第105話 こんなはずじゃなかった

魔族の大将格の一人であるはずのローグエットは、たった一人――――――ボロボロになりながら逃げ続けていた。

手近な森に逃げ込んで、脇目もふらずに駆け抜けていく。

そんな彼の背後から、


「コラ!ハゲぇ!!!!!待ちやがれ!!テメェが一対一サシで勝負だっつーから乗ってやったってのに、逃げてんじゃねぇ!!」


追い立てる一人の青年――――――ルシードだった。








くっそ、ハゲだからか?やたらと逃げ足が速ぇ…………。

だけど、俺から逃げられると思うなよ?


転移門を潜った先にあった町、そこから北上して要塞へと向かっていると、その道中で魔族の軍勢と遭遇した。

しばらくぐだぐだの遭遇戦をした後、埒が明かないって事で向こうの大将――――――あのハゲが一騎打ちを嗾けて来た。

俺もその方が手っ取り早いかと思いそれを受けたまでは良かったんだが…………。


御大層な口を叩いてた割に大した事無かった。

力は強ぇーんだろうな?うん。力は……………他はガタイの良さならオーズさんと同等ぐらいなんだが、それ以外は足元にも及んでない。


要するに、トロいんだよ――――――。



結果は勝負にもならなかった。

ハゲが一撃繰り出す間に、俺は三倍動ける感じ。

その上、ガタイが良いくせに妙に打たれ弱いのも気になった。

こっちは急所を攻撃したわけでもないのに、殴るたびにハゲの戦意がボキボキ折れているのが手に取る様に解った。


そんで、冒頭の逃走に戻る訳なんだが――――――…………。




「一騎打ちを提案しておいて、負けそうになったからって逃げちゃダメだよね?ましてキミはあの魔族の軍勢の大将格なんだろ?」


俺よりも早く、アーサーがハゲに追いつき組み伏せていた。

その状態で囁いてやるなよ…………もう心折れてるだろ?

なんかスゲー可哀そうになって来た。

これじゃどっちが悪かわかりゃしねぇ。


「えーっと、ローグエットだっけ?―――――」

「頼む!何でも話す!!だから命だけは助けてくれぇ!!」


アーサーに地面に押さえつけられながらも、じたばたと暴れて命乞いまでし始める。


「は?キミは幹部か何かの一人だろう?何自分だけ助かろうとしてるんだい?そもそもここまで侵攻して来る時に散々人を殺しただろう?許されるとでも思ってるのかい?」


「アーサー……………もうそいつ意識ないぞ?」


抑えつけからのささやき戦術(恫喝)コンボに、ハゲは泡を吹いて完全に気絶していた。

そんな情けない姿のハゲを見て、


「ルシード、どうする?今のうちに首を斬っておく?」

「あー…………とりあえず捕縛、そんでまだ抵抗してる連中がこっちの言う事に大人しく従わないようだったらアーサーの好きにして良いぞ?」


前世の記憶から前世の倫理観をこの世界に持ち込んだって意味が無い、俺はもうこの世界のルシードって人間で、そんなものは今は邪魔でしかないんだからな。

自分でも驚くほど冷淡にその判断を下すことが出来た。

アーサーはそんな俺の言葉を聞いて嬉しそうに微笑む、


「…………大丈夫そうだね?下手に相手に同情してしまえば、今度命を失うのは僕らの内の誰かかもしれない――――――ちゃんと理解して、実践しようとする心構えが出来ているようで安心したよ」


――――――わかっていても胸糞悪い。

抗争、戦争、デカいチーム同士で喧嘩した時はそんな風にイキって言ってた気がするが、あの頃はそれがどんなものか本当には解って無かったんだろうなぁ。

そんな気持ち抱えておきながら、冷淡に判断を下せた自分が気持ち悪くて……………ホント、胸糞悪いったらねーわ。


「ローグエットったら情けないなぁ、そんな奴らに捕まっちゃうなんて」


俺たちを小馬鹿にした顔で、樹の上から見下ろしている子どもがいた。

どうやらこのハゲの知り合いらしいな、魔族か?

ピエロみたいな姿をしてるからよくわからねーけど小柄だから子どもと判断した。


「仕方ないから助けてあげる、ボクの可愛い下僕ちゃんたちがお前たちを恐怖のどん底に――――――」


子どもが気持ちの悪い笑みを浮かべながら高らかに木の上で何かを言ってた途中で、銃声が鳴り響いた。

そして落ちてくる子供、すぐに銃を手にしたシルヴィアが駆け寄ってくる。


「何か言いかけてたけど、何だったんだ?」

「さあ?敵なのに全部話を聞いてあげる必要も無いでしょう?」


そりゃあまぁ確かにそうなんだけど………………。







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ローグエットとグルーミィの二人があっさりとやられたとの報せを受けて、ゼクスは爪を噛んだ。

彼の想定ではもっと人間たちの国の先まで侵攻できるはずだった。

しかし予定の半分も行かない所で迎撃されてしまった事に内心驚きながらも、努めて冷静にバランに告げる。


「向こうもそれなりの戦力を出して来たみたいだ、バランも楽しめる相手なんじゃないか?」


余裕を装ってバランを嗾けてみる、彼らの最大戦力であるバランが動けば勝てるだろうと甘く見積もっていた。


「ルーティーも、操っている兵士たち全員を連れて二人を止めた援軍を潰しに行ってくれるかな?」


「俺はこの暇を潰せるってんなら何だって良い!けどクソつまんねー奴らだったら帰って来た時覚悟しとけよ!?」

「ふぅ、ゼクスちゃんってば人使いが荒いんだから、まぁ楽しい事になりそうだし?仕方ないから乗ってあげる」


バランにルーティー、そして彼女が魅了して操り人形と化した兵士たち、負ける要素など無い――――――ゼクスは価値を確信したようにニヤリと笑った。

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