悪友よ共に

第85話 一回戦はストレス発散!?

模擬戦大会の準備期間が始まった。

毎年恒例行事で、今年で六回目ともなれば緊張も適度なものだ。

練習期間に突入した俺たちは、


「ルシード、そこ間違ってる」

「…………はい」


これも毎年恒例となったマリー主導による勉強会を開いていた。

マリー曰く、やっぱり俺に足りないのはこっち側らしい。

悔しいけどその通りだと思うから、俺も大人しく教わっている。

そこへロウファがやって来て、


「チャンピオンは余裕だなぁ?」

「余裕なんてないっての、今のうちにやっとかねーと間に合わねーからな」

「座学の話をしてんじゃねーよ!?」


「ロウっち、どうどう」


続いて入って来たベルタが早速大声を上げるロウファを宥める。


「今年は優勝なんてさせねーぜ?俺とベルタのコンビが優勝するからな!」

「ロウっち、始まる前からあんまりそーいう事言わない方がいーよ?」


今から熱くなっているロウファに対し、ベルタは落ち着いたものだった。

そこだけ見れば、この二人はとても良いコンビなのかもしれねーわ。


「ルシドっちはもうテスト勉強してんだね♪」

「あぁ、マリーのおかげで毎回点数を引き上げてもらってる。感謝しかないな」


何気なく会話しつつ、ベルタが俺の隣に座ってノートを覗き込む。


「ウチも勉強しようかな…………最近ヤバいし」

「ヤベーと思うならした方が良いぞ?例え付け焼刃でも無いよりマシだ」

「それもそだねー♪」


「おいっ!勉強よりも今はまず模擬戦闘試験大会だろ!?」


早くも教室で和み始めたベルタ。

ロウファが泣きそうになってるからもうやめてやれよ…………。



「二人とも邪魔しに来たのなら何処かへ消えてくれない?」


二人が来てからずっと黙って居たマリーが絞り出すように言葉を発した。


「あぁ言われなくても用事を済ませたら直ぐに出てくよ………おいルシード、大会で逢うのを楽しみにしてるぜ?俺もベルタも正々堂々全力で勝ちに行くからな!」


ロウファはそれだけ吐き捨てる様に言うと、俺たちに背を向けて教室から出て行った。その光景を一緒に見送ったベルタはゆっくりと立ち上がると、


「ごめんね?ロウっちってばウチが思ってたより熱くなっちゃっててさぁ、排熱をルシドっちにも手伝ってもらっちゃった♪マリーツィアさんも邪魔してごめんね?」


マリーに謝ると、ベルタは手を振って教室から出て行――――――こうとして顔だけ戻って来ると、


「ウチも婆ちゃの前で恥ずかしい試合するつもりないし、勝ちに行くから―――――そんだけ、じゃ~ね~♪」


…………冷静に見えたのはロウファが熱くなってるから抑え込んでただけか。

まぁそっちの方がベルタらしい――――――って痛ぇ!!

マリーの方を見ると、頬を膨らませて俺のケツをつねっていた。


どした?何で俺はケツをつねられた?


その後暫く機嫌は治らず、宿題まで出されてしまった。

解せぬ。


オーズさんが執り行う予選も無事に通過し、後は大会の開催を待つだけになった。

大会に出場するのがほとんど知り合いなことには驚かない、みんな実力をつけて来てるのは知ってたしな。


そして大会を明日に控えた日の夜、寮であとは寝るだけとなった時に、


「ねぇルシード、この大会が終わったら話があるんだ。聞いてもらえるかな?」


いつになく真剣な表情をしたシルヴィオの雰囲気に気圧され、俺はふざける事もせずに「わかった」と頷いた。

きっと今じゃダメな話なんだろうから、急かすのも良くないだろう。

お互い全力で戦おうと激励し合い、大会当日を迎えた――――――。





去年の優勝ペアだからといってシード権の優遇などは無い。

正々堂々勝ち上がり、残った者が最強。分かり易くて良い。


初戦の相手はなんとモアとティムのペアだった。

けど実習でのアイツの実力を見た感じだと、此処まで上がって来れたのは単純にモアによるところが大きいだろうな。

モアのペアを決めるという公平なじゃんけんの結果らしいんだが、大丈夫かよ?

既にモアがなんかイライラしてるんだが?

それにも気付かずティムは相変わらずぺらぺらと喋り続けている。


「ルシード、モアの相手をしてあげて?そうでもしてあげないと不憫だわ」

「良いのか?」


まぁ俺は相手が誰だろうと構わねーけど、


「私はアレを一秒でも早く消す事が求められてる気がするの」


…………あー、確かにモアの方からひしひしと「やっちゃって!」という意思を感じる。

モアからすれば大会に出さえすれば問題無い点数取れるから、それまで我慢してたんだろうな…………。



ファナル先生の試合開始の合図で俺とモアが、マリーとティムが相対する。


「ルシードくんごめんね?ちょっとだけストレス発散に付き合って!」


そう言うとモアは一気に加速して殴り掛かって来た。

俺は武器を捨てて、その拳を受けるとカウンターを放った。


モアはゴリゴリの肉弾戦を得意とする。

武器はガントレットだが、今回は装備していない。

本当にストレス発散なんだろう、今のモアは暴れられればきっと満足なんだ。


「ぐはっ!」


そして開始即行でティムはマリーの魔法で吹き飛ばされていた。


「ぼ、僕が負けてもきっとモアさんが仇を取ってくれるはずさ…………モアさん後は頼ん――――――」

「さっさと消えなさい!」


おいおい、マリーが氷晶獣の一撃キュリアス・キャノーまでティムにぶっ放したぞ?

あーあ、ティムのやつは大丈夫か?

ユニコーンに跳ね飛ばされてぴくりとも動かなくなったんだが?


「ちょっとマリーツィアさん!幾ら何でもやりすぎ――――――」

「彼、試合中なのにモアさんの胸ばかり見て――――――」

「続行!!ティムくんは早く立ちなさい!!」


止めに入ろうとしたファナル先生に、反論したマリー。

その内容を察すると、倒れたティムに檄を飛ばした。

ティム…………気持ちは解らんでもないけど、時と場所を考えろ。

お前ってそんなにエロに全力で生きてたか?優等生はどうした?


「ルシードくんはよそ見してる場合かなッ!!」


マリーの方を気にしていた俺に、モアが体重の乗った良いパンチを打ってくる。

モアと手合わせするのは別に初めてってわけでもないから、こっちはスパーリングしてるような気分になっちまうんだよな…………。


その後暫く付き合ってやると、汗を拭ったモアが、


「うん。やっと気が済んだよ、ありがとね?」


そう言って棄権して、俺たちは勝ち進むことになった。


「俺も充分身体が温まったし、ありがとな?」


お互い握手をして試合終了となった。

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