第21話 謎の2人の仕事を垣間見る ~案外世俗的?
「こうして君や君のお母さん、その他の対象者を決めるのだって、一定のルールに則って候補を上げて、稟申しているんだ」
「そう、スペシャルなご褒美を与えられる予定の人(君もその1人だね)の元に出張して要望を聞いて対応する。だから、帰って、とか言われると、ほんと困る。ま、こういうのはまだいいんだけどさ。魂の増減、今は自動化されているし。それよりなにより、僕らにとってたいへんなのは報告書とか、書類仕事かな」
「たいへんなの?」
「ああ、記入欄を埋めるのに、毎度毎度、四苦八苦する」
「システム導入で楽になった、手書き時代はたいへんだった、って言われたけど。…その点は、確かにそうなのかもね」
「手書きは、もう二度とごめんだぜ」
「手書きの書類もあるんだ」
「「始末書! おまえ/君の一件の!」」
それはすみませんでした、とあまり心のこもらない謝り方をしたら、大きな溜息を吐かれた。ていうか、こんなにいろいろ話しちゃって平気? と思ったら、即座に脳内に、だいじょうぶ、本当にまずいところは後で記憶修正させてもらう、という回答があった。そうなんだ、全部、覚えていられないのね。なら今、いろいろ聞いても問題ないのかな。
「ねえ、増減が自動化って? あなたたちがやっているんじゃないの?」
「いや、人手では無理だ。件数も多いし」
「魂を削られる人、そんなに多いんだ」
「他人事だな、おい」
「え?」
「君だって、削られているんだよ。それ以上に、積み上げた量が多いってだけで」
「そうなの!?」
びっくりして言うと、2人はあきれたように首を振った。
「最初に言ったろ? あんたなら覚えていると思ったが」
「そう言えば。食べ物を無駄にすることも、対象なんだっけ?」
「そう。そもそも人間は、ただ生きているだけで周囲に負荷をかけているからね。かてて加えて、前世代からの負債もある場合が多い。生まれたての赤ん坊なのに、すでに魂を削られて、来世はすでに微生物以下決定ってこともある」
そうなんだ…。何だかちょっとショック。そう思いつつも、頭の中ではさらに、これまでの2人の言動を思い返していた。そして、あることに思い至った。削るのも足すのも、この2人の直接の仕事ではないということは―?
「ねえ! つまり、あなたたち、実はシェイバーとセイバーの役割分担は無いのよね? どうして、それぞれシェイバーとセイバーを名乗っているの?」
「え? ど、どうして、って?」
「だってそうでしょ? 同じ役割なんだから、名乗り分けしなくていいじゃない。あんなポーズまで取って。というか、そもそも、2人で来る必要性もないような?」
「あ~…」
気まずげに在らぬ方に視線を逸らし、シェイバーががしがしと髪をかき上げた。それを横目で見ながら、セイバーが肩を竦めて話し出す。
「だってさ、しかたなかったんだよ。僕たちがこの仕事に就くころには、実際に魂を増減させる業務は無くなっていたんだもの」
「そう、名称だけが、残っていた」
「なるほど?」
「あの名乗りと決めポーズはね、何と言うか、インパクトの問題?」
「インパクト?」
そんな理由? アホか、戦隊ものじゃあるまいし。みなまで言わずとも伝わってしまうことを思わず忘れて心中でそう言うと、2人はさらに気まずげな顔になった。
「いや、単なるかっこつけとかじゃなくてさ。突然現れて普通な調子で、『あなたは過去をやり直せます』とか言っても、真面目に取り合ってもらえないんだよね」
「はあ、まあ、そうかも」
最初に彼らが現れた時のことを思い返す。なるほど、あのまま淡々と過去のやり直し云々を告げられたら、もしかしたら無言で通報したかもしれない。ばばーん!と登場されたから、それに気を取られて呆気にとられながらも最後まで話を聞いたという面は、確かにある。
「普通に登場したときには、実際、通報されたこともあったんだよね」
「ああ、あれは本当に大変だった」
「そ、だから、そういう気が回らないようインパクト重視の登場にしたってわけ」
いろいろ苦労しているのね―。と思ったけれど、彼らが最初に現れたときの様子を思い出したら、ちょっと笑えてきた。あのときはびっくりが先に立っていたけど、思い返したらなかなかのあれだ。だけど、シェイバーが思いっきり嫌な顔をしたので、すぐにそのイメージを頭から追い払って、咳払いをした。
「…まあ、いい。とにかく、あんたのお母さんは、お茶を飲まなかった。結果として、あんたが生まれた」
「そう、君の願いを叶える前と、同じ状況だね。表面的には」
「表面的には?」
「ああ、彼女は、あんたに出会った、そして、意識的に、あんたのお茶を避けた。これが違い。とても大きな違いだ」
確かに。そして、結果的に、私の目論見は失敗して、何も得ることなく終わってしまったことになるわけね…。そう思った途端に、
「そうかなあ? 考えてみてよ」
とセイバー@仮が言った。
「君の願いは多少なり叶ったはずだよ。彼女と一緒に、お茶をできたんだから」
「それに、彼女の願いも叶った。あんたを守りたいっていうな」
「…そう、そうね、確かに」
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