第101話 卒業式後、始まりのダンスパーティー
初等部の卒業式が終わり、その後で恒例となっている生徒主催のダンスパーティーが開かれた。
殆どの生徒が初等部から中等部にエスカレーターで上がるだけなので、一区切りという意味合いが強いイベントではあったが、俺にとってはシバキア軍学校での最後のイベントになる。
ニーアさんの挨拶を聞きながら、俺はふとそんな事を思っていた。
マリー、モア、イザベラと順番に踊って行き、休憩しようとした処へ、
「ルシード」
俺を呼ぶ声に振り返ると、そこにはシルヴィオがいた。
けどいつもの男装したシルヴィオじゃなくて、ドレスを着た女の子の姿で立っていた。
「シルヴィ――――――」
思わず名前を呼びそうになった俺の口に指を当てると、
「シルヴィア。私の本名よ、この姿の時はそう呼んでくれる?」
イタズラっぽく笑うシルヴィアに、ほんの一瞬だけど見惚れた。
「わかった。そのドレスよく似合ってる」
「そう?ありがとう、その…………すごく嬉しい」
ドレスのスカート部分を摘まんで、くるくると回ったシルヴィアは今度は照れた様に笑った。
そして二人、見つめ合って沈黙が訪れる。
何かを訴える様な眼差しで、俺のことを見てくるシルヴィアにようやく察した俺は言葉を紡いだ。
「宜しければ、自分と踊って頂けますか?」
俺が芝居がかった動作で礼をして声を掛けると、
「はい。喜んで♪」
嬉しさが溢れ出るような笑顔を見せてくれた。
【シルヴィア視点】
ちょっと無理矢理言わせちゃった感があるけれど、どうにかルシードとダンスを踊ることが出来た。
ちらっと会場に目を向けると、マリーさん、モアさん、イザベラさんがこっちを見ていた。
その視線は私を励ますものであり、それが凄く恥ずかしかったけど嬉しかった。
「ねえ?ルシードは中央府へ行くって本当?」
「あぁ、本当だよ」
ルシードとの距離が近くてドキドキする。
だけど私にとって大事な事だから、ちゃんと言っておかないといけない。
「私の実家、中央府にあるの――――――だからね?だから……………中等部からは私も一緒の学校に通う事にしたから」
これじゃストーカーみたいでひかれちゃうかもしれない。
だけど一緒に居たかった。
あの三人が中央府に来ないのなら、これ以上無いチャンスだと思ってしまった。
そして都合よく男装を辞めて、女の子に戻った。
中等部からは女子生徒として学校に通うつもりだ。
「そうなのか?シルヴィアが居てくれるなら心強いな!妹たちは一緒だけど同学年に知り合いがいてくれるだけで安心感があるわ」
ルシードはひくどころか、喜んでくれた。
その笑顔が無性に眩しくて、直視できなかった。
それはきっと三人とは違って、私はまだルシードに気持ちを伝えていないから。
変な後ろめたさが胸の中に積もっていく、
「ルシード、私ね……………貴方の事が好き。大好きなの」
今後もずっとそんな気持ちを抱えたままで居たくなくて、私はルシードに告白していた。
これって言う出来事が在ったわけじゃない、いつの間にか――――――本当に気が付けば視線で追いかけて、一緒に居たいと思って、好きになっていた。
ルシードは私の告白に目を見開いて驚いてたのも一瞬、目を閉じて黙り込んでしまった。
そうだよね…………急にこんな場所で言われたって困るよね?
それに今告白しちゃったら、中央府まで追いかけてるのがバレバレで、今度こそ気持ち悪いって思われるかもしれない。
「ありがとうシルヴィア、今少し考えてみたんだ。シルヴィアの事を俺はどう思ってるんだろうって…………答えは結構すぐに出たよ。俺もシルヴィアの事好きだ」
信じられなかった、ルシードの言葉を疑う訳じゃない。
告白を受け入れてくれた、言ってしまえばただそれだけのなのに……………天にも昇るような気持だった。
「けど俺は他にマリー、モア、イザベラ、サリアって相手が居るし、中央府のシスカって娘とも友だちから始めてる状態だ。大切にするつもりは勿論在る!だけどきっと寂しい想いもさせると思う、それでも良いのか?」
もぅ………ルシードったら、私が幸せな気分に浸ってる時にそんなつまらない事考えてたんだ?
「その時は同じく寂しく過ごしてるルシードのお嫁さんたちと、ルシードの愚痴を言い合ってると思う。寂しい想いをさせたって思ったら、一緒に居る時はそれ以上に愛してくれたら私はそれで良いよ?」
そう、きっとマリーさん、モアさん、イザベラさんたちとならば楽しくやれる。
一緒になってルシードの事、家の事も盛り立てていける。
独り占めしたい欲求は確かにある、だけど――――――、
「ルシードは可愛い奥さんたちの愚痴も聴いてくれないの?」
私が挑発的に笑うと、ルシードは同じように笑ってくれた。
そして、
「んなわけあるかよ!ルシード・スティレットの文句は俺に言え!幾らでも聴いてやらぁ!」
うん。それでこそ私の好きなルシード・スティレットだよ。
初等部最後の思い出になるダンスパーティー、そこで私はようやく始まったんだ。
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