第103話 出撃命令
もうすぐ高等部卒業を控えていた時期に、その報せは齎された。
魔族たちの住む空白地帯を監視するために建造された要塞、それが陥落したとの報告だった。
それを報告した兵士はそれが終わると爆散したらしい、一時王宮は騒然となっていたと大吾から聞いた。
どうやら魔族の一部が再び侵攻を始めたらしい。
X・カーヴェ家もそれを迎え撃つために戦支度を始め、中央府にも物々しい雰囲気が漂い始めていた。
魔族たちの進行速度は意外にもゆっくりだったが楽観視も出来ない、一先ず攻め込まれた地域とその周囲の領主が率いる軍に応戦させ、その間に中央府からも援軍を送ろうと大吾は動いていたんだけど――――――…………。
「まだ出撃許可は下りねぇのか!?ぐずぐずしてたら陥落しちまうぞ!!」
ここ最近ずっと大吾はこの調子でイライラしている。
理由は本人もさっき言ってた通り、出撃許可が下りないらしい。
「中央府の御歴々共は大吾という最大戦力を手元に置いておきたいんだろうか?だとすればこのまま此処に居ても出撃許可など来ないかもしれないな」
連絡を受けて大吾のところに来ていたギースさん、大吾と共に戦った英雄の一人で多分ギースさんや奥さんのレンレンさん、あとはフェリシアさんも戦場へ送りたくない人員になってるだろうな。
中央府で暮らす中央府貴族の連中は地方を見下している―――――というか、どうなっても中央府さえ無事であるならばそれで良いと考えている。
それが中央府に移り住んだ俺が抱いた中央府に対する第一印象だった。
だからこそ、魔族に対する絶対的な切り札と成り得る大吾を筆頭としたX・カーヴェ家と英雄たちは出来るだけ中央府から離れさせたくは無いのだろう。
その間にどれだけの被害が出ても関知しない、それがもう態度に現れていた。
理由がクソ過ぎて笑いが出てくるわ。
そして状況はもっと最悪な事になる。
次の日、なんと俺のところに非常事態だからという理由で、出撃命令が下りて来ていた。
一応スティレット家はX・カーヴェ家の傘下に入っている。
本来であればそうした命令はX・カーヴェ家経由で降りてくるものなんだが、非常事態を理由に直接届いたのには驚いた。
それを見たオーズさんが激怒し、俺はオーズさんに連れられ大吾のところに来ていた。
「師よ!!ルシードのところにこのようなものが――――――!!」
「これは……………おいおいフェリシアよぅ、お前の兄貴は何考えてやがんだ?」
俺のところに届いた出撃命令書を読み、それを持つ大吾の手が怒りに震える。
隣で一緒に読んでいたフェリシアさんも、信じられないものを見ているかのように目を丸くして驚いていた。
因みにフェリシアさんの兄が現国王で、俺に出撃命令を下した本人だ。
きっちり御丁寧に直筆サイン入りだ。
「…………おそらくはアーサーや他の子たちを出せと言うと露骨に反発されるのが目に見えているから、その傘下に居る中央府に馴染みの浅いスティレット家を槍玉に挙げたのだと思うわ」
大きな溜息を吐き、呆れたように目を伏せるフェリシアさん。
そんな風に言われると、予想でしかなくても真実であるかのように聴こえちまうな。
「この命令書を撤回させることは――――――?」
「それは………幾ら何でも出来ませんわね。一度それをして前例を作ってしまうと、次からはその前例を理由に他の者たちまで拒否をするでしょう」
そりゃそうだ。
アイツは許されるのにどうして自分は許されないんだ!!
そんな風に考える奴は一人二人じゃないだろう。
小賢しい奴は上げ足を取るように前例を口にする。
だからこそ前例を創っちゃいけないってのは理解できる話だった。
何も考えなくなるからな、前はどうしてた?――――――馬鹿の一つ覚えみたいにそれで全て処理出来る魔法の言葉の様に便利に使う奴も出てくるだろう。
これにはオーズさんもがっくりと項垂れていた。
中央府の態度はオーズさんも毎日見てる、だからこそ地方へと援軍として送り出される事の意味を知っている――――――理解してるんだ。
援軍として派遣された先で何かあっても、中央府は何ら関与しない。
遠回しに死地へ行けと背中を押されてるようなもんだ。
「であれば師よ!!吾輩がルシードに同行する事をお許し願いたい!」
これにはちょっと感動した、オーズさんはそんな場所にさえ一緒に来てくれるんだと……………。
だけどそれは俺が許さねぇ。
「オーズさん、リズさんの出産予定日がもうすぐなんでしょう?一緒に居てあげて下さい」
オーズさんと一緒に中央府へと移って来たリズさん、慣れない環境に戸惑いながらもようやく二人の間には子どもが出来ていた。
リズさんが妊娠しているのをを知った日に、オーズさんが嬉し泣きしていたのを知っている俺としてはどうか一緒に居てあげて欲しい。
勿論スティレット家も全力でリズさんをサポートするつもりだけど、リズさんが一番傍に居て欲しいのはやっぱりオーズさんだと思うからな。
俺の言葉に苦い顔をするオーズさん、何度も出かかった言葉を呑み込んでは俯いている。
「オーズ、初めての子だろ?傍に居てやれ。本音を言やあコイツの近くに居てくれると安心なんだがよ?俺はお前の嫁に恨まれたくはねぇからな」
「じゃあ僕が一緒に行くよ。それなら問題無いよね?」
そこで立候補したのはアーサーだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます