第84話 呼ばれる筈無かった名前

【シルヴィオ視点】


マリーツィアさん、イザベラさん、モアさんの三人に校舎裏に呼び出されてしまった。

この三人からの呼び出しともなれば、自然と話の内容もルシード絡みだと容易く想像できてしまう。


私が気持ちを自覚してしまってからここ最近の行動を振り返り、激しい後悔が押し寄せて来た。

ルシードの傍に居たい、そんな衝動に突き動かされ、あと少し、もう少しなら大丈夫………そう勝手に自分を納得させてその欲求を満たしていた。


ルシードは優しいから私の行動が行き過ぎていると諫めてくれる。

それが何故だかとても嬉しくて、もっともっと近くに居たくなる。


それこそ、あの三人から奪ってしまいたくなるくらい――――――。



けれどもそれは出来なかった。

何よりルシードが彼女たちを大事に想っているのを知っていたから。

嫌われたくないもんね?好きな人なら尚更。


けど私の気持ちは彼女たちにはバレバレだったみたい。

それもそうだよね?だって自分が抱いてる気持ちと同じものなんだから。




「シルヴィオくん、貴方は女の子なの?」


校舎裏に行くと、マリーツィアさんから単刀直入にそう問われた。

参ったなぁ…………マリーツィアさんも他の二人ももう私が女子だって確信してる。

誤魔化しを言うだけなら簡単だった、でも私は言いたくなかった。


好きという気持ちに嘘を吐くようで、自分でその気持ちを汚すようで出来なかった。


「うん…………。私は、女子だよ」


思った以上にすんなりと言葉が出て来てくれた。

三人はそれを聞いても驚かなかった、やっぱり………そんな雰囲気だった。

私はそこから三人にはルシードと同じくある程度の事情を説明した。



「――――――という訳で、この学校では男子生徒として通わせてもらってる」


「ルシードはその事を知ってますの?」

「勿論、知ってるよ。彼が入寮してきた初日にバレてね?それから度々正体を隠すのを手伝ってもらったりもした」


「何よそれぇ――――――」


私の発言に怒りが込み上げて来たのか、マリーツィアさんが俯いて拳を震わせていた。

怒るのも無理もないと思う。

みんなを未だに騙しているじゃなくて、ルシードもそれに加担させてしまっているのだから――――――。


「ルシードのプライベート覗き放題じゃない!!」


…………………は?


「寮で同室なのでしょう?それならきっと私たちも知らないルシードの寝顔なんかも見た事あるって事でしょう!?」


マリーツィアさんの叫びにイザベラさんとモアさんの二人も反応する。

この流れはマズい、断罪されてしまう!


「で、でもルシードのペアは私なんだから!譲らないからね!」


……………え?


何故かマリーツィアさんに勝ち誇る様に言われてしまった。


「それならばわたくしは初めておんぶされましたし!ダチと言ってもらえましたもの!」


マリーツィアさんに張り合う様にイザベラさんが声を上げる。


「それなら私だってルシードくんに虐められてる処を助けてもらったし、デラくんからも守ってくれた!ルシードくんが作った髪飾りだって持ってるもん!!」


何故かモアさんもそれに参戦してきた。

もう私を一人蚊帳の外にして三人は睨み合う、何だかそれが無性に腹立たしかった。

私だって――――――。


「私だって一緒に寮で過ごしてて、着替えを見られた事だってあるし!一緒のベッドで寝た事もあるんだから!」


もっと言えば、最近休みの日に居ないルシードのベッドで色々としちゃってるんだから!!


私が三人に割り込むように叫ぶと、彼女たちはそれぞれ――――――。


「なーんだ。やっぱりシルヴィオくんも一緒なんだね?」


あっけらかんとにっこり笑って言うモアさんに、訳が分からず。


「ルシードの事、好きなんでしょ?」


マリーツィアさんが大人びた笑顔で尋ねてくる。


「ふふふっ。歓迎致しますわ」


イザベラさんはどこか挑発的な笑みになり、歓迎されてしまった。


ルシードの事が好き、それは紛れもない事実。

最近思い至ったばかりの気持ちだけれど…………、


「ルシードにその想いを告げるのかは貴女が決める事よ?」

「だけど私たちに遠慮するのは違うからね?」

「ごめんあそばせ?少し意地悪をし過ぎてしまいましたかしら?」


三人とも、此処には私を糾弾しに来たわけじゃなかった事を漸く理解した。

彼女たちは私の想いを確認しに来てくれただけなんだと…………。


「良いのかな?一緒に居ても、好きで居ても」


自然に溢れてくる涙が止まらない、拭っても拭っても。

そんな私を彼女たちは優しく、受け入れてくれた。




「――――――………という事で、シルヴィオも今日から紫陽会の一員ね?」

「あ、マリーツィアさん………二人も、私の本当の名前はシルヴィアっていうの、出来たらそっちで呼んでもらえたらなって――――――」


今までこの学校で生徒の誰にも教えてこなかった私の本当の名前、呼ばれる筈の無かった名前を皆には呼んでほしいと思った。


「それならシルヴィーちゃんだねっ♪私もモアで良いよっ」

「私もマリーで良いわ。宜しくシルヴィア」

「どうかわたくしの事もイザベラで構いませんわ」


今日この日、初めて私に同性の友だちと、ライバルと、仲間が出来ました。

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