第109話 俺の前に最初から戦士なんて居ねぇよ

オイオイ、マジかよ?いつの間に沈んだんだ?


記憶にも意識にも残らねぇとかどんだけ雑魚いんだよ?


「ク…………ソ…………がっ」


おーまだ辛うじて生きてはいたか。

それなら問題ねぇな。


俺は踏みつけているそいつの身体を適度に破壊する。

オーズさん直伝ってやつだ、確か「捕縛する為の縄や鎖が無くても相手を拘束する為の方法」だったっけか?

うん、今思い出してもネーミングからして既にヤベーわ。

内容はもっとヤベーんだが、今はどうでも良い。


身体を動かす為の筋肉、腱、無理そうなら骨まで砕き動けなくする。


「ヤ、メロぉ!!殺………せ!!」


「は?――――ざけんな、負け犬――――――お前の言うところのクソ雑魚か?そんなヤツが俺に指図すんじゃねーよ」


この場で殺してやるのが戦場の習わしか何かなんだろうが知った事かよ。

とりあえずこのクソガキには然るべき場所で然るべき処罰を下してもらう、それが例え死罪で結果は変わらねぇとしても、だ。


「俺は、戦士、だ!戦場で戦って、最期まで――――――」

「何甘ったれた夢見てんだ?あぁ?」


まだウダウダと言ってやがるクソガキの髪を引っ張って持ち上げ、囁いてやる。


?居るのは自分テメェよりも弱い奴らしか相手にしてこなかったせいでイキっちまった、力に酔った馬鹿だけだ」


「う………………あ………………」


おぉっと、ちょっと意地悪し過ぎたか?まぁ大人しくなるなら構やしねぇか。

結果オーライだ。


俺は手近に居た部下にそいつを任せ周囲を見回す。

どうやらアーサーの方もケリがついたらしいな、操られていた連中が糸が切れた操り人形みてーにその場に崩れ落ちて行く。



魔族の反乱分子ってのはこれで終いか?

出てくる前はそりゃもう今生の別れみてーに送られたが、いざ制圧してみるとそんなでも無かったな。

大吾やギースさんまで後から出張ってくるような事も聴いてたが、今から「要らん」と連絡した方が良いんだろうか?



もう頭を切り替えて戦後処理の事まで考えようとしていると、


「お前がこの軍の大将か!?」


両手でナイフを握り締めた魔族が居た、そいつは俺の部下たちに止められながらも突進してきて、でも最終的には組み伏されて俺の足元に這いつくばる様に地面へ押し付けられていた。

そして今も俺のことを見上げながらも睨みつけて来ている。


…………気合入ってるのがまだ居たんだな。


「一応、今は俺が大将だが、お前は?」


「この反乱を先導した一人、ゼクスだ」


「で?俺に何の用だ?わざわざ首を獲られに来たわけじゃねぇだろう?」


「…………頼みがある」


「聞くだけ聞いてやる」


俺はゼクスの傍にしゃがみ込んで話を聞く事にする。

傍に居る連中からぎゃあぎゃあと注意を受けたが譲るつもりはなかった。

賢そうなコイツがこうまでして何を頼むのか、それが気になったってのもある。


「感謝する――――――お前たちが”空白地帯”と呼ぶこの場所を魔族の自治区として認めてもらいたい」


「そんな要求、通ると思ってんのか?」


「我ら魔族に故郷を――――――!!」


食って掛かろうとしたゼクスを部下たちが取り押さえる。



故郷、なぁ………………。


思い出すのは前世の日本、退屈過ぎて馬鹿ばっかりやってたが、こうしてふと思い出しちまう前世は俺の中でいつまでも故郷なんだろうと思った。

今の世界にある故郷は帰ろうと思えばいつでも帰れるからな。


このゼクスってヤツは、もしかして魔族にそんな拠り所を作ってやりたいと決起したってのか?それにしてはやり方が稚拙過ぎるだろ?


まぁ資源も武器も食料も制限されたようなこんな土地じゃ、これが限界だったのかもしれねぇけどよ。

これじゃ不法占拠と変わりないだろ。


あぁでもそうか、正面切って話をしに行ったって相手にもされない可能性――――――最悪その場で殺される事だってあるだろうから、最初からある程度武力を見せておく必要があったのか、


『俺たちをナメんじゃねーぞ!!』


ってな?

そうする事で交渉相手が少しでも魔族にビビってくれたなら、交渉も優位になったかもしれない……………ここまで派手にやらなけりゃあの話だがな?

主だった連中は好き勝手に暴れてただけっぽいし、何処までがコイツの計画通りだったのかは解らねーけど、俺やアーサーが派遣されちまう時点でこっちのお偉いさん連中は事態を重く見てるって事だ。


それこそ、後の禍根を断つために皆殺し――――――なんて言い出しかねねぇ。



どうするか?

故郷を――――――って想いには応えてやりてぇが………………。


そんな俺の所にアーサーが戻って来た。

その傍らには何かエロい姉ちゃんがぴったりとくっついている。

そして二人から醸し出されるラブい空気……………まさか。


「あー………その、実は僕たち付き合う事にガフッ――――――!」


アーサーが全部言い切る前にその顔面を殴り飛ばしてやった。


「テメェふざけんな!!こっちは出来るだけ被害出さねぇようにとか色々考えてたってのに!!何いちゃついてんだ!?あ゛ぁ!?」


怒りに任せて手が出ちまったけど、誰も俺を止めなかったし責めもしなかった。


そもそも大吾になんて説明するつもりだ?アイツ絶対認めねーぞ?

ん?待てよ?こういう面倒事にはX・カーヴェ家ってのは大いに役立つんじゃねーか?

俺はすぐにアーサーに手を差し伸べ立ち上がらせると、ゼクスの話していた内容をそのまま説明する事にした。

そして、


「この土地をお前の領地に出来ねぇか?」

「…………随分と無茶を言うね」


「足りねぇなら俺の家の領地でも良い、大吾なら何とか出来るだろ?」


「そりゃあ…………出来るだろうね、だけどルシードはそれで良いのかい?こんな土地を貰ったところでメリットなんて――――――」


「中央府のくだらない覇権争いに巻き込まれなくて済む、俺は領地を得てマリーたちを迎え入れられる、お前はその彼女さんと大手を振ってデートが出来る」

「乗った」

「よっしゃ!」


俺とアーサーはがっしりと握手を交わした。

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