第15話 7日目、最後の日

 だけど、幸せすぎる毎日は、もう終わる。

 7日目。最後の日。間もなく私は、ここからいなくなる。なるべく考えないようにしているつもりではいるけれど、でも、どうしても、別れを意識してしまう。態度に出さないよう、気を付けないと。


「今日は、これ!」

 明るく笑いながら、小鳥の柄の可愛らしいカップとソーサーを、自分とハナさんの前に置いた。このカップは、今でもうちのキッチンに1組だけある。私のお気に入りで、私たちのこのお茶会の最後を飾るのにふさわしいと思って、選んでみた。


 わあ、これもいい香り、何と言うか、オリエンタルなイメージがあるかしらねえ、優しい笑顔でそう応えてくれる。幸せ! このまま消えてもいい! 声を大にして言える。これは嘘偽りない気持ちだから。そう思いながら、もう一杯どうぞ、と、ポットからお代りを注いだ。


「…!!」


 この笑顔も、これで見納めなのね―しみじみとした気持ちでお茶を味わっていると、がちゃん、とカップがソーサーにぶつかる音がした。目を向けると、そこには、空のカップを取り落としたハナさんの姿。


「…!? どうしました!?」

「あ…、何か、ちょっと、お腹が…」

「え? お腹が? どうしたんです!?」

「お腹、あ、急に痛くなって。ごめんね、たいしたことないと思う。でも、ちょっと、あの、お手洗いに…!!」


 そのまま立ち上がり、よろよろと歩いて行って、ハナさんはキッチンから母屋に続く扉に手をかけた。手を貸したほうがいい? 立ち上がり手を伸ばしかけて、気が付いた。私の手、透けている。時間切れだ、もう、私には何もできない。


「どうしたの? 何の音?」


 ぱたぱたと家の奥から走ってくる音がして、ハナさんのお母さん、つまり、おばあちゃまの声がした。ああ、おばあちゃまが来てくれたのなら、きっとお母さんはだいじょうぶだ。ほう、と安堵の息をついて、それから意識が遠のいた。

 さようなら。幸せだった、この7日間。


「もう、消えてもいい―」

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