第78話 バ・アント変異種（赤）討伐戦
向かってくる俺たちに赤と緑のバ・アントは迎え撃つつもりのようだ。
緑は少しだけ後ろに下がり、赤が前に出て来る。
戦闘スタイルを考えれば妥当な布陣、それだけでもその二匹の異様さを感じることが出来た。
赤が大勢を低くしたかと思うと、次の瞬間一瞬で先頭を走る俺との距離を詰める。
ちっ――――――！
咄嗟の事に判断が遅れ、赤の鋭く尖った前脚が俺に振りぬかれた。
何とか剣を抜きその一撃を叩き落して互いに距離を取る。
俺に続いていた連中はその攻防だけで足を止めちまう、だけどそれじゃダメだ！
「ロウファ！！コイツは俺とヨードで抑える。お前は緑の方を頼む！」
「わかった！緑の方をやるぜッ！？半分俺に付いて来い！！」
そうして赤を迂回して緑の方に向かっていくロウファたちを赤が攻撃しようとするが、
「させないよ！」
その前にヨードが盾を構えて立ち塞がった。
「みんな、僕一人じゃコイツの速さに対応できない！だからまずはコイツを牽制して釘付けにするッ！！」
俺がオーズさんによくやる様に、先ずは相手の脚を狙って釘付けにする。
拠点が近くにあって、援護がいつでも受けられる状況下だからこそできる持久戦、それはヨードの独壇場だ。
俺も出来るだけ足を止めさせるように攻撃を繰り出して行く、他の奴が足を止めてる間に背後から剣で斬りかかるが――――――、
「か、硬ってぇ………………」
硬質な者同士がぶつかり合う甲高い音が響いて、俺の手に衝撃が跳ね返ってくる。
まだそんなに摩耗も損傷もしていない剣を選んだんだが、それでもここまで刃が立たないとは思わなかった。
硬い鉱石をそのまま殴りつけたような感覚に舌打ちする。
それを見た仲間の一人がベルタ率いる援護班へと駆けて行く。
強化魔法の効果を上げる様に頼みに行ってくれたんだろう、助かる。
剣がダメならコイツはどうだッ！！
雷の斧が空気を震わせ、赤のバ・アントに直撃する。
けどそれも一瞬の出来事で、直撃してすぐに斧は消失、赤のバ・アントの外殻に僅かな傷を付けた程度で相手はケロッとしている。
ダメージは入ったようだが、微々たるもんらしいな…………。
結構自信があった魔法だったんだが、ここまで通じないとは思わなかった。
「凄いね。あの赤いバ・アントに傷を付けちゃったよ…………」
ヨードはその結果に苦笑いしてる、仕留めるつもりだった俺からすれば不満の残る結果だ。
そんな一瞬の隙を向こうは見逃さなかった。
俺との距離を一気に詰め、その鉤爪の様な足の先端で器用に俺の頭を掴むと、俺はそのまま地面に叩きつけられた。
少しだけ、意識が飛びそうになった――――――。
それを気合で取り戻すと、俺は剣の切っ先を足の関節部分――――――節に突き立てる。
手応え、有りだッ！！
「みんな聞けぇっ！！関節だ！！関節を狙え！！そこなら外殻部分よりも脆くて刃が通る！！」
知り得た情報はすぐに全員で共有する。
特にこんな強い奴相手なら尚更それが役に立つこともある。
漸く俺たちの事を嬲り殺しにする対象から、明確な敵に変化させたのか赤いバ・アントが激昂したように俺に追撃しようとする、そこへ――――――。
「やらせないッ！！」
盾を構えたヨードが体当たりして赤を撥ね退け、そのまま俺を背にカバーに入ってくれた。
ありがてぇ……………今のうちに、少しでも頭をシャキッとさせとかねーと。
まだちょっと足がふらつくけど、徐々に回復していってる、まだイケる！！
「助かった、ありがとな？」
俺はヨードの肩を叩いて礼を言う。
「今回は偶々間に合って上手く出来ただけだよ、次は無いと思ってね」
「あぁ、期待してる！」
ヨードは口ではこんな事を言ってるが、実際同じことがあれば同じように助けてくれるだろう。
それくらいはこの実習中に見て来てわかるようになった。
ヨードの背後から出て並び立ち、カバーしてくれていた仲間と相対する赤いバ・アントを見る。
相変わらず二足歩行というか二本足で立ってて気持ち悪い、前脚と中脚が俺たちで言うところの腕だろうな、器用に腕を振って攻撃と防御を両立させてる。
強ぇーな…………サイズ的にはオーズさんよりも少しだけ背が低い程度なんだが、それでもまだまだガキの俺たちに比べりゃ大きい。
虫と変わらねーってのに、此処迄強いなんてなぁ素直に驚きだ。
ギチギチと気持ち悪い音を立ててヤツのアゴが動く、笑ってやがるのか？
「もう大丈夫だ！代われッ！！」
俺がそう言って駆け込むとともに、今まで相手をしていた生徒が下がる。
俺とヨードで何とか喰らい付いてる状態、ロウファの方なんて気にしてる余裕もねぇな。
徐々に体から力が湧き上がってくるのを感じた。
どうやらさっき報告に行ってくれた仲間がベルタに頼んでくれたんだろう。
隣に居るヨードと目を合わせて頷き合う、
「余力を作ってもらった今のうちに、そろそろ撤退も視野に入れておいてくれ！！徐々に結界の傍まで後退するぞ！！」
俺たちは少しずつ戦場を結界の傍まで移動させていく、向こうはこっちを追う立場だからついてくるしかない。
このままだと限界が来た時にオーズさんの到着が遅れる、だから近くに居てもらう。
保険をかけてるようで癪だが、みんなの命には代えられねぇ。
それに拠点に近付くほど俺たちに施されたベルタの強化魔法の効果が上がる。
効果の薄い所で戦って俺たちの実力で油断させ、ベルタに強化してもらった力で仕留める。
脆い部分が早く見つかったのは嬉しい誤算だった。
赤はどうやら関節部分への攻撃を警戒し始めている。
けど全部は守り切れねぇだろ？
俺が赤に突撃する最初の様に迎撃しようと前脚を振るうけど、強化のおかげで対処は簡単だった。
俺はその攻撃を躱し、赤の背後に回る。
赤が俺の方へと向いたところに、ヨードが背後からもう一度
ダメージは殆ど無いだろうが、赤の意識が一瞬俺からそれて態勢も崩れた。
俺はその隙を見逃さず剣を思いっきり振りかぶる。
赤は咄嗟の事で今まで通り腕関節を防御した。
そうだッそれで良い、狙い通りだッ！！
甲高い音が響いた刹那――――――。
赤の首がごとりと地面に落ちた。
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