第13話 天使じゃない

 千夜一夜物語って、知ってる? シェヘラザードが夜な夜な王に語り聞かせて、改心させたというお話。1晩に、1つずつ。

 私のお茶は、1回に、1種類ずつ―。


        ***


「毎回違うお茶ね。それぞれ香りも味も違って、でもどれもとても美味しいわ」

「ありがとうございます! そうなんです、味も香りも違います。だけど、前にお伝えしたように、ほとんどが女性の体にやさしいよう調合しています。体を温めて、血流をよくする効果があります」

「体を温めるのは、とてもいいことだわね。特に、こうのとりが連れてくる天使を待っている女性にとっては」

「…ええ」


 ハナさんはちょっと意味深に笑ったけれど、でも、私は知っている。ハナさんの元にこうのとりが連れてきたのは、この私。天使じゃない。ハナさんを空高く連れ去った、厄介者。ハナさんを失った皆を、悲しみと後悔に包みこんだ。


 …いっそ、罵ってくれたらよかったと思う。お前のせい、と。そう言われたら、誰かが、少なくとも自分は、違うと言えた。反論もできないままに、それは次第に真実として私の中に固まって行ったから。だから私は、こうせざるを得ない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る