第17話 ハナの回想

 メイちゃんが淹れてくれたお茶は、本当に美味しかった。毎日違う風味のお茶を楽しませてくれた。

 私はよく通りすがりに庭を褒めてくれる人を庭に招いたりしているけれど(夫とも、そうして知り合った)、実は、家の中まで入れることはない。庭に置いた小さなガーデンテーブルに着いてもらって、そこでお茶を振舞っている。だけど、あの子が現れたとき、ごく自然に庭に誘い、そして、キッチンにまで招き入れた。なぜか懐かしく近しいものを感じたから。彼女も、私と同じようにハーブティーの効用を人々のよりよい生活のため、日々たゆまず研究を続けていたから、何かしら仲間のようなものとして感じることがあったのかもしれない。

 仲間、でも、その研究のアプローチ法は、まるで違っていた。メイちゃんのそれは合理的で科学的で、私のような試行錯誤メインの方法とはまるで違う。夫が似たような仕事をしていて、たまに話を聞いていたからかろうじて理解できたけれど、本当にややこしい話で。だけど、それがまた新鮮で楽しかった。


 メイちゃんは、それから毎日来てくれて、私たちは毎日お茶を一緒に楽しんだ。残念なことに、1時間もするとせわしなく帰ってしまうのだけれど。

 そんな風にして過ごして何日目だったか、ある日、私は突然腹痛に見舞われた。最初はただの生理の前兆と思ったのに、一気に強い生理痛のような痛みの波が来て、次に気づいたときには病院のベッドの上、流産を告げられた。

 私、妊娠していたの? 何てこと! そうだ、それよりメイちゃんは? きっと心配かけたわよね? と、付き添っていた母に聞いたけれど。え? 誰ですって? キッチンには、誰もいなかったわよ? と返された。…どういうこと?


「ティーカップ、2人分無かった?」

「2人分、というか、確かに2組あったけれど。1つは、割れちゃってたわ。あなた、また飲み比べしていたんじゃないの?」 

「飲み比べ…」


 確かに、そうやって風味の違いを確認することは度々あったけれど、でもあの時は、私の分とマイちゃんの分のセットがテーブルにあったはずだった。


「あのお茶で食あたりとか飲み合わせの悪さとかがあったんじゃないかと思って、一緒に病院に持って行ったのよ。でも、毒性は見当たらないって言われたわ」

「そうなの…」


 あの美味しいお茶で毒性なんて、到底考えられなかった。けど、母さんが言った飲み合わせという言葉は、心に引っかかった。

 あの数日間にメイちゃんが淹れてくれたお茶のことは、すべて覚えている。どんな順序で、どのハーブを、どのくらいの配分で組み合せたお茶をいただいたのか。大抵のハーブティーの味や香りはすべて記憶しているから、飲ませてもらったお茶のレシピも容易に推測できた。私には、一度体験したことは忘れないという、特殊な能力があるから。

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