第83話 定例会議の真意

【イザベラ視点】


「これより、ルシードファンクラブの定例会議を始めたいと思います」


私の宣誓に、空き教室に集まっていた同志たちが拍手し開会となりました。

此処はもう使われていない空き教室、月に一度そこを使って行われるのがルシードファンクラブ定例会議。


参加者は現在末端を含めて二百人程度でしたかしら?

この空き教室に居るのはそのファンクラブの主要メンバーのみ、ルシードの髪の色に準えて紫陽会などと呼ばれておりますの。


因みにわたくしが会長、マリーさんが副会長、アイリーンさんが書記。

モアさんとミモザさんが宣伝・広報担当。

ファナル先生が顧問、リズベット先生が副顧問。

そして相談役としてニーア校長先生が居りました。


始まりはわたくしたち三人でルシードに寄りつく女子たちに距離を置かせるために創った組織だったのですが、あれよあれよという間に会員数が増えて行きいつの間にやらシルヴィオファンクラブ――――――通称銀月会と人気を二分する程の組織となっておりました。


勿論、ルシードには非公認ですわ。


ですが、御母上であるミューレ様からは紫陽会で発行している会報を必ずお納めする事を条件に許可を頂けましたのですわ。

賄賂?おだまりなさい!



「さて、本日皆さまに集まって頂いたのはとある議題について議論するためですわ」


わたくしがそう言うと、マリーさんとアイリーンさんがプリントを配り始めます。

全員に行き渡ったのを確認して、わたくしはゆっくりと会議を進めます。


「まず最初の議題は『ルシードに最近近付く謎のギャル、その正体について』ですわ、これについては顧問、副顧問、相談役である先生方の協力もあって早期にその正体を突き止めることが出来ました。御協力に感謝致しますわ」


「お手元の資料1ページから3ページにかけて彼女――――――ベルタについて記載されております」


マリーさんが資料についての説明を行います。

そつなくこなしてくださるのでとても助かっていますわ。


「何か質問がありますでしょうか?」


「はい」


アイリーンさんと同学年の子が毅然と手を挙げていたので発言を促すと、


「その彼女を私たちで迎える事はあるのでしょうか?」


「それについてはまだ未定ですわ。まだ本人の意思確認が出来ておりませんの」


ホッとしたような落胆したかのような、判断に迷う溜息が聞こえてきます。


「そして本日皆様に集まって頂いた主な議題『ルシードとシルヴィオについて』ですわ。マリーさん――――――」

「――――――はい。近頃シルヴィオくんがルシードとの距離を急接近させています。一部女子たちには目の保養となっているようですが、このままではルシードが引き返せない所まで行ってしまうのではないか?という声が会の中でも多数挙げられています」


マリーさんが報告を終えると、ファナル先生、リズベット先生、ニーア校長先生が何とも言えないバツの悪そうな顔をしています。

何か御存知なのでしょうか?

このまま見て見ぬ振りは出来ませんから、御三方に直接問いかけて見る事にします。


「先生方から見て、あの二人の距離感というものはいかがお考えですか?」


「えーっと、まだ問題では無いと思いますよ?」


リズベット先生が奥歯にものが挟まった様な物言いをして、ニーア校長先生もそれに追随するように頷いています。

ファナル先生も首肯している事から問題は無いと考えておいでなのでしょう。


「では、これについては引き続き動向を見守るという事で宜しいでしょうか?」


「場合によっては銀月会の人たちとも情報交換する必要も出て来ると思います」

「その通りですわね、ではあちらとの連絡はモアとミモザさんにお任せしてもいいかしら?」


「うん。わかった」

「りょーかいです」


定例会を開いたものの、報告会と変わらない結果に知らず息を吐きました。

あぁそうそう、言い忘れてしまうところでした。


「最後になってしまいましたが、リズベット先生がこの度オーズ先生と結婚なさるそうです。皆さんで拍手で祝福したいと思います」


わたくしの言葉を合図に、全員が立ち上がってリズベット先生に向けて拍手をします。

リズベット先生は恐縮しながらもとても幸せそうな良い笑顔をしておりました。



祝福ムードの中、もう一つ皆さんの耳に入れておきたいことがあったのを思い出したのを装って告げる事にします。

と言うか、寧ろこちらがわたくしたちにとっての本題なのですが。


「最後にもう一つだけ、シルヴィオ様が女子ではないか?という噂が男子の間で流れているのは御存知でしょうか?」


そしてわたくしが言った途端、ファナル先生が顔を強張らせたのを見逃しませんでした。


「面白い噂ね~?男子の間でそんな噂が流れているの?」


ニーア校長先生はさすがというところでしょうか、顔色一つ変えず話に乗ってきます。リズ先生はもう幸せの世界に旅立って聞こえていないのかもしれません。




定例会が終わった後、わたくし、マリーさん、モアの三人が空き教室に残りました。

話は今日の定例会の先生方の態度についてですわ。


「先生たち何か隠してるね」

「えぇ。少なくともお母様は間違いなく何か誤魔化してる風だったわ」


身内の証言はとても心強いものですわね……………。

何一つ確証などはありませんけれど、シルヴィオ様が女子であるという疑いが濃くなってきました。


勿論、男子の間でそのような噂は流れておりません。

ではなぜそのような事を先生方に聞いたのか?

それはある日の事、移動教室でルシードとシルヴィオ様が並んで歩いていた時、丁度わたくしたちはその後ろを歩いておりましたの。


階段でシルヴィオ様が足を踏み外してしまった時、


「きゃっ――――――」


あのシルヴィオ様からとても可愛らしい、悲鳴が漏れたのをわたくしたちは聞き逃しませんでした。

幸い隣に居たルシードが抱き留めたのでケガもありませんでしたが、シルヴィオ様はそれ以降ずっと赤面していて、ルシードをちらちらと何度も見ては更に頬を染めるという乙女極まりない事を繰り返していました。


その頃にはもうわたくしたちの中にも可能性は二つしか考えられませんでした。


男の娘か、純粋に女子なのか――――――。


どう見てももう恋する乙女にしか見えないシルヴィオ様、ただ前者であった場合はデリケートな事過ぎるという配慮で何も聞けませんでしたが、今日の先生方の様子を見て後者である可能性が高いですわ。



そしてわたくしたち三人は普段誰も近付かない校舎裏にシルヴィオ様を呼び出し、直接訊いてみる事にしましたの。

知ってどうするつもりもありません、ただ同じ人を好きな者同士仲良くしたいというのが本音でしょうか。

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