第108話 歳をとると説教クサくなる
アーサーと二手に分かれてしばらくの間、俺は徹底的に防御に専念していた。
不用意に突っ込むと却って痛手を負うのは目に見えてるからな。
「出来るなら無力化した上で拘束しろ!それが無理そうなら防御に専念してりゃいい!」
こんなゴタゴタとした戦場で何処まで俺の指示が届くかわからねーけど、戦線自体は膠着状態に持ち込めた――――――そう思ってたんだが…………。
戦線のとある一角から悲鳴が聞こえてくる。
時々土煙を噴き上げてこっちの兵士が吹き飛んでいることから、どうやら魔族の気合入った奴が暴れてるらしい。
くそっ!面倒なのが出てきやがったな…………。
「アイツは俺が抑え込む!アーサーが事態を解決するまでもちこたえるぞッ!!」
俺の言葉に周囲の兵士たちが応じて咆哮する。
すぐさま馬を走らせ、怒号飛び交う場所へと向かった。
そこにはデカい剣を嬉々とした顔で片手で振るう一人の魔族が居た。
なんつーか、戦い方がめちゃくちゃだった。
武器は剣なんだが、それは斬るというより叩き潰す為のものになっている。
そいつは獰猛な目で俺を見据えると、ニヤリと笑った。
「ちったぁマシな雑魚が湧いて来たみたいじゃねーか、けどよぉ俺を満足させるにはテメェでも力不足だ!」
俺に向かって一直線に突っ込んでくる。
こういう馬鹿は嫌いじゃねぇんだけどよ、まだ戦ってもないってのに雑魚扱いしてくるのにはちょっとイラっとしたじゃねーか。
力任せにぶん回された大剣を受け止める――――――なんて無駄な事はせず、普通に避けてカウンターでヤツの脇腹をぶん殴る。
めちゃくちゃな戦い方だが、その分隙も多い。
思いの外ダメージを受けたのか、そいつは大きく後ろに飛んで距離を空けた。
苦痛に顔を歪ませ、先ほど俺が殴った脇腹を抑えている。
「テメェ……………雑魚のくせにやるじゃねーか」
どうやらヤツの中での俺の評価が少し上がったみてーだ、興味ねーけど。
また奴は突っ込んできて大振りの一撃を繰り出そうとして来た、俺はそれにタイミングを合わせて反撃――――――今度は顔面を蹴り飛ばす。
何回かそれを繰り返していると、
「くそがっ!何で…………当たらねぇん、だよ!?」
コイツ……………さては相当な馬鹿だな。
その武器がコイツのスピードだとか、戦闘センスだとかを軒並み潰してるってのに、ボロボロになってもまだそれを大事に手に持ってるんだからな。
それと何度か攻撃してみて分かったんだが、コイツ異様に打たれ弱いんだよな。
フェイントにもすぐに、面白いくらいに引っかかってくれるし。
俺の攻撃が当たるとすぐに怯んで、一旦距離を空け逃げようとする。
そして折角空けた距離を、また同じようにして突っ込んできて無駄にする。
コイツ、なにがしてぇの?
「クソ雑魚がッ!テメェだけは絶対に俺が殺してやるッ!!」
――――未だに俺をクソ雑魚と呼ぶイキリっぷり、何か痛々しくて見てらんねーわ。
そういや、こういうやつは前世でも時々居たな。
地元じゃ負け知らず。
そんな言葉に踊らされて、天狗になってるヤツ。
俺からすりゃあそういう奴の大半が一生地元じゃ負け知らずで居ればよかったのになって感じだ。
まぁ俺も傍から見りゃ一緒の輩に見えてたんだろうし、実際それに近かったんだが。
けど今こうして違う人生歩んでみればわかる。
考えてもみろよ?
その地元で大っぴらにケンカするような気合入った奴がどれだけ居た?
俺の居たチームにしたって、ただ一緒になってバイクで走るだけで喧嘩なんてした事無いってやつが普通にいたぞ?
そんな精々十数人~数十人?の中で「俺が一番強い」?あんま笑わせんなよ。
それとも、「そうだねー、キミが一番強いねー」なんて言って欲しいのか?
今思えばどれにしたってくだらねーと一笑してやるよ。
「俺の居た時代じゃ数百人規模で、そこの頭だった」とか言ってる元ヤンのおっさん共にしても似たようなもんだ。
いい加減大人になれよ?
どれだけ「俺、昔は凄かったんだぜ?」なんて言ったところで、イキってるだけのガキと一緒でクソダセェんだぜ?鏡見せようか?
元○○級ボクサーとかと同列に考えてねぇか?
アンタの凄さをもう誰も確認できねー以上、それは嘘と何ら変わんねぇんだよ。
喧嘩すりゃ証明できる?
止めとけ止めとけ、身体はもうその頃みたく動かねぇし。
何より、嫁さんと子供が居るなら絶対やめとけ。
逆にそういう人達の顔が浮かんで拳を我慢できるヤツを、俺は尊敬するね。
「少年院に入ってた」ことを勲章の様に話すクソガキが居るけど、「刑務所に入ってた」ことは消えねぇし、先々の重しにしかならねぇ汚点だぞ?
おおっといけねぇ!
あまりに戦闘が退屈過ぎて誰にともなく、説教クサい意味わからんこと考えちまった。
歳とると説教クサくなるってマジなのかもしれねーわ。
そうして気付けば俺は、さっきまでイキってた奴をボコボコにして踏みつけていた。
おーい、生きてっか?
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