自体があやふやだったけれど、そのことは隠して、ある女の子と親しくなって何日間か一緒にお茶をした経緯を語って聞かせると、夫は一言そう言って深く頷いた。
そして、もう一つ、心に引っかかっていることがある。もし実在していたなら、彼女はどうして、また訪ねてきてくれないのかしら。母さんは、メイちゃんを見なかったと言った(というか、存在すら疑っている)。あのとき、具合が悪くなった私を置いて帰ってしまったの? なぜ、その後、一度も来てくれないの? そもそも、どこの家の人だったの? それとなく、近所で聞き込みもしてみた。親類の手伝いに来ていた、美味しいお茶を淹れてくれた女の子の話を出して、さりげなく、どこの子かしらねえ? と聞いてみる。だけど、誰一人、知っている人はいなくて―。日が経つほどに自信が無くなってきて、もしかしたら、あの子は私が無意識に作り出した架空の存在だったか、とまで思うようになった。だって、あれほど親しくなったんだもの、もし実在していたなら、たとえあのときは驚いて思わずその場を離れてしまったとしても、後日様子を見に来てくれるんじゃないかと思うから。
ねえ、あなたはどう思う? お茶に毒を盛ったはずはないけれど、その後も全然訪ねてきてくれないメイちゃんについてさらに夫に意見を求めると、彼は真剣な顔で考え込んで(何事にも真摯に耳を傾けてくれる、特にこの点に私は惹かれたのよね)、それからぽつぽつと話し出した。
「うーん、わからないけれど。でも、その子は、うんと遠くから来ていたのかもしれないね? その日かその翌日が親戚の用が終わって帰る日で、飛行機だから予約変更ができなくて、で、また来ることができなかったんじゃないかな?」
「…そうなのかしら?」
「その確率は、かなり高いと思う。きっとずっと、君のことを心配していたよ」
『確率が高い』-メイちゃんの声が脳裏にはっきり蘇った。ああ、この人の口癖に似た口ぶりをしていたのね。だから親しみを感じたのかしら。あの子は空想の産物じゃない、いつかこちらに来る機会ができたときには、きっとまた来てくれると、確信を持ってそう思うことができた。
そのときには、私ももっと美味しいお茶をごちそうしなくちゃね。明日からまた、ハーブの研究を始めてみよう。彼女のように科学的にとはいかないけれど、きちんとノートを付けて、記録を残しながら―。
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