第14話 違う手法・同じ夢

 私たちは、ハーブティーについてたくさん話をしたけれど、それと同じくらい、研究の手法についても語り合った。というのも、2人のアプローチのしかたがかなり異なっていて、そのことが、特にハナさんにとっては、とても興味深かったから。

 2人ともハーブの研究をしているけれど、ハナさんは実際にいろいろなハーブを試して、そうした経験を重ねながら高い効用が得られる組み合せを見つける。一方私は、ハーブが持つ成分を科学的に分析し、シミュレーションで解析、最適な組み合わせを予測し、効果が出せる確率が高いと思われたものから、順次“実験”する。そう話すと、ハナさんは目を丸くした。


「すごいわねえ! まるで科学者みたいよ。白衣を着て、実験するの?」

「そこまでは、しませんけど…」


 苦笑しながらそう言うと、そっか、エプロンでも十分よね、危険な薬品を扱うわけじゃないものね、ハナさんも笑ってそう言った。そう、危険な薬品は扱わない。でも、ハーブの中には危険なものもあるから、注意は必要だけれど。


「ねえ、でも、私たちの手法はとても違うけれど、夢は、目指していることは、同じよね。自然素材による、体に負担の少ない『薬』を見つけ、広めること。これって、素敵なことね!」

「そうですね」


 目指すところは一緒、それは嘘じゃない。

 自然界のよりよい『薬』、役立つ『薬』を見つけて、世に広める。私は、この目的の実現のため、同様の志を持つ人々が集う、世界規模のハーブ研究団体に所属している。ここで情報をシェアすることで、研究がより効率的に前進するから。


 実は、この団体にはちょっと特殊な顔もある。団体の研究成果は、基本的に誰にでも公開されているけれど、一部のレシピや情報は、会員以外に渡らないようクローズドに管理され、それらを外部に漏らすことも禁じる規約を持っている。さらに、そのうちの一部情報は、ごく限られた会員にのみアクセスが認められている。この“ごく限られた”というのは、団体の審査を経て、参加が打診された人という意味で、一般の会員にはこの存在すら知らされていない。

 なぜか? こうしてセキュアに管理されるレシピは、大部分が、有用だけど効用が強く危険なもので、悪用されないよう注意を払う必要があるから。どうしてそんな危険なものがあるのか、と思うかもだけど、でも、毒と薬って、紙一重でしょ? たとえば脈拍を強める効果がある薬は、脈が弱まった人には効果的だけど、健康な人が使ったら危険になる。眠れない人にカフェインはマイナス効果だけど、眠ったらだめだ! というときには強い味方になる。そういうこと。


 そんなことを考えていたら、2杯目のお茶を口に含んで、ハナさんが言った。


「今日のお茶も、美味しいわね」

「お口に合いますか? それならよかったです。香りに癖があるから、かなりの確率で苦手と言われるんですけどね。でも美肌効果もあるから」

「あらそうなの? この香りがこの風味にマッチしていて、いいのにねえ」


 それは、こちらの時間で4日目のこと。私が2時過ぎに来て午後のお茶を淹れることは、すでに習慣化していた。都度、違うお茶を淹れて、都度、違う称賛の言葉をもらう日々。幸せな、幸せな時間。幸せすぎて、どうにかなりそう。

 もう、このままずっとこうしていられたら―。

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