第104話 援軍、出立!!
「アーサー!?何言ってやがる!?俺はお前も行かせるつもりは無ぇぞ!?」
大吾が声を荒げる。
かなりの威圧感を放っているはずなんだが、アーサーはそれを受けても涼しい顔をしている。
「僕だって冗談で言ってるわけじゃないよ?僕もルシードの事が心配なんだ」
それに……と続けたアーサーは和やかな雰囲気を一変させ、
「緊急事態だって言うのならまずは何よりも誰よりも
負けず劣らずの威圧感を放って大吾と睨み合う、漫画とかだと背景に竜虎でも居そうな雰囲気だ。
やがて睨み合いに疲れたのか、舌打ちと共に大吾が目を逸らして頭をガシガシと掻きむしる。
「あーチクショウ!行かせたくねぇ!!行かせたくねぇが、アーサーが傍に居りゃちぃとは安心できるか……………良いか?俺とギースも後で絶対に追いかける。だから無理だけはすんじゃねぇぞ」
アーサーが再び和やかな雰囲気に戻り、表情も柔らかなものになる。
さっきまで今すぐ殴り合いになりそうな雰囲気だったってのに……………。
「大吾!俺だってもうガキじゃねぇんだ!保護者面すんじゃねぇ!!」
高等部卒業して大学校に行こうかってのに、いつまで経っても大吾は――――――いいや、歳を重ねる毎に過保護になって行っていた。
アーサーにシスカ、フェリシアさんまでもが苦笑いだ。
「うっせえ!!この世界でのテメェの親父がちょっとアレだったんだから、俺がテメェの心配ぐらいさせろ!!」
俺に無断で彼らX・カーヴェ家は落ち目だったエンルム家を訪ねていた。
そこでまぁ………いつも通り色々とやらかして、エンルム家は貴族として立ち行かなくなった。
その後、一家揃ってスティレット家を頼って来たのにはさすがにびっくりした。
相変わらず尊大な態度のアルフォンスと何故かミレイユまで居て、あまりにうるさかったのでスティレット家総出で追い出したらしい、フォルスとミリアが嬉々として教えてくれた。
その話はニーアさんの手によって再び書籍化――――――しかけてたのを、俺とオーズさんとマリーで必死に止めたのは懐かしい記憶だ。
俺のところに援軍として派兵せよとの御達しが届いてからあっという間に時間が過ぎて、俺とアーサーは戦場に最も近い町へと転移する門の前に集まっていた。
中等部、高等部と共に過ごした仲間が見送りに来てくれていて、そこで俺は前倒しで高等部の卒業証書を渡された。
ホントなら卒業まで待って居たかった、みんなと一緒に卒業したいとも思っていた。
けど、魔族の連中はそんなのお構いなしに進行速度を速め、その脅威度は日増しに強くなっていっていたので仕方ねーかな。
そんな感慨に耽っていると、俺の隣でシルヴィアとシスカの二人も卒業証書を渡されていた。
何で?と俺が疑問を口にするよりも先にシルヴィアが、
「私たちもついて行くから」
たったそれだけだったが、決意の固さは理解できた。
シルヴィアの隣でシスカも神妙に頷いている。
「お父様がね?私たちも一緒に行けば絶対に二人は無茶な事しないだろうからって……………」
………………大吾の野郎、アーサーでさえも行かせるのを渋ってたくせにシスカまでこっちに同行させてどうすんだよ。
そんな事を思っていると、丁度当の本人がニヤニヤしながら近付いて来た。
「おう、二人とも悪いけどこいつらの手綱をしっかりと握っててやってくれ」
「父上、これはさすがにやり過ぎでは……………?」
「大吾!!とりあえず一発殴らせろ!話はそれからだ!!」
納得のいかない俺たちを完全に無視して、大吾はシスカとシルヴィアと和気藹々と話をしている。
そんな俺たちの所にそっとフェリシアさんが寄って来て、
「効果は絶大でしょう?二人をちゃんと守ってあげてね?」
大吾はともかく、フェリシアさんにそんな風に頼まれてしまったらもう何も言えねーわ。
俺とアーサーは同時に大人しくなる。
「……………お前らなぁ、俺とフェリシアの扱いが違い過ぎるだろう!?」
俺たち二人はさっきの仕返しとばかりに、大吾のそんな非難を余裕で無視した。
「ルシードよ」
オーズさんが見送りの挨拶に来てくれた。
その隣には身重のリズさんが居て、相変わらず仲睦まじいな。
「ごめんなさいね?ルシードくん…………こんな大変な時にオーズさんを一緒に行かせてあげられなくて……………」
「何言ってんですか、気にしないでください。リズさんは今そんな事よりも元気な子を産むことだけ考えてれば良いんですよ」
俺は努めて明るく言った。
そうでもしないとリズさんもオーズさんも、今以上に暗い顔をしちまいそうだったからな。
「必ず生きて帰るのだぞ?貴様には生まれた我が子の目標となってもらう大役が有るのであるからな」
「俺よりもアーサーを目標にしてれば間違いないですよ」
「あはは、僕はダメだよ。オーズの子が戦闘狂になったらどうするのさ?」
「自分で言うなよ……………」
これから戦地へ行くなんて微塵も感じさせない和やかな雰囲気、それらを名残惜しく感じながら…………俺は胸いっぱいに空気を吸い込みながら周囲を見渡す。
スティレット家の皆とはもう既に挨拶は済ませてある、これ以上の会話は不要とばかりに目が合ったミューレさんは深く一度だけ頷いてくれた。
俺もそれに頷き返すと、俺たち以外に援軍として向かう人たちが転移門を順番に潜って行く。
やがて俺たちの番になり、
「ルシード・スティレット隊!!出るぞッ――――――!!」
そのほとんどがX・カーヴェ家の兵士さんたちだけど、今此処に居るのは援軍として向かう俺が率いるスティレット隊、アーサーまでもが俺の指揮下に入ってる。
階級も家柄も向こうの方が上なんだが、今回は俺の指揮下に入る事で無理矢理周囲を抑え込んだらしい。
こうして俺たちは転移門へと足を踏み入れたのだった。
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