第91話 何より目障りだ!!
地下へと降りた俺はそのまま一本道の先にあった部屋の扉を蹴破った。
そこは石造りの寒々しい小さな部屋だった。
簡素なベッド、机と椅子が二つ並べて置いてあり、そこでマリーとテオドアが座っていた。
テオドアは飛び込んできた俺にびっくりしているが、俺は見逃さなかった。
テオドアの野郎が、マリーの手を握っているのを――――――。
マリーは俺の事なんて目に入らないのか、嬉しそうにうっとりと微笑んでいる。
ベルスターの野郎は協力なんて言ってたが、今はそんな状況じゃねーよな?
テオドアに対して殺意が込み上げて来る。
「おいテオドアぁ!!マリーに何してんだ!!」
「し、してないッ!まだ何もしてないッ!!」
俺が叫んだ気迫に圧され、テオドアが弁解する様に口を滑らせた。
ほほぅ…………それはつまり、何かやるつもりはあったって事か?
ふざけんな!させるわけねーだろうが!!
あれだけ部の為にだ何だと教室で偉そうに宣ってたくせに、結局テメェもマリーにそう言う感情持っててワンチャン狙ってたんだな。
テオドアが焦り始めて手を放すと、マリーが漸く俺の方を向いた。
ベルスターの話だとマリーは今テオドアを俺だと認識してるらしい、じゃあ俺の事はどう見えてる?
「貴方、誰?私たちの勉強の邪魔をしないでくれるかしら?」
確信した、マリーは今俺をルシードだと認識できていない。
そしてその可能性も考えなかったわけじゃないが、実際に冷たく言われると結構堪えるもんなんだな。
テオドアはそこで嫌らしい笑みを浮かべると、
「マリーそいつは俺たちを殺しに来た敵だ!!」
コイツ…………余計な事を言いやがって!!
悪いことしてた自覚あるなら観念しろっての!!
マリーの目がより一層細められ、完全に敵認定されてるっぽいな。
アーサーのおかげでここまでは温存できたけど、それでもマリーを相手にするのは正直キツイ、それにテオドアの奴も邪魔する気満々のようだし。
あー厄介な状況だな、くそが!!
「マリー!!正気に戻れ!!ルシードは俺だ!!」
「ふざけないで!貴方の何処がルシードなの!」
俺にはマリーがどう見えてるのかわからないが、随分と他人に見えてるらしい。
ヤベーなこれ、思ってたよりダメージデカくて何か泣きそうだわ。
「マリー、コイツを倒したらデートしよう!」
「ルシード…………」
イラッ。
先にテオドアを沈めよう、そうしよう。
マリーを大人しくするにしてもアイツは邪魔でしかねーし。
何より目障りだ!!
「他人の嫁(仮)とイチャコラしてんじゃねぇ!!」
俺はマリーの放つ攻撃魔法にも構わずテオドアに突っ込んで行った。
そしてそのままの勢いでテオドアの唱えようとしていた魔法の魔法陣をぶち抜いて、テオドアの鼻っ面に拳を叩き込んでやった。
「ルシード!」
マリーはテオドアを巻き込む可能性を考慮して大掛かりな魔法の使用を避けていた。
そのおかげで俺の残り少ない魔力でも防ぐことが出来た。
その間に俺はテオドアの胸ぐらを掴み持ち上げると、
「おい、何寝てんだよ?こんなもんでお前らのやった事が許されると思ったら大間違いだぞ?」
「ゆ、ゆるひへぇ――――――」
「はぁ?許すわけねーだろ?」
鼻血を出しながら泣いて許しを請い始めるテオドアに、もう一度顔面に拳を御見舞いしてやる。
歯と鼻が折れた感触がするが知ったこっちゃねぇ。
この程度で俺の怒りが治まると思うなよ?
「ほら、お前は今ルシードなんだろ?だったら根性入れてかかって来いや!!俺はその程度で泣いて謝ったりしねーぞ!?オラ!立てよ!!!」
マリーの魔法を防ぎつつ、テオドアにラッシュをかける。
立てなくなるまで殴り倒し、その後は蹴り、踏み、終いには硬い石畳に叩きつけた。
まぁ骨は折ってやったが、まだ原形は留めてるし死にはしねーだろ。
ボロ雑巾の様になったテオドアの惨状に、マリーが涙する。
「あ、あぁルシードが…………」
さて、次はこっちだ。
近付く俺をマリーが睨みつける。
さっきの情けない姿を見てもまだマリーはテオドアを俺だと認識しているらしい。
ベルスターの野郎………どんだけ強力な薬盛ってんだよ、後でぜってー沈めてやる。
「マリー、話を聞いてくれ――――――」
「貴方なんかにそんな風に呼ばれる筋合いはない!!」
出来るだけ敵意を感じさせないように両手を広げて近付いたんだが、マリーはお構いなしに魔法を撃ってきた。
けど部屋全体を凍らせたりしないのはルシードだと思ってるテオドアを気にしての事だろう、そういうところが本当にマリーらしくて――――――。
「何を笑ってるのよ!?」
どうやら俺は笑っていたらしい。
それが余計にマリーを苛立たせたみてーだが、その一言で俺の腹は決まった。
全力でタックルしてマリーを抱きしめる、魔法では敵わねーけど単純な力で言えばもう俺の方が上だからな。
「放しなさい!こんなことして――――――」
途端に寒気が襲ってくる。
マリーが冷気で俺を氷漬けにしようとしてるらしい、それには俺も全力で抗わせてもらう!
残り少ない魔力の全部を使って身体を温める。
けどそれも束の間の時間稼ぎにしかならない、魔力の総量で言えばマリーの方が上でまだまだ余裕があるだろう。
指すような痛みと共に徐々に手足の感覚が無くなって来やがった……………。
立っているのも辛くなり、俺はそのまま壁にもたれて座り込む。
マリーは抵抗してるけど、まだ俺の腕から逃れられずに膝の上に座り込んだ。
「貴方、このままだと死ぬわよ?早く放しなさい」
「ヤなこった。マリーを抱いて死ねるんなら悪い死に方じゃねーよ」
「くっ、またマリーって――――――」
あーヤベー…………寒いと眠くなるのって本当なんだな…………。
まぁでもベルスターの野郎もテオドアの野郎もざまぁ見ろだ、マリーをこれ以上お前らの好きにさせて堪るかってんだ。
あまりの眠気に何度も意識が飛びそうになって――――――。
「ルシード!!」
おー、アーサー………………ベルスターの野郎はぶっ飛ばしたんだな?
「待っていろ、すぐに彼女には解毒剤を飲ませるから!!」
解毒剤、そっか……マリーは元に戻るんだな、良かった………。
あれ…………?そういえば俺、アーサーに名前言ったっけ……………?
俺はそのまま吸い込まれる様に意識を失った。
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