閑話・裏話 スティレット家影の守護者、エドガ
【エドガ視点】
お初にお目にかかる。
私はスティレット家筆頭執事のエドガ。
以前はブルカノン家に仕えており、諸般の事情でルシード様に拾われた執事であります。
エンルム家でも次期当主と比べるまでも無い器の違いを見せつけていたルシード様ですが、スティレット家当主となってからはとても悪名を轟かせていたとは思えない程にメキメキと頭角を現していました。
その最たるものが、フォルスとミリアの二人の登用でしょう。
一般的に御家に仕える護衛騎士を選出するのであれば、まずは家柄から選ぶのが常識となっておりました。
しかしながらルシード様は身分・家柄問わずという内容で募集をし、その二人を召し抱えたのでした。
フォルスは貴族ではなく、ミリアは貴族だけれど没落寸前。
「エドガ、あの二人をスティレット家の護衛騎士としたからにはもう家族も同然だ。あの二人の面倒事は全て解決しておいてくれ」
思えば、二人を登用した時にルシード様が発した言葉はその後に起こった騒動を既に見越していたのかもしれない。
フォルスの実家は商家の家系で、フォルスがスティレット家の護衛騎士として仕える事が決まった翌週にはスティレット家へと顔を出してきた。
「是非、我が家の商会を御贔屓に――――――」たしかそんな内容だったように思う。
第一印象はとても人当たりの良い御仁だったように思う、しかし徐々にそのメッキが剥がれ、スティレット家の当主様に会わせろとしきりに匂わせて来た。
「我が主様は御多忙故、そのような時間はありません」
何度代理の私がそう言っても聞かない、同室に控えていたフォルスも居心地が悪そうだった。
仕えてくれる騎士の実家だからと大人しくしていれば、息子にまで迷惑をかける始末。
「これ以上は時間の無駄ですな?フォルスの実家だからなんだと言うのです?確かに彼はスティレット家に仕えては居りますが、だからと言って貴方方を優遇するような真似は我が主が最も忌み嫌うものです。それさえも知らずによくもスティレット家の敷居を跨げたものですな」
そんな風に感心していると、彼は顔を青褪めさせて出て行かれました。
「エドガ殿、ありがとうございます」
フォルスは深々と私にお辞儀をしましたが、
「いえいえ、御礼ならばルシード様に言って下さい。我が主はこうした事態を予見しておられたようで、私にも備えておくよう指示をくださっていたのですよ」
「あの御方は……………本当に――――――これからもスティレット家の護衛騎士として恥じぬよう一所懸命に任に当たります!」
フォルスのスティレット家に対する忠誠心が増したようです。
しかしそれも当然の事でしょうな、あの御方………ルシード様は中級貴族などで収まるような御方ではない。
そう言えば、ミリアの時も厄介でした。
ミリアの家はいつ没落してもおかしくない下級貴族の家、しかもミリアを嫁がせて再興をしようと考えていた無能共です。
当然のように我が家に押しかけてきました。
「娘を返してくれ!!雇い入れるって言うなら我が家にもそれなりの迷惑料を払ってもらおうか!!」
ミリアが嫁ぐはずだった貴族とはニーア様立会いの下、ルシード様が話をつけて下さっていたはず…………。
その時にミリアの実家にも既に幾らかの金銭を支払っているはずでした。
どうやらその金が尽きたので我が家にタカりに来たようです。
押しかけ強盗と変わりない親の姿にミリアが拳を握って震えているのが見え、
「もう既にお金ならば払ったはず、それ以上を要求するのであればこちらとしても不本意ですが出るところに出なければならなくなりますが?」
私の言葉にミリアがハッとして顔を上げ、私と目が合うとしっかりと頷きました。
さすがはルシード様が認めた方だ、実家が取り潰しになったとしてもスティレット家に迷惑をかけられない、そんな決意が見て取れた。
彼女の気丈な振る舞いにも気付かず、代わらず薄汚い下心で喚きたてる彼らには溜息しか出てきませんな。
「スティレット家はいつでも受けて立ちますぞ?」
そう言って睨みつけるとすごすごと退散して行きました。
ミリアからも感謝され、フォルスの時と同様ルシード様が予見していた通りだったと告げると感激しておりました。
ルシード様はエンルム家での御立場から、他者の厄介事を察知する能力に長けているのでしょう。
悲しい事ではありますが、今ではすっかりと元気で健やかに過ごされているルシード様を見て私はこれからも我が主の心安らかなる日々を守ろうと誓ったのでした。
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